商業ギルド会員証



「………はっ!?私は…何を…???」


クレア嬢が再起動した。

どれくらいの時間が経っただろうか?

体感にしておおよそ30分くらいか?

その間に俺がしていたのは先ほど生えてきたスキルの確認と検証だ。

それはもうビックリするくらいに集中して検証してやったとも…

そうしないとやってられなかったとも言えるが…


健全な野郎同志諸君よ、想像してみてほしい…


目の前にはうら若きスタイルの良い美女

そんな美女が自分の右手を両手で強く握りしめながら恍惚とした表情を浮かべている様子を…

そしてとどめは目の前の美女から発せられる艶めかしい喘ぎ悶えるような声ではぁはぁと吐息を吐いているんだぜ?


歳は食っていたとしても俺も男を捨てたわけでは無いのよ…

だがしかし、だがしかしだ!!

俺は耐えた…

耐え抜いたんだ!!


あぁ、そりゃ俺の心の中で悪魔が囁いたさ。

『ユー、ヤっちゃいなよ♪』ってな!

そしてもう1人の天使も囁いてきたさ…

『添え膳食わぬは男の恥ですよ』ってな!

とりあえず天使の方は心の中でぶん殴っといてやったぜ…

天使は天使でもコイツは堕ちた天使だったようだし全然問題ないよね?

もちろん悪魔の方も封殺しといた。

そんな俺の内情なんてどうでもいいのだ。

今は意識が戻ったクレア嬢を優先しようじゃないの。


「もうお身体は平気ですか?あ〜…その……大変申し訳ありませんでした!!!」


俺は握られていた右手の緩みを感じるや否や彼女の手を解き、流れるように謝罪スタイルをとる。

我が故郷最上級の謝罪方法…

DOGEZAである。

その姿は見る人が見たら思わず拍手を送るであろうほどの見事なまでのDOGEZAであったと自画自賛したいくらいに決まったと思いました。


「え…?あの……えぇ……?」


俺の行動に面食らっている様子のクレア嬢。

どうやら何があったのか把握出来ていない様子である…

俺はクレア嬢に先ほど俺のやったをしっかりと説明した。


魔力を感知出来た俺は、調子に乗ってクレア嬢がやろうとしていた魔力の伝達を見様見真似で同じようにやろうとしたのだ。

というかやってしまった。

その時の俺に伝達する魔力の調整など出来たわけもなく、過剰に伝達された魔力がクレア嬢の全身に巡ってしまい今回の惨事が起きてしまったのだ。

クレア嬢の意識が飛んだ後、例の悪魔と天使のやりとりを終えた俺が行った事というのが『魔力操作』の練習だ。

その時まだ手を繋いで、というか握りしめられていたこともあって、俺の魔力だけなのか、他の人でもそうなるのかは分からないが、練習の際に少し伝達させてしまった際のクレア嬢の反応で俺の俺が別の反応…おっと…とにかく、あまりよろしくない影響をお互いに与えてしまう事が分かったため、範囲を左半身に固定するイメージで魔力を循環させてみた。

と言っても動かす事が出来たのは僅かばかりではあったが…


その練習の時のクレア嬢の反応?


察してくれとしか俺には言えないな…


そんなこんなでDOGEZAしながら説明を終えた俺にクレア嬢のお声が掛かる。


「あの、事情は分かりましたので頭を上げてください…私も迂闊だったというか無防備だったところもありますし…(それに気持ち良かったですし…)」


モジモジとした様子で俺を責める様子の無いクレア嬢。

最後の方で呟くように何か言っていたようだが、おっさんの俺はあえて拾わない事を選択した。

いやほら、年頃のお嬢さんならやっぱり聞かれたくないことの一つや二つや三つや四つ…

ここは大人の男として(?)紳士な態度を取るのが正解であろう。


「大変申し訳ありませんでした…ですが、クレア嬢のおかげでやり方も分かりましたし【魔力操作】のスキルも覚えられたのでもう大丈夫です」


「そ、そうですか…それは良かったです…では先ほどの続きですが、このカードに少しで大丈夫ですのでキーダ様の魔力を流していただければ登録は完了となります」


「了解です…よっと…お?なんか光った」


「ありがとうございます。これで当商業ギルドへの登録は完了となります。商業ギルドの利用について幾つかご案内をさせていただきますね?」


「よろしくお願いします」


クレア嬢は持ってきた道具の中から冊子を取り出すとページを捲る。

クレア嬢が取り出したのは商業ギルド会員規約証というものらしく、様々な取り決めが書かれているものらしい。

説明された事を要約すると以下の通りである。


・ギルドランクについて

ギルドランクは上から金、銀、銅と分けられ、それぞれ下から⭐︎1〜⭐︎5までの等級が存在する。

初登録した商人は銅⭐︎1からスタートしてランクを上げていく。

ランクを上げるには業績と売上、総資産などを鑑みた上で、商業ギルド側が定めた規定をクリアしていればそこでランクアップとなる。


・売上の算定

基本的に売上の算定は登録しているギルド会員証(以下ギルド証)への入金履歴と諸経費の領収書及び請求書の差し引きで計算される。

なお、虚偽の報告が告げられた際(商業ギルド及び取引先)は厳罰を持って処断を行う事が出来る。

処罰される側は全財産の没収と今後一切の売買の禁止(素材の買取りや普段の買い物も含む)を受け入れるものとする。


他にも色々と書かれていて説明も受けたが、現状大きく大事な点としては、今挙げた2つが最も重要な事柄だろう。


まず始めのギルドランクだが、これは単純にギルド側が定めた基準をクリアすればランクは上がるという事だな。

受け取ったギルドカードには預金、引出しの機能が付いているらしく、このカードを各店舗で見せれば預金が無くならない限りはカードの預金から引き落としがされ、会員も現金を持ち歩く煩わしさや襲われるような危険も減らす事が出来るのだそうだ。

と言っても抜け道は色々とありそうだけどな…


次の売上の算定項目についてだが、これがかなり厳しい感じだな。

商人や商会に取って最も大事なのは信頼だ。

当然会員それぞれの評判が良いに越したことはない。

当たり前の事ではあるが、先に述べた通り商売ってのはお互いの信頼があってこそ成り立つものだ。

相手からの信頼を裏切って自分だけが得をするような事があってはならないし、相手に多大な損失を与えるのもダメである。

この規約の項目の本当の意味としては、『商業ギルドの信頼を裏切るな』という会員に向けての威圧みたいにも取れる。

会員が裏切った際の処罰がここまでやるのか?ってくらいに厳しいからね…

一番キツいのは今後一切の売買の禁止って所だろうな。

人間生きるためには絶対に避けては通れない事柄がある。

それは食事、食べる事だ。

この一切の売買禁止っていうのは食材も買えないって事だ。

こうなってしまえば食材を手に入れるためには自給自足を行うか『奪う』しかない。

前者であればまだ救いはあるかもしれないが、後者だったとしたらもう目も当てられない状態なのは明白だ。

だって奪うって事は犯罪に手を染めるって事じゃん?

そんなの野盗や盗賊と変わらんだろうし、詳しくは分からんけど、たぶん野盗や盗賊は討伐の対象になるんじゃないか?

つまりは実質的な家畜以下への成り下がりみたいなもんだろう。

そこまでして不正を犯すのも馬鹿らしいし、今後の人生を棒に振るようなことも普通であればしないだろう。


もっとも普通じゃない奴の方が多かったからこそ、ここまでの厳しい規約にせざるを得なかったのかもしれないけどね。


俺からしたらそんなアホな事するつもりもないし、そもそもが商人だけで生きていくつもりもないしな。

目指すはまったり暮らせるスローライフだし、せかせか動き回る気も無いというかね?

普通に暮らしてればこの二つに抵触する事はまず無い案件だから、俺としてはあまり重くは受け止めていない感じだ。


「ではこれで会員登録は完了となります。登録時に必要な10万ガルドを差し引いた70万ガーデも既に入金されておりますので、後ほど下にある魔道具を利用して残高の確認をお願いします。こちらも説明させていただきますね…それとーーー」


とまぁこの後も色々とギルドを利用する際の注意点やルールなんかも説明してもらい粗方の用事は済んだ。

後は風呂のある宿の紹介をしてもらって、そこにチェックイン出来ればミッションコンプリートってとこかな?


あ、ちなみに俺の初回ギルドランクは銅⭐︎5だった。

このランクになると担当受付が就くことになるらしく、俺の場合はこのままクレア嬢が担当になるらしい。

クレア嬢が言うには、俺の人種や特異性を考慮すると、一般の受付嬢を担当させた場合に要らぬ面倒が起こりかねないからという理由であった。


危険人物扱いかな…?




ようやく少し前進です。

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