夢と希望を食べる不思議の国⑥
「ん・・・」
亜夢は再び目を覚ました。 ヘルメットをしていることに気付きゆっくりと外す。
―――ここは夢の国・・・。
―――今のは一体何だったの?
―――あの食卓の光景は何?
目尻に溜まっていた涙が零れてマッサージチェアを濡らした。 大きな粒がシートへと染み込んでいく様子は夢とは思えなかった。
―――あれが夢?
―――で、これが現実!?
―――あと、クマキチが喋って・・・。
色々と状況を整理していると足元をペタペタと触る感覚があった。
―――何?
足元を見てみるとそこにはクマキチが立っていた。 二足歩行し両手を器用に動かしている。 もちろんただの熊のぬいぐるみであるクマキチにそんな機能は付いていない。
「クマキチ!?」
「亜夢! ようやく目が覚めたか!」
「え、クマキチは本当に喋れるの!?」
止まっていた感情がまたしても少し動いた気がした。 恐怖よりも嬉しさ。 夢の時のクマキチと声が同じだ。
「その話は後だ。 それより亜夢、ここは危険なんだ。 早くこの国から出よう」
「え? 危険ってどういうこと?」
「ここのドリンクは、子供たちの活力を元に作られているんだ」
「活力・・・? どうやって?」
「子供たちが寝ている間に、ヘルメットから活力を吸い取りそれをドリンクと混ぜている。 亜夢も今吸い取られていた」
そう言ってクマキチは亜夢が先程まで付けていたヘルメットを見る。 仕組みは分からないが、クマキチが嘘をついているようにも思えなかった。
もしかしたらマッサージチェアのように安眠できるよう作られているのはそのためなのかもしれない。
「そうなの? そのためのヘルメットだったんだ。 本当に効きそうなドリンク」
クマキチから本当のことを告げられても大して驚きはしなかったのは感情がまだ死にかけているせいだろう。 それを聞いてクマキチはやれやれといった様子を見せる。
「呑気にそんなことを言っている場合かよ」
「でも、ここにいる人たちはみんな、感情を失った子供たちなんでしょ? 活力なんてあまりないんじゃない?」
博未を含め、子供たちから元気や楽しいといった感情を感じられなかった。 クマキチは小さな体に乗る頭をぶんぶんと振っていた。
「その逆だ。 感情を失って、生きていて意味のない子供たちだから吸い取ってもいい。 それがここの奴らの考えだ」
「へぇ。 こんな私たちでも役に立つんだ」
亜夢の言葉に終始クマキチは呆れていた。 だがクマキチも亜夢の家庭の事情は知っている。 そのため亜夢に怒りはしないが今の危険な状態を伝えようと必死だった。
「そうじゃない! 周りを見ていたら分かるだろ!」
ヘルメットをつけているため寝顔がどのような感じなのかは分からないが、穏やかな様子に思えた。 先程の夢を思い出す。
戻りたい過去、否定したい現実、クマキチが喋り出すまでは見たい夢が見れていた。 もっともあまりに非現実的過ぎるため、亜夢は心から信じることはできなかったが。
「さっきの少年だってそうだ。 活力をどんどん吸い取られていくから、子供たちからはどんどん感情がなくなっていくんだ!」
「あ、確かに・・・」
「亜夢はそうなっては駄目だ。 ここから俺と一緒に出よう」
この国にいようがいまいが亜夢はどちらでもよかった。 別にこの国にいたいというわけではない。
現実の世界へ戻ったとしても亜夢には居場所がないため、生気を吸い取られるとしてもここでも構わないのだ。 ただクマキチの言葉に反対する程の気力もなかった。
「まぁ、別に出なくてもいいけどクマキチがそう言うなら・・・」
亜夢にとってクマキチが大切で好きだということは変わりない。 喋ってくれのるならより一緒にいたいと思うくらいだ。
「クマキチは歩けるの?」
「あぁ、自分で歩く」
クマキチは短い足を必死に動かし率先してこの部屋から出ようとした。 すると博未が部屋の前で待っていた。
「もう仮眠はいいの?」
「うん」
「じゃあ仕事場へ戻ろうか」
クマキチは小さいため博未には見えていないようだ。 博未は相変わらず何を考えているのかよく分からない。 生気を吸い取られたためにこうなったと言われれば納得な気もする。
「博未はこの国の本当の姿を知っているの?」
博未はゆっくりと振り返ってこう言った。
「・・・さぁ? 理由なんてどうでもいい。 ここで気ままに過ごせば時間が自然と過ぎていって、いつか死ぬ」
―――・・・その気持ちは分かる。
「それがここの人たちの人生。 僕はそれでいいと思っている。 亜夢もそう思うでしょ?」
「確かに私も自分の人生はどうだっていい。 でもこの国は危険なんだって! だから博未も一緒に抜け出そう?」
「どうして抜け出したいの? この国に何か不満でもあった?」
「不満はないよ。 でも、危険な国にいたいとまでは思わない」
そう言うと博未は視線をそらした。
「抜け出すことはできないと思うよ。 もし抜け出したいと言うのなら、僕も獣人たちに告げ口をするけど」
「ッ・・・」
どうやら博未は案内役兼監視役だったようだ。
「脱出を試みる人がいたら教えるよう、言われているんだ」
「亜夢! 走れ!」
クマキチに言われ亜夢は反射的にこの場から離れた。 博未はそれを見てすぐさま走り出しおそらく達の獣人ところへ向かったのだろう。 あまりモタモタはしていられない。
クマキチを抱えると、捕まらないうちに出口を探した。
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