夢と希望を食べる不思議の国⑨
真っ暗な闇の中、クマキチの声が徐々に聞こえてきた。 寝起きにクマキチのぬいぐるみがいるのは、以前の幸せだった生活が少しだけ蘇る。
「・・・亜夢! 亜夢、起きろって!」
「ん・・・」
クマキチが亜夢の身体を揺らしていて、身体にはひんやりと冷たく硬い感触。
「クマキチ・・・? ここは、どこ・・・?」
辺りをゆっくりと見渡しながら尋ねた。
「どうやら牢屋みたいだな」
「牢屋? 私たちは捕まったの?」
「そうらしい。 俺も気を失っていて気が付かなかった」
牢屋内は非常に簡素であるが頑丈な造りになっていて施錠もされている。 クマキチだけなら出られそうだが、それを見越してかクマキチは鎖で繋がれていた。 どうやら簡単には出られそうにない。
「・・・どうする?」
「ここにいたら何をされるのか分からない。 もう一度、脱出を試みるべきだと思う」
「分かった」
立ち上がり牢屋に何かないか探し始めた。
―――ベッドにトイレに、何だかよく分からない机のようなもの。
―――ここで暮らすのもワンチャンありかもね?
クマキチをチラリと見ると牢屋を隅々まで見て回っていた。
―――・・・まぁ、ここに残る選択肢はなさそうだね。
そう思い亜夢も探すのを再開する。 そのうちにいつの間にか牢屋の前には博未が立っていた。
「博未!」
「・・・」
博未は相変わらず無表情でゆっくりと視線を向けてきている。
「どうしてこんなことをするの?」
「・・・この国から出ようとしたからだよ」
「どうして出ようとしたらいけないの?」
「逆にこの国の何がいけないの? こんなに望むものがある国なんて、他にはないでしょ」
亜夢にとって真に望むものはこの国にはなかった。
「望みなんて人それぞれ違うよ。 それにここにいる子供たちはみんな、感情がない」
「そういう子たちが集められるからね」
「だから楽しいとも感じないし、幸せにも思わないはずでしょ?」
「だからこそ気楽に過ごせるんだよ。 周りのことなんて考えなくてもいいし、もう怯える必要もない」
「怯える? ・・・そう言えば、どうして博未は感情をなくしたの?」
思い出したかのように尋ねると博未は視線を落としてから言った。
「・・・僕は酷くいじめられていたから」
「え?」
「最初は抵抗していたけど、次第にエスカレートして限界がきた。 自分がこれ以上傷付かないように、自分の心に蓋をした」
「・・・」
「そして自分の意見を何も言わなくなった。 逆らうとより痛い目に遭うことが分かったから、誰にも逆らわずに生きてきた」
「ッ・・・」
その言葉に亜夢は歯を食い縛った。
「親に関してもそうだ。 あれ以来僕は怖くなって、親の言われるがままに過ごしている。 それが一番安全だから」
亜夢は耐えられずに言った。
「それは駄目だよ! 逃げずにもっともがかなきゃ!!」
「・・・どうして?」
「そんなことで負けてもいいの!? もっと反抗して、自分の気持ちをぶつけないと駄目だよ!」
「負ける・・・?」
「人が引いたレールの上で人生を送っては駄目! それは博未の人生じゃないから!!」
どうにかしてでも脱獄しようとした。 このままでは博未はこの国でずっと囚われたままになってしまう。 確かに亜夢自身それでもいいのかもしれないと思っていたが、博未の話を聞いて考えを改めた。
施錠を外せないかとガチャガチャと弄ってはみるが、固く無慈悲なそれが開く様子は一切ない。
「あぁ、もう! 開かない!!」
「・・・また出ようとしているの?」
「当たり前でしょ! 確かに私の人生はもう終わったも同然だけど、人が引いたレールの上を歩いては生きたくない。 この国に身を任せたくない!」
「・・・よくそういう風に思えるね」
「そんなもの、私の人生じゃないから」
必死に牢屋の鍵を壊そうとする。 博未は迷っていた。 だが最終的にある結論に到達したのか鍵に手を伸ばしたその時だった。 博未の背後から見慣れた猫人間がやってきたのだ。
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