夢と希望を食べる不思議の国④
カジノには一通りのギャンブルが揃っていた。 カードやルーレット、スロットに目新しく思えるVRを使ったもの。 テレビでしか見たことのないそれらが亜夢の興味を引く。
たくさんのチップをかけ増えれば何となく嬉しいし、負けても新たにもらえばいい。 こんなのギャンブルではないとも思うが、何故か普通に楽しめる。
特にカードゲームが調子よく、連続で勝てると楽しかった。
「調子、よさそうだね」
「うん、いい感じ」
傍で見ていた博未が言う。 彼はカジノを見ているばかりで参加はしていない。
「楽しい?」
「別に? まぁ、さっきのテーマパークに比べたらマシかな」
「そっか」
「どうしたの?」
「そろそろ時間だ。 仕事場へ行こう」
カジノで遊んでいたところで“仕事”といわれ少しだけ気分が落ちた。 だがここの習慣を知らないため、博未の言葉には従おうと思う。
「そう言えば、そんなのがあるって言っていたね。 仕事の時間は決められているの?」
「うん。 詳しくはまた説明されると思う」
そう言われ仕事場まで付いていった。 ここでは兎人間が案内をしてくれるようだ。
「新人さんね。 貴女はこっちよ」
見れば見る程不思議な生き物だ。 顔は完全に兎だが体は人間。 可愛いというよりも不気味というのが相応しいと思っている。
アニメキャラクターのマスコットのような見た目なら親しみも持てそうなのに、亜夢は近付き難い彼らにそのようなことを考えていた。
連れてこられた場所は長机でたくさんの子供たちが作業しているところだ。 箱から空き瓶を取り出し水色の液体を注いでいる。
「ここは・・・?」
「ここではドリンクを生産しているの。 それがこれ。 エナジードリンクね」
そう言って懐から取り出したのはどこかで見たことのあるようなデザインのエナジードリンクだった。
「貴女は全ての瓶に蓋をしていって」
「え、それだけ?」
「それだけでいいわ。 これは分担作業なの」
よく見ると中身にドリンクを入れる係やラベルを貼る子供たちもいた。 彼らも皆無表情で淡々と作業を進めている。
「これって楽しいのかな?」
「仕事を楽しく思う人は早々いないよ」
博未は感情を露にしないままそう言うのが何となくおかしかった。 楽しくないのなら楽しくなさそうにすればいいのに、を素で言っているのだから。
もっとも亜夢自身も同じ作業をやれば楽しいとは思えないだろう。
「まぁ、言われてみればそうか。 博未はやらないの?」
「僕はあくまで、亜夢の世話係だから」
「・・・そう」
後ろで博未に見守られながら試しに作業をしてみた。 やることは簡単なため楽ではある。 だが単調の作業のため退屈で眠くなるのは当然だった。
「・・・ねぇ、これをずっとやるの?」
「うん。 まぁ、二時間くらいかな?」
「長ッ・・・」
うとうとしながらも作業を進めた。 どのくらい時間が経ったのか分からないが、意識が少しずつまどろみに溶けていく。 そんな亜夢の異変に博未が気付いて寄ってきた。
「眠いの?」
「少し・・・」
そう言うと博未はどこかへ行ってしまった。 しばらくすると兎人間を連れてやってくる。 もしかしたら眠くなるとペナルティでもあるのかもしれない。
シャキッと身体を起こそうとは思ってみたが難しかった。 ただ喜々として寄ってくる兎人間を見れば眠気も吹き飛びそうになる。
「眠いんだって? なら仮眠を取った方がよさそうね」
「え、作業中に寝てもいいんですか?」
怒られるとばかり思っていたため拍子抜けした。 仕事中に寝てはいけないというのが有り得ないというのは、高校生の亜夢でも知っている。
「寝るのは万々歳よ」
「万々歳・・・?」
理解できない言葉に首を捻る。 怒られるよりも寧ろ褒められているのは流石に不可解だった。 だが眠気が飛びそうだったとは言え、実際に眠いのは事実のため寝ていいと言われればそれに甘えたかった。
「寝て回復したら、作業がよりはかどるからね。 少年、連れていってあげて」
博未はそれに頷く。
「亜夢、行こう」
「どこへ?」
「寝る場所だよ」
亜夢は博未に別の場所へと連れていかれた。 そこは大きなマッサージチェアのような椅子がありそこに座れと指示される。
何台どころか何百台、いや、多過ぎて数え切れないくらいの数に大量の子供たちが寝転んでいる。 効率のためなのかもしれないが、異様な光景だった。
「・・・寝るならベッドがいいんだけど」
「そんなものはないよ。 休む時はここだけという決まりなんだ」
床は雲でふわふわしているため、そのまま床で寝そべって寝た方が気持ちよさそうだと思ったが今は指示に従うことにした。 今のところは危険なこともないし、寧ろ至れり尽くせりといった具合だ。
「まぁ、仕方がないか。 この椅子ってマッサージ付き?」
「僕は使ったことがないけど確か付いていたと思う」
「そう」
椅子に付いているボタンを色々と弄ってみると確かにマッサージチェアのように動き出した。 電気屋で昔試してみたから分かる。 別に肩が凝ってたりするわけでもないが、何となく気持ちがいいのだ。
―――マッサージしてくれるなら椅子でもいいか。
寝転んでリラックスしていると博未が大きなヘルメットを差し出してきた。
「何これ?」
確かに周りの子供たちはヘルメットを被ってはいるが、実際に渡されると素直に被る気にはならない。
「これを被って寝るんだよ」
「えぇ? いらないよ。 寝にくそうだし」
「癒しの音楽が流れるから、ぐっすり眠れると思うよ」
「・・・そういうものなの?」
試しに装着してみると確かに心地のいい音楽が流れてきた。 それを聴きながら亜夢はゆっくりと目を閉じ眠りについた。
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