第6話 夜、自室で悶々/夜、自室でモンモン!

 俺は黒歴史ノートを机から引っ張り出し、食い入るようにそれを眺めていた。普通なら睡眠不足で眠たいはずなのだが、俺の目はギンギンに冴えていた。

「……嘘だろ、本当に完璧過ぎる」

 すっかり焼き付いたの姿とノート内のの情報を照らし合わせても、一致していないところを探すのは困難だった。もちろん性格については全く分からないものの、少なくとも見た目という部分では完璧だった。

 というか完璧過ぎて怖い。

「これは……何者かの陰謀だっ!」

 椅子からばっと立ち上がり後ろを振り返る。当然誰もいるはずないし、凡庸に凡庸をかけ合わせた俺に対して一体どこの誰が陰謀に巻き込むというのか。

 というか、むしろ陰謀だったなら、それに巻き込んでくれたことに涙を流して感謝したいくらいだ。

 ぐぬぬ、とノートに顔を近づけても何かが変わるわけでもないのだが、何かしていないと落ち着かなかった。

「くっそ、どうしろっていうんだあ!」

 ノートをばさりと机に置いて、俺は頭をかきむしる。

「理想的過ぎる相手が急に出現……急展開過ぎてついていけねえ」

 『恋してみたい☆』とか、頭くるくる状態で昨晩の俺は考えていたが、実際その対象になる相手が目の前に現れて……正直、ビビっていた。

「……よし、なるようになる!とにかく、もう一度遭遇するところからだぁ!」

 俺はデスクライトを消して、真っ暗な状態でベッドに潜り込む。

 当然眠ることなどできずに、あーでもないこーでもないなんて考えながら、夜はまた更けていくのだった。


 ◇◇◇

 れんちゃん困っちゃう☆

 ……机の前でビシッとポーズを決めても何も状況は変わらない。私はしおしおと椅子に座って、目の前のノートを見つめる。

 目に焼き付いている彼の姿とノートに記載された下手くそな絵と説明文を比べてみる。

「うう……どうしよう、本当にばっちり一致しているんだもん」

 何度確認してみても異なるところはない。……まあ、絵が下手なので全然現実の彼のほうが格好いいのだけど。

「はっ! 誰かが私をはめようとしているっ!」

 私はばっと立ち上がり後ろ振りかえ……ようとして、膝を思い切り机にぶつけた。私は声を出すことも出来ず、座面の上で体育座りをしながら膝をさする。涙が若干出ているが、痛みのせいか情けなさのせいかは分からない。

「いや、落ち着くんだ、ウン!」

 誰もいない室内で自分一人、納得したように頷く。『なにしてるの……?』と言いながらドン引き表情のみっちゃんが脳裏に浮かび、少しだけ落ち着いた。

「……どうしよう?」

 結局問題はそこなのだ。『恋に恋する乙女☆』とか、JKにすら許されざる単語を昨晩口走っていたが、思い描いていた甘酸っぱい『恋』ではなくて現実に存在する男子にほとんど一目惚れしてしまったような状況だ。そら、情緒もジェットコースターになりますよ!

「いや、もしかしたら性格がぜんぜんアレな可能性もあるもんっ。結論を出すのは早すぎるよぉ-」

 そう、彼とまだ一言も話していない。本当に少しだけその姿を見たに過ぎないんだ。とにかく話してみて……いやハードルを上げすぎるのはよくない。まずは……

「遠目から、良く見てみるとこから!」

 私はそう結論づけると、デスクライトを一番小さくしてからベッドに飛び込んだ。

 ……もちろん眠れるわけないもんねー!

 結局、あーでもないこーでもないと考えながら夜は更けていくのだった。


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