夢と希望を食べる不思議の国③
―――・・・何か、退屈。
子供のはしゃぐ声が聞こえない。 ただアトラクションが動く機械の音と陽気なメロディが聞こえるだけだ。
「飲む?」
することがなく突っ立っていると、目の前に一杯のカップを差し出された。 中には緑色のドロリとした液体が詰まっていて、触った冷たさからしてスムージーのようなもの。
ストローの先から香る甘い香りは桃のようだ。 香りと色が合っていないが、不思議な場所だからということなのだろうか。
「どこでもらってきたの?」
「そこで。 タダで飲めるよ」
「そう。 ありがとう」
丁度喉が渇いていたしお金も必要がないというため受け取った。 博未も飲んでいるのを見れば、危険はないのだろうと思う。 濃厚な甘さが冷たさと共に喉の奥へと落ちていく。
近くのベンチへ座りしばらくスムージーを飲んでいると傍で見ている博未が言う。
「あまり楽しそうじゃないね」
「そういう貴方もね」
「・・・じゃあ、何か食べる?」
「・・・確かにお腹は空いたかも。 食欲はないんだけど」
「その気持ちはよく分かる」
「ここでは何でも食べられるんだっけ?」
「うん。 まずは食堂へ行こう」
そう言って食堂へと案内された。 厨房には白い割烹着を着た狐人間たちが働いていた。 狐に食べたいものを言えば何でも作ってくれるらしい。
「何か頼んでみて」
「え。 ・・・じゃあ、パフェで」
「甘いものが好きなんだね」
「今はがっつり食べたい気分じゃないからね」
注文して一分もしないうちにパフェが出てきた。 白色に赤色が映えるイチゴのパフェで普通に美味しそうだ。
「出来上がるの早いね」
「待つ時間なんてあったらイライラするだろうから。 ここは夢の国だよ」
「博未は何か頼まないの?」
「うん。 今はいらない」
「そう」
必要以上に相手に干渉しないようにした。 二人は適当にテーブルに着き亜夢一人でパフェを食べる。
これも至って普通のパフェで、最近はストレスから味もよく分からなくなっているが、きっと普通の人が食べたら美味しいのだろう。
―――まぁ、悪くはないか。
無料のものに文句をつけることはできない。 食べられれば良しでマズくても仕方がない。 ただこれはどちらかと言えば美味しいと言えるため、文句のつけようがなかった。
「この夢の国には他に何があるの?」
「んー、カジノとか?」
「子供がカジノをするの?」
「頭を働かせたい人のために設置されているんだよ。 行くのは自由、強制じゃない」
「へぇ、珍しい場所もあるもんだね。 賭けるものは?」
「ない」
その言葉に呆気に取られる。 カジノはお金を賭けて遊ぶための場所で、何かを賭けないならカジノではないと思ったのだ。
「・・・それ、面白いの?」
「賭けることにストレスを感じたらここは」
「はいはい。 ここは夢の国じゃない、ね」
「・・・うん」
先に言葉を言われ少し残念そうに思っている気がした。
「確かにそうかもしれないけどさぁ」
「厳密に言えば賭けないというわけではない。 賭けるためのチップはいくらでももらえるから、賭け事にならないということだけ。 ちゃんとカジノの形式はとってる。
チップを借りてチップを賭けて遊ぶ。 なくなったらまたチップを借りればいい。 借りるって言ったけど、返す必要はないから結局いくらでももらえるということになる」
「・・・なるほど。 そういうことなんだね」
亜夢に本物の賭け事の経験はない。 お菓子を賭けたりして遊んだことはあってもお金を賭けたことはない。 ただそれでもその面白さは何となく分かる。
負けて大丈夫ならと思うと多少の興味も沸いてきた。
「一度、自分の目で見てみるといいよ」
そう言われカジノへと連れていってくれた。 ミラーボールがキラキラと輝いていてやはり陽気な音楽が流れている。
もっともかなり広い場にたくさんの人がいるというのに、人の声はほとんど聞こえなくて静かだ。
「結構人、いるんだね。 高校生くらいの人が多いのかな?」
「あのカウンターで自由にチップを借りられるよ」
「博未も一緒にやろうよ」
「僕はやらない」
「どうして?」
「そんな気分じゃないから」
「・・・」
―――それを言うなら、私もなんだけど。
自分がどうしてここに存在しているのかよく分からなくなってきた。
―――よく分からない夢の国に突然招かれて、私にどうしろっていうの?
―――・・・まぁ現実へ戻ったとしても、私の居場所なんてないんだけどね。
―――お母さんがいないなら正直生きる希望がない。
―――・・・ならまだ、この国にいる方がマシなのかな。
試しに一人でカジノで遊んでみた。 真剣にはならないがテーマパークよりかはマシだと思った。
―――まぁ、この施設はいいんじゃない?
―――暇潰しにはなりそう。
ほんの少しだが亜夢はこの場所が気に入っていた。
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