夢と希望を食べる不思議の国⑧




進んでいると何人かの小人に出会った。 人のよさそうな顔をしているが、皆嘘つきということなのだろう。 

本当は二人だけで進んでいければよかったのだが、迷いの森というのは本当のようで、分かれ道がいくつもある構造になっている。


「出口はどこ?」

「右へ進んでいけば行けるよ」


二人はこの森でどうするのかを既に決めていた。 嘘つきが住んでいるのなら、答えの逆に行けばいい。 ただそれだけのことだ。 小人の答えから逆に進み、出口を求めて歩いていく。


「出口はどこ?」

「この道を真っすぐさ」


そう言われもう片方の道を選ぶ。 この繰り返しだ。


「これがこの国を出る最終試験だとでも言うの? あまりにも簡単過ぎるんだけど」

「・・・」

「あ、難しかったらイライラして夢の国どころじゃなくなるから? そうなら納得」


博未に聞いたことを思い出しそう結論付けた。 亜夢が一人頷いている中、クマキチはどこか神妙な面持ちをしていた。 再び小人に会い道を尋ねる。


「出口はどこ?」

「出口・・・? 出口が知りたいの? じゃあ、この森にピッタリの謎を出すね」


今まででクイズを出すタイプの小人はいなかった。 そのため二人は出口が近いと考える。


「その謎を解けっていうの?」

「あぁ。 問題に答えられたら道を教えてあげるよ。 準備はいい?」


亜夢はクマキチを見た。


―――正直、ここでのんびり遊んでいる時間はないんだけど・・・。


クマキチはこの小人が頼りだと思ったのか亜夢と同じことを思いながらも小さく頷いた。


「分かった。 いいよ」


了承すると小人は満足気に頷いた。


「『正直村と嘘つき村』のクイズ、知ってる?」

「聞いたことがあるような、ないような・・・」

「旅人が分かれ道にやってきた。 片方は正直村へ、片方は嘘つき村へと続いている。 村人は正直村へ行きたいのだが、どちらが正直村なのか分からない」


確かにどこかで聞いたことのある謎だったが、亜夢はその問題の答えを知らなかった。


「そこに一人の村人がやってきた。 旅人はこの村人に一度だけ質問をして、正直村へ行く道を見つけ出すには何と聞けばいいのでしょう?」

「どんな質問でもいいの? どっちが正直村なのか教えて、とか」

「あぁ。 ただし村人は、正直村と嘘つき村のどちらかの住人ではあるが、どちらの住人までかは分からない。 また正直村の住人は必ず正直な回答をし、嘘つき村の住人は必ず嘘の回答をする」


亜夢とクマキチは顔を見合わせた。


「では、シンキングタイムスタート!」


小人がニコニコと楽しそうにしている中話し合いが始まった。


「クマキチはこの謎を知ってる?」

「知らないな。 答えも見当もつかない」


クマキチがどのような思考回路を持っているのか分からないが、亜夢が考えないといけないような気がした。 ただ話し合いは禁止されていないので、二人であーでもない、こーでもないと考えてみる。 

もっとも追手の姿は見えないが、悠長にしてる時間もなかった。


「よし、決めた! 片方の村を指差して『貴方の住んでいる村はこっちですか?』って聞く!」

「ほう。 どうしてそう思った?」

「もし正直村を指差していたなら正直村の住人は『はい』と答える。 嘘つき村の住人だとしても『はい』と答える。 

 もし嘘つき村を指差していたなら正直村の住人は『いいえ』と答えて、嘘つき村の住人も『いいえ』と答えるから」


小人はそれを聞いてニヤリと笑った。


「だから『はい』と答えたなら指差した村が正直村! 『いいえ』と答えなたら、指差した村が嘘つき村だということが分かる!」

「理由まで完璧。 正解だよ、お見事!」


小人は嬉しそうに拍手した。


「やった! じゃあ、出口を教えてくれる?」

「もちろんさ。 出口はここを左へ行った先だよ」

「分かった。 ありがとう!」

「こちらこそ、僕の謎に付き合ってくれてありがとうね」


そう言われ逆の右へと進んだ。 


「正解してよかった。 クマキチが助言してくれたから」

「いや、あくまで手助けしただけで亜夢が導き出した答えだよ」


亜夢はクマキチとの相性がバッチリで、全てが上手くいくと思っていた。 スキップしそうになる足を抑え、森の出口を目指す。 しかし進んでも進んでも一向に出口には辿り着かなかった。


「・・・ねぇ。 どうしてまだ出口が見えないの? どういうこと?」

「おかしいな・・・」


先程から一本道しかなく小人にも会わない。 そうこうしているうちに背後から足音が聞こえてきた。


「見つけたぞ!」

「「ッ・・・」」


咄嗟に振り返るとそこには複数の獣人がいた。 二人はいつの間にか追い付かれてしまっていたのだ。 体が大きく強そうな熊人間がいて、とても切り抜けられそうにない。 

追ってきた獣人の中には先程入り口で見た番人の狸もいた。


「一体どういうこと!? 出口はどこよ!」


尋ねると狸人間が言った。


「“嘘つきの森”というのは嘘であり本当です。 嘘つきモノは、この私一人だったというわけですよ」

「え・・・!? そ、そんなの卑怯だから!」

「卑怯ではありませんよ。 ヒントはちゃんとあり、それに気付けなかったお二人が悪いのです」

「ヒント・・・?」

「先程、謎を出した小人と出会いませんでしたか? その時正しい解答をしたら『正解』だと、言われませんでした?」

「ッ・・・」


教えてくれる方向ばかりに気を取られていて、気付いていなかった。 確かに導き出した答えは合っていたはずなのに。


「そこで小人たちは本当のことを言っていると、気付けばよかったのですよ」

「そんな・・・」

「お前たち。 この二名様を捕まえなさい」


二人は逃げようとしたが、熊人間たちに追い込まれてしまい亜夢はいつの間にか意識を手放していた。



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