夢と希望を食べる不思議の国⑦




「獣人に捕まる前にこの国から出るぞ!」

「出るって言っても、どこへ行けばいいの!?」


亜夢とクマキチは休息所を出て中央の道を走っていた。 亜夢はこの国のことが分からないため、クマキチだけが頼りだ。


「テーマパークの裏だ! そこがこの国から出られる唯一の出口がある!」

「どうしてそれをクマキチが知っているの?」

「俺がここにいるということは、亜夢もこの国にいると思った。 だから亜夢を探しつつ、出口を探していたんだ。 それで見つかった出口らしき場所は、そこだけというわけさ」


ずっと自分の味方はいないと思っていた。 だからクマキチが自分のために動いてくれていたと分かって嬉しかった。 壊れていた心がもしかしたら少しずつ動き始めてくれているのかもしれない。


「クマキチはどこで目覚めたの?」

「コーヒーカップの中だ。 おかげで気分が悪い」

「可哀想に・・・。 ぬいぐるみでも気分が悪くなるんだ」


そこじゃないだろ、的な笑みをクマキチは浮かべたが何も言わなかった。 まだ追っては付いていないようだが、いつ獣人たちの目がこちらへ向くのか分からない。


「おい、亜夢。 ここからの移動は慎重にな」


テーマパークは人が多いが、獣人も多い。 動くぬいぐるみだけでも衆目を集めるため、慎重に行動する必要があった。


「もう私たちのことは獣人たちに知れ渡っているのかな?」

「そうだろうな。 ここにいる子供たちは商品を作るのに必ず必要なモノだから、一人も逃がしたくはないだろう」

「モノ・・・」

「ヤバいな。 どうやら追手が来たらしい」


緊張が走る。 後ろを見る余裕はないが、クマキチが言うため嘘ではないのだろう。 だがその時、テーマパークの切れ目に差しかかる。 到着したのは深い森だった。


「ここ・・・?」


確かに森のところに“出口”と分かりやすく書かれていた。 それに加え“嘘つきの森”と看板に書かれている。


「嘘つきの森って・・・。 本当に出口なのかな?」


少し怪しいがここを通るしか手はないだろう。 雲の中に立派な森があり違和感が凄かった。


「この森で合っているんだよね?」

「あぁ。 少し怪しいが、行く価値はある」


森へ入ろうとすると番人の狸人間が入り口の前に立っていた。 大きな匙のようなものを持っていて、欠伸をしているためやる気はなさそうに思える。 

だからといって強行に突破するにはあまりに目立ち過ぎてしまう。


「このままだとあの狸に見つかるよ?」

「どうにかしてアイツの気を引くものはないか?」

「どうにか、って言っても・・・」


何かないか辺りを見渡すが、使えそうなものはなかった。


「アナウンスをかけて獣人を一ヶ所に集めるとか?」

「亜夢の声を知っていたら、アナウンスをしているのが亜夢だとすぐにバレるぞ」

「じゃあどちらかが囮になる?」

「囮って・・・」


考えていたその時、背後から影が迫り、見れば番人であろう狸がそこに立っていた。


「お嬢さんと熊のぬいぐるみさん」

「「ッ・・・」」


二人は絶体絶命の事態に、その場で固まって動けなかった。


「そんな固まらずに。 出口をお探しなんでしょう?」


だがどうやら今すぐに取って喰おうというわけでもないらしい。 もしかしたら、二人に追手がかかっていることに気付いていないのかもしれない。


「・・・私たちを捕まえないの?」

「えぇ。 出たいと思ってこの国から出るのは自由ですから」

「そうなの? なら堂々としていればよくない?」


クマキチにそう言うとクマキチは不思議そうに首を捻る。


「確かにな。 でもそしたらおかしい。 どうしてさっきの少年は、獣人たちに告げ口をしに行ったんだ?」

「出るのも自由。 告げ口するのも自由。 そこで足踏みし立ち止まっているのも自由。 それで、この森にお入りになりますか?」


亜夢とクマキチは互いを見た後ゆっくりと頷いた。


「・・・うん。 入る」

「分かりました。 ではまず少々ご説明を」

「説明?」

「ここは迷いの森でもあり、迷路となっております。 この森にいるものは全員嘘つきのため、信じてはいけません」

「全員嘘つき? ふぅん、看板の意味はそういうことだったのか」


もう一度“嘘つきの森”と書かれている看板を見る。


「出口と書かれてるのは嘘じゃないの?」

「出口と書かれているのは嘘ではありませんよ」

「嘘は絶対につくの?」

「嘘は絶対につきます」


亜夢の疑問に狸人間は笑顔で答えてくれる。 


「嘘つきが住んでいるというだけか。 そう聞くと単純な森だな」

「そうだね。 クマキチ、行こう」

「あぁ」

「二名様、いってらっしゃいませ」


二人は特にこれ以上怪しむことはなく森の中へと進んでいった。



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