第8話 相談しようそうしよう
「豊。昨日より顔色はいーけどよ、やっぱ様子が変だぜ」
雷太は手元の菓子パンを一口食べた。むにゅりとクリームが押し出され、彼は慌てて口をつけ事なきを得る。
「そんなに変か?」
「変だ。ずっと上の空で授業にも集中していない。額には汗をかいて、眼は充血。これで正常なんて嘘だね」
両手を広げてペラペラとそんなことを述べる。間違いなく、昨日21時から放映していた超能力メイドが活躍する刑事ドラマに影響されたな。
「……まあ、自覚はある」
「お、自供するんか」
やっぱ相談するのやめっかな、なんて思っていたが、そんな俺の考えを見透かしたように「うそうそ、続けたまへ」なんて雷太は笑う。
「……き」
「きぃ?」
「気になる人、が……」
「……マジ?」
キョトンとした顔の雷太がそう言い、俺は重々しく頷く。
「おおー!おめでとうな、豊!」
バンバンと思い切り背中を叩かれるが、俺は気恥ずかしさでそれどころではなかった。
「まだめでたくはないよ……」
「いいや、めでたいね! お前がそんなこと言い出すとはなあ」
爽やかに笑う雷太に眩しささえ覚える。ほんと、良いやつだよ。恥ずかしいから正面切って言いはしないがな。
「んで、どこの誰なん?うちのクラスか?」
「いやクラスは分からないんだ。というか学年も多分一年だけど、自信ない」
「そうなんかー。まあ、苦しいかもしれんが焦らずに行こうぜ!」
「そうだな……ありがとう、少し落ち着いたよ」
自分の胸のうちを吐露したせいか、なんとなく気が軽くなった。
「うん。まずはどうにか話しかけて……いや遭遇するところからだな」
「おう! あくまでも自然に、だぜ。俺は友達全然いないからあんま協力できないかもだが、何でも相談してくれ!」
そう、雷太は何故か全然友人を作らない。周りとも上手くやっているし、話も上手く、根は優しい。しかし、いつも俺に絡むばかりで、他のクラスメイト達にはそこまで深入りしない。
「お前ももう少し交友関係を広げればいいのに」
「いや、めんどいし。ま、お前に恋人ができたら考えてやるよ。流石に毎日一人で昼食はイヤだしー」
「はいはい、できたらな」
雷太は残ったパンを口に放り込んでから、ぐっと伸びをする。俺も立ち上がり、腰を伸ばす。不思議なもので、ふわふわしていた俺の気持ちは固く押し固められたようにはっきりし始め、身体にはぎんぎらぎんと気力が充実していた。
よし! 頑張ろう!
◇◇◇
「えへへへへ……」
私は朝から携帯を出してはずっと彼の写真を見ていた。予想以上に私の手ブレは酷かったのか、半分以上の写真はぼやけてよく分からんくなっていた。しかし、その中でも会心の出来のものはあったので、速攻で壁紙に設定した。
うーん、すごくいい! すてき!
「れん、ちょっと……」
みっちゃんが眉をひそめつつ私に話しかけてくる。
「どうしたの?」
「あなた……いや、ここじゃあれかな。購買でパン買ってから校庭のベンチでご飯にしましょう」
「うん、いいよ」
こくりとみっちゃんは頷き、私達は連れ立って教室を出ていく。幸いにして購買の方はまだそこまで混んでおらず、昼食のサンドイッチをきちんと確保できた。二日連続でのちくわパンは流石にイヤだったので助かった。
校庭には桜が咲き誇っており、私達はその根本に置いてあるベンチに腰掛ける。
「いただきます」
二人できちんと手を合わせてからサンドイッチを一口頂く。トマトとレタス、そしてしっかりとした鶏胸肉がとても美味しい。これで200円なのだから、購買様々だね。
「んで、どうしちゃったの?」
じろりとみっちゃんは私を見てくる。
「ええー、どうもしないよぉ」
「ウソつけ! 昨日は顔真っ赤でぼんやりしていたと思えば、今日はずっとケータイを見てニヤニヤ。どう考えてもなんかあったでしょうが!」
う、私は傍から見ているとそんな不審人物になっていたのか。しおしおと少しだけ浮かれていた心が落ち着く。
「……笑わない?」
「話してみ?」
「……ちょっと、あまりにカッコいい男の子を、見かけてしまいまして……」
みっちゃんは牛乳を飲んでいたのをぴたりと止める。
「え、まさか……一目惚れ?」
「ち、違うよ! カッコいいっていうだけ! 見た目が理想的なだけなの!」
それを一目惚れっていうんじゃ、なんて彼女はがしがしとストローを噛みながら呟く。わ、私はそんなに惚れっぽくないやい! ほとんどそんな感じだけどさっ!
「もしかして、ケータイをずっと見ていたのはその男子の写真を見ていたんじゃないの?」
「う……」
「見せーい!」
そういって彼女は私の横に置いてあったスマホを取り上げる。そして、素早くインカメラを私に向けるとあっさりロックを突破する。くっ、顔認証が裏目に!
「って壁紙に設定しているこの男の子?」
「う……うん」
ここまで来たら逃れることもごまかすこともできない。私は顔を赤くして頷く。
「えー、うーん……カッコいいけどさあ、そんなに?」
「なんでさ!? すっっっっっっっっごい良いじゃんかあ!!」
私は立ち上がって大声で断言する。別に同意してもらわなくてもいいんだけど、ついつい熱くなってしまった。
「声が大きいよ! ま、まあ好みは人それぞれだし、ね」
気付けばここらで食事をしていたみなさんが、なんだなんだと私達の方を見ていた。
「ご、ごめん」
私達は変な感じになってしまった空気を誤魔化すべく、サンドイッチをぱくりと食べる。
「しっかし、そんな状態でさーこれからどうするの? いきなり告白でもするんか?」
サンドイッチが変なところに入って、私はごほごほとむせる。
「変なこと言わないでよ!」
「変じゃないでしょうに。その感じからしたらそう思うのがふつーだよ」
みっちゃんは呆れ顔だ。
「……そんなこと考えてないよ。まだ話したこともないんだし」
私は頬に熱さを感じたまま、オレンジジュースをちゅうちゅうする。
「おっけ、じゃあ探して話しかけにいこうよ!」
「えぇ! それは、その……ハードルがぁ」
「ここでビビってどうする、鐘乃れん! 人生は短いのだ、進めるときに進むのが一番だ!」
みっちゃんは明るく元気、そして少し強引だ。そういうところを好ましいと思うのだけど、私にその強引さが向けられているときは話が別である。
「え、え、え、ちょっと待ってよ!?」
「いいから、私に任せときんしゃいな! とにかく、放課後にでも聞いてまわろうよ! 決まりっ」
彼女は実に楽しそうだ。それは私の様子を面白がっている、というのも多少は含まれているだろうが、普段は大人しい私が初めてこんな風になっているから喜んでくれているというのが主な気持ちなのだろう。
幼馴染の私にはそれが分かってしまうからこそ、みっちゃんの提案を無下にすることができなかった。
……だ、大丈夫かなあ。
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