勇者召喚②
見た目通りに爺はヤの付く人だった。
いやはやどうしたものやら…
しかし爺は俺達に考えさせる時間を与えるつもりも無いらしく、水晶を持って横に控えていた従者を脇へと呼ぶとこう告げた。
「それでは勇者の皆様、こちらの水晶に手を触れてください!この水晶は皆様の職業とスキルを知ることの出来る『鑑定水晶』と呼ばれるものです」
演技掛かった素振りで水晶の説明を始めた爺だったけど、どうにも胡散臭さが勝って信じられないんだよなぁ…
というわけで『鑑定』発動っと…
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アイテム:鑑定水晶
品質:SR
触れた者のステータスを鑑定出来る水晶。
鑑定出来る内容は材質により異なり、この鑑定水晶が鑑定出来るのは名前と職業と簡潔なスキル表示だけで、個人のパラメーターや<才能>、<加護>は見ることが出来ない。
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ふむ…
どうやらあの水晶に限っては本当の事を言っているようだ。
詐欺師の騙す手口としては、少しの真実を混ぜるのが定石とかいうやつだろうか?
こんなところで真実を混ぜ込まれてもって感じは否めないが…
「さぁ勇者の皆様方!どなたからでも構いません!この鑑定水晶に触れてご自身の適正職業とスキルを確認してください!確認出来た後にそれぞれの職業に合わせた者に案内させます!」
爺の言葉に周りがざわつく。
口ではあぁ言ってはいるが、やはりというかなんというか、我先にと行動する者がこの中にいるわけもなく近くにいる人達の様子を伺うように誰も行動を起こさない。
「あ、あの…」
俺が周りの様子を同じように伺っていると、不安そうに横にいた女性というか抱きしめていた女性が話しかけてきた。
「はい?何です?」
「これからどうしたらいいんでしょうか?」
いやぁ…それを俺に聞いちゃいますか?
言うて俺も貴女と同じ状況なんですがねぇ?
まぁ俺はエルガイアにあれこれ聞いているからどうしようか決めてはいるんだけど、それを言うわけにもいかないし、かと言ってこのまま見捨てるっていうのも後味が悪いしなぁ…
「それは俺にも分かりませんが…まぁ、なるようにしかならないんじゃないですかね?」
「そんな…」
「あまりこんなことを言いたくはないんですが、俺も状況としては貴女と同じですからね…貴女の不安を取り除くことは残念ながら出来そうにありませんよ」
と、言っておいた。
薄情?
そう言われましてもねぇ?
ぶっちゃけこの女性がどうなろうが知ったこっちゃないし、俺みたいに放逐確定してるならまだしも、どんな適正職業とスキルなのかも分からないし…
あ…
そうか…
この女性を鑑定したらいいのか
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名前:
職業:裁縫士
人種:異世界人
LV:1
HP:32/32
MP:79/79
力:14
魔力:34
体力:43
敏捷:11
幸運:22
魅力:45
<スキル>
裁縫LV6
<
装飾品作製適正
<加護>
無し
所持金:0G《ガーデ》
装備品:無し
スリーサイズ:B9…
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待て待て待てぇぇぇぇぇぇい!!
最後いらん情報まで出て来てるから!!
スリーサイズなんて気にならないといえば嘘になるけども別に知らなくてもいいから!!
とはいえ、彼女もどうやら俺と同じく放逐確定組の一人だということが判明した。
エルガイアの言葉が正しいのならば、俺達は何の説明もされずにこの世界に投げ出されてしまうわけだ。
俺はともかく、彼女がいきなり知らない世界に投げ出されてどうこう出来るようには思えない。
さてどうしたものか…
「俺から言えるのはあまりこの連中の話を鵜呑みにしない方がいいってことくらいですかねぇ…」
当たり障りの無い言い方だけど、今後この世界で生きていくなら人を簡単に信用してはいけないことだ。
俺自身もそうだけど、右も左も分からないこの世界で生き抜くにはとにかく正確な情報が肝心となるだろう。
「こうしていてもラチがあかないんで、俺は先に行きますね?」
未だ誰も動き出そうとしない状況に痺れを切らした俺は、分かりきっている結末を迎えるために爺へと歩みを進めようとするが、何故か小柳さんに呼び止められる。
「あ、あの!」
「何です?」
「また…またお会い出来ますよね…?」
「どうでしょうね…それこそこれから分かる職業やらスキルとやら次第なんじゃないでしょうか?必ず会えるなんて不確かな事は言えませんが…とりあえずは身を守ることを第一に考えればいいと思いますよ?それじゃ」
納得いかないような不安そうな表情を浮かべる彼女だったが、俺としては自由に動ける事を知ってるから気楽なもんなんだよね。
「誰も動かないので俺からでかまいませんかね?」
「もちろんですとも!さぁ!この水晶に手を当てるだけで大丈夫です」
「そちらの期待には応えられそうもなさそうですがね…」
そして俺は言われた通り鑑定水晶へと掌を当てる。
すると、ぼんやりと水晶が光ったかと思うとすぐに光は落ち着き爺側の中空に小窓のようなモノが浮かび上がった。
「なるほど…貴殿の名前はダイキ・タカナシ…職業とスキルは…」
小声で読み上げていく爺が俺の職業とスキルを見て目を見開いたかと思うと徐に表情を取り繕った。
「大変申し上げにくいことではあるが…其方の<職業>は無職と出ている…<スキル>は鑑定となっていますな」
「なるほど…いやぁ期待に添えられず本当に申し訳ないですねぇ」
「何、こういったことも無いわけでもないでしょう…ダイキ殿は運が悪かったということでしょうなぁ…」
爺が残念振ってはいるが、俺から見たらあからさまにゴミクズでも見ているような感じに見えちゃうんだよね。
「ははっ、たしかに運が悪いですねぇ。まぁ俺以上に運の悪い人なんて流石にいないだろうから、皆さんは安心して鑑定を受けたらいいと思いますよ」
俺はわざとらしく明るく振る舞い後ろでビクついているみんなに向かってそう告げる。
「じゃあ案内のほどよろしくお願いしますね」
「ではダイキ殿はこの者の後に続いてくだされ」
爺がそう言って後ろに控えていた従者に案内を促すと、控えていた従者が会釈をして「こちらへ」と短く俺を案内する。
従者の後について行くと壁に手をかざした従者が何事かを呟くと、ただの壁だった部分が急にポッカリと開き階段が姿を現した。
従者は迷うことなくその先へと進んで行ったので俺もその後に着いて行く。
(とは言うものの、怪しさ満点だからこの人も鑑定しておくかな)
俺は自衛のための手段として前を歩く従者を背中から鑑定するのだった。
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