いざとなったら女は強いのは我が家では常識なんです!
お姉ちゃんの妊娠と、それを知ったお父さんが秀さんを殴ってしまい、直後にお姉ちゃんが飛び出したと聞かされて。
そのあと帰ってこないお姉ちゃんに連絡がつかず、慌てているお母さんだけど。
「追いかけていったなら、一緒にいるかな? 秀さんに連絡してみた?」
「あ……」
そこに思い至ってなかったみたいで、お母さんが呆けたようにうめいた。
「とりあえず、私からまずはお姉ちゃんに連絡してみるね。うちの電話やお母さんの番号だと、お姉ちゃんが出させてくれないかもしれないし」
「そうね、お願い」
多分、お姉ちゃんには散々連絡したんだろう。
お母さんはすんなり納得して、私に任せる。
「あ、秀さん? サホだけど……」
『あ、小さい嬢ちゃん⁉』
お姉ちゃんのスマホは電源が切られてたので、すぐに秀さんにかけ直し、応答があった。
「あのね、今、事情聞いたの。お父さんがゴメンね。お姉ちゃん、大丈夫?」
『いえ。親方の気持ちは分かりますから。自分だって、大切な娘に手を出して妊娠させたなんて知ったら、きっと許せませんし。……
「横に……って」
『ひとまず、追いついた先で近くにあった旅館に飛び込みました。財布はポケットに入ってたんで。ちょっとしんどそうなんで、もう少し休ませて……』
「今日はそのまま、泊まらせてちょうだい」
話の途中でお母さんが私からスマホを奪い取って、秀さんに告げる。
「申し訳ないけど、秀さんについていてもらっていいかしら? 明日はお休みにしてもらうから」
「な……
どんどん話を進めるお母さんの後ろから慌てて言葉をかぶせるお父さんを無視して「お願いね」と言って通話を切ってしまった。
「おま……」
「元はと言えば、お父さんのせいでしょ⁉ そうでなくても妊娠初期のデリケートな時期なのに、娘の目の前で相手を殴るだなんて! どれだけショックを与えたと思うの⁉ 本当だったらおめでたい出来事で、お赤飯炊いてお祝いするところだったのに!」
「いや、赤飯炊くなら、もち米をしっかり浸さんと……」
半ギレのお母さんの勢いに負けてか、和菓子職人の意地なのか、見当はずれな受け答えをするお父さん。
確かに、美味しいお赤飯を作るには、せめて半日はもち米を水に浸さないといけないし、小豆の仕込みも必要だけどね。
お姉ちゃんは栗入りのお赤飯が好物だから栗の仕込みもしなくちゃだし、まあ、つわりで食欲がないけど、でも好物なら……って、お父さんに引っ張られて、思考が変な方向行っちゃった。
「とにかく、茶映は一晩外で泊まってもらって、明日迎えに行ってきます。もし、明日も今日みたいな態度を取るようなら、茶映と
「そんな、お前まで家を出るなんて……」
「娘の大事な結婚相手に暴力を振るうような男、私は許す気ありませんから!」
オロオロしているお父さんに叩きつけるようなお母さんの言葉。
「……分かった。もう、殴ったりしない、から」
シナシナとしおれて、か細く告げるお父さん。
まさに「青菜に塩」って感じ。
『よくそんな言葉覚えていたな』
『バカにしないでよ。これでも現国の勉強はがんばっているんだから』
『そうか、えらいえらい』
夜も更けて。
宣言通りリクから連絡がきたので、事の顛末を伝える。
と言っても、メッセージでだけど。
今夜はお父さん、ショックで早々と酔っぱらって寝てしまったけど、万が一にも声が聞こえたらマズいので、音声通話はナシ。
あのあと、ちゃんともち米や小豆の仕込みもしていたところを見ると、かなり反省しているみたいだけど。
ちゃんと栗も準備していたし、やっぱりお姉ちゃんのこと、ちゃんと分かってるし、大事に想ってるんだなあ、って思う。
だから、今夜はこれ以上刺激したくない、って気持ちもある。
『でも、やっぱり怖いなあ、お
『さすがに、今回のことがあるから、大丈夫だと思うけど。お母さんにあそこまで言われて、二度と暴力は振るわないと思うし。……怒鳴られる覚悟はしておいた方がいいとは思う』
『ああ、肝に命じておきます。ってか、やっぱり強いな、サホのお母さん』
『まあ、あそこまでキレたのは、私も初めて見たよ』
『そうか。さすがは【
『そっか、そのこと言いそびれてた』
お師匠様のことや
『まあ、それは、おいおい。でも、お姉さんのこと、何とか収まりそうでよかったよ』
『うん』
『なあ、サホ?』
『なあに?』
『俺もさ、将来サホとの間に娘が生まれたら、もしかしたら、お義父さんみたいになっちゃいそうで、怖いんだけど』
『リクは大丈夫でしょ?』
『いや、サホとの娘なんて、絶対可愛い! 嫁にやりたくなんかない!』
『ダメだよ? 相手殴ったり、暴言吐いたら、私、許さないからね?』
『うん。それ、絶対本気だって分かる。サホ、そういうところはお母さんにもお姉さんにも似てると思うし』
『そうだよ。だからね』
『何?』
『リクに何かしたら、私もお父さん許さないって決めてるの』
スマホが着信を知らせて、ブルブル震えた。
『サホ、ありがとう。頑張って、サホのお父さんに、結婚申し込む!』
「うん」
電話越しのリクの声に、私は小さく応えた。
『何なら、明日にでも!』
いや、それはさすがにマズいから、タイミング!!
っていうか、お赤飯食べたいだけじゃないよね? まさか。
興奮するリクを宥めて電話を切る瞬間、ちっちゃく「いいなあ、栗のお赤飯」って言うの、聞こえていたからね!
突然ファーストキスを奪った先生からいきなり溺愛されているんですが 清見こうじ @nikoutako
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