色も形も無きものへ

若葉色

序章―はじまりの黒白赤

 昔々、あるところに、二つの王国がありました。表の国はソレイユ、裏の国は鏡の国リュネリア。それぞれ太陽ソレイユリュネリアを司る両国は、旧き盟約に従い、時折互いに手を差し伸べながら、さながら太陽と月のごとくに成り立っていたのでした。


 でも、現実はそううまくは行きませんでした。


 ある時リュネリアに起こった惨禍、しかしソレイユは救いの手を差し伸べるのが、ほんの少し―ほんの少し遅れてしまった。

 壊れかけた鏡の国を救うため、救えなかった鏡の国に報いるため、ソレイユ国王はリュネリアの第二皇女を妻になさったのでした。


 ところで彼の国王には、もう一人妻がありました。それはソレイユの重臣の娘でした。

 その方は二番目の妻にも理解を示し、三人が打ち解けるのにそう時間は掛かりませんでした。


 長年の愛を育てる、変わらず愛しい一の妃。そして、次第に心を許し、恋の芽生えた二の妃。


 ある年二人は、同時に御子を授かりました。どちらも、愛くるしいお姫様でした。


 美しい二人の妻と、可愛い二人の娘。守るべき者を得た国王は、身に余るような幸せを噛み締めておられたのです―。


 ***


 姫達が二つを数えた年の、冬の夜のことでした。その日は、真っ黒な夜空に朝から降り続く白雪が散り、それでいて大きな月が赤く輝く、何とも不気味な夜でした。


 城の奥から響く物音にただならぬものを感じ、国王はそこに走りました。


 辿り着いた部屋の中で二の妃―ミロワール様が倒れ、そのそばに一の妃―アロガネイア様が立っておられました。―短剣を握り締めて。


 息絶えたミロワール様を罵るアロガネイア様を、国王は捕らえるように命じました。

 妃と言えど、人を殺した彼女を許すわけにはいかない。苦慮の末のご決断でした。


 国王は考えました。

 二の妃が亡くなった今、その娘である二の姫もまた、危険に晒されるのではないか、と。ソレイユの貴族ではなく、リュネリアの皇族の末裔であることで、娘が疎まれることもあるのではないか、と。


 悩む国王の前に、一人の女性が現れました。リュネリアの女皇―ミロワール様の姉上であるルフレ様でした。


 妹の死を嘆き、国王を思う存分に罵倒なさった彼女は、国王にある提案をなさいました。

 それは、二の姫をリュネリアに引き取る、というものでした。姫の身を守るだけでなく、ゆくゆくは彼女をリュネリアの後継にしたい、ルフレ様はそうおっしゃいました。


 国王は姫の安全を喜ぶ一方、二人の娘が離れ離れになってしまうことを悲しまれました。

 そこでルフレ様は、もうひとつの提案をなさったのでした…。


 ***


 かくして、ソレイユで父のもと育てられることになった一の姫と、リュネリアで伯母のもと育てられることになった二の姫。


 二人が出会うのは、それからおよそ十四年後のこと―。
















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