第7話 二度目の遭遇を果たしていない男子/果たした女子
時刻は朝七時。この時間に俺はまたしても校門前にいた。若干眠気はあるものの、そこそこ睡眠時間は確保しているので昨日のような不覚はとらない! ……といいなあ。
「よし」
俺は気合を入れるために顔をパンと叩く。今日はちゃんと彼女と出会うのだあ!
と、そこまで考えたついでに昨日彼女の顔をふにふにと触ってしまったことを思い出し、血液が顔に集中するのを感じる。
「……失敗は成功の母!」
昨日のことは失敗というより失態だけどな!
とにかく、俺は厳然たる決意を胸に玄関を開ける。若干へっぴり腰なのは、もちろんビビっているからだよぉ!
「おはよーございまーす」
昨日を再現するように声を掛ける。もしかしたら彼女から返事があるかも――なんて淡い希望が叶うはずもなく、そこには誰もいなかった。
一応、上級生の靴箱の方に行ってみたりしたが、期待していた人は影すら見えない。
「……そりゃあ、そんなに上手く行かないよね」
それでもがっくりと気落ちしてしまう。しかし、流石にこの玄関で待ち伏せするなんてストーカーじみた真似はできない。
「靴箱、開ける……」
もはや何の意味もないが、昨日の再現をしつつ、俺は悲しみを背負って教室に向かった。
◇◇◇
(かjsぃぅあshfんbk,じゃすyふぁsj,hfがsくy6れd!!!!)
声、というか言葉にならないし、できないし、していけない叫び声を、無理矢理口を抑えることで外に放たれるのを防ぐ。
時刻は朝七時。ある程度ぐっすり眠った私は再度この時間帯に校門に来ていた。考え事(もちろん彼のことだけど)をしながら歩いていたら、昨日より少し遅れてしまった。しかし、これが功を奏した。校門の前で立っている彼を見つけたのである!
(あああああああああああああああ! やっぱりノートとばっちり一致しているぅ!)
改めてその姿を確認してみても、私の妄想を食い尽くさんばかりの現実だった。つまり、超☆理想的。
(どどどどどどどどどど、どぅーしよう!?)
声を掛けてみようかしらっ?! ああでも、なんて言えば……!?
と、私が電信柱の影でうねうねしていると彼は校門を通って校舎の方に向かってしまった。
(あ!? まってまってぇ!)
私はその後ろ姿をこそこそと追いかける。できる限り音を立てないようにしているが、私の心臓は爆音を発しているので、彼に聞こえている可能性もある。
しかし、幸いにして彼は気づいた様子もなく、玄関扉に手を掛けて校舎に侵入する。私は校門に姿を隠しながらその姿を追っているものの、流石に距離があって良く見えない。
(はっ、ぶんめいのりき!)
私はスカートのポケットからスマホを取り出し、慌ててカメラを起動して一気にズームする。すると、ちょっとだけ荒いものの彼の横顔がばっちりアップで見えた。
「ひいいいいいい、カッコいい!もはや怖い!」
私の口からそんな叫びが自然と漏れているが、気にしている余裕はなかった。私は反射的にカメラを連射して、彼の横顔を次々とスマホに収めていく。心臓の高鳴るビートに合わせて結構手ブレしているが、私のスマホには補正機能があるんだい!
画面の中には少しだけ憂いを帯びた表情の彼の顔。私はその表情にもはや蕩けそうだった。
しかし、すぐに彼は靴箱の奥の方に消えていってしまう。おそらく教室に向かったのだろう。
「……っぷはあ!」
私はここでようやく呼吸を思い出し、はあはあとその場で手を膝について新鮮な空気を求める。朝から刺激が強すぎだろぃ。
「はっ……!」
こんな姿を誰かに見られていたら恥ずかし過ぎて、今後の高校生活に影響が!
ようやくそんなことに思い至り、慌てて周りをきょきょろする。すると……
「……」
目を大きく開きながら、箒を手に持って呆然としている用務員の村田さん(72)がいらっしゃった。
「……お、おはようございまーす」
私は反射的にそんなことを口にして、そのまま彼と目を合わせないように早足で玄関に向かう。理想の彼を見ていたときとは違う、変な汗が背中を伝い、写真の代償に嫌な意味での羞恥に襲われることになったのである。
……ぐえー!
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