閑話休題~ワタシの知らない先生の事情 遊園地デート編~

 茶道部では色々問題も持ち上がっていたが、サホが活躍してくれて、ひとまず落ち着いた。


 そそっかしいと思っていたけど、こういう時に素早く対応できるフットワークの軽さはさすがだよな。サホ、えらい!


 でも、あのお師匠さんにまた会えるのか。ちょっと嬉しいな。サホに言うとまたヤキモチ妬くから言わなかったけど。

 あの人を思い出すと、ちょっと胸がキュッとするって言うか、せつないような懐かしいような気持ちになる。美人だとか、サホに雰囲気が似てるから、とか、そういうドキドキした感じとは違うんだよな。

 

 義理の母とはいえ、俺は母親のことは、実の母以上に大切に思っている。とはいえその母とも、ちょっとタイプは違うし、だからマザコンっぽい感情を抱いたってわけでもない。なんなんだろなあ。

 まあ、20年前の姿を想像すると、かなり好みのタイプかもしれないけど。あの人もサホみたいなそそっかしい少女だったのかな? それはそれで、アリ、だな。



 でも、俺にはサホがいるし。想像するのは楽しいけど、やっぱりサホだよな。

 声が響くからって、夜に二人で話すのも文字中心だけど。でも、最後は必ず声を聞かせてくれる。


『リクだよ』

『サホだよ』

って分かりきってるのに、つい名乗って。

 ホントはビデオ通話でサホのパジャマ姿とか見せて欲しいなぁ、とか思うけど。

 でも、夜に耳元で響くサホの、ちょっと鼻にかかった可愛い声を聴きながら目を閉じて、色々想像するのも悪くない。


 色々、が何なのかは訊かないように。



 さて。


 待ちに待った遊園地デート。


 サホに観覧車乗りたいって言ったけど、そもそも俺は、遊園地そのものがほぼ未経験なんだ。

 

 とりあえず地元でもわりと大きくて有名な、観覧車のある遊園地を調べて。


 GWは混雑するみたいだけど、そのくらい混んでいる方が目立たないだろうし。


 今回も高村が服装をプロデュースするって言ったので、遊園地のアトラクション向けに考えてもらった。今回はサホも込みで。

 ついでにミニスカ希望も伝えた、のに。


 何で生足じゃないんだよ?

 超ミニにニーソで絶対領域なんて、そこまで期待はしてなかったけどさ。


 スカートはわりと短めだったけど、代わりにスパッツ履いてるし。まあ、ふくらはぎは見えているから、完全防備じゃないけど、できれば、上の方も晒して欲しかったな。

 と思ったけど、そうすると他の男の得になると言われて、前言撤回。生足は別の機会に。できれば二人きりの時を強く希望!


 


 1時間ほど電車に乗って、予想通りの混雑で人気のアトラクションは行列だったけど。


 サホといると、移動時間も待ち時間も楽しい!


 普段直接話せない分、高校生気分でおしゃべりが止まらない。

 和菓子の話とか、本の話とか、最近観たテレビの話とか、俺の好きなものはもちろん、そうじゃないものも、サホから聴くと、とっても興味深くて面白い。


 俺って、高校生の時もこんなに話しなかった気がする。男子校で女の子に免疫なかったし。もしその頃サホに出会っていたら、ちゃんと話せなかったかも。

 そう考えると、今のこの年でサホに出会ったのって、やっぱり運命的な気がする。


 話の流れで俺の高校生の頃の話とか、気がついたら家族の話になってて。


 いや、いずれは話すことだし、別に隠すほどのことじゃないんだけど。さすがに実の父親については、まだ話せないけど。

 やっぱり話題が重かったのか、サホがシュンとなってしまった。失敗したかな?

「教えてくれたのは、嬉しいよ。家族の話題振ったの、私だし。……へんな反応して、私こそゴメンね」


 そんな風に気遣いしてくれるサホが、ホントに愛おしくてたまらない。

 サホのお父さん攻略が大変そうなのも実感しちゃったけど。


 でも、そりゃそうだよな。こんな可愛い娘、俺が父親だったとしても簡単には手放せないよ。いや、無理かも。でも、サホのお母さんは味方になってくれそうなので、頑張るしかない!


 そういえば。

 サホに話しながら思い出した。昔、母親が俺をランドに連れていってくれた思い出。確かに、あの時、母親以外に、もう一人女の人がいたんだよな。誰だったんだろ?

 俺がまだ小さかったし、サポートのために付いてきた家政婦さん、とか? 思い当たる人がいないけど。実家の家政婦さんはあの頃とは半分くらい入れ替わっているので、今は働いていない人かな?


 なんとなく、きれいな人だった、ってのは、思い出せるけど。




 初めて乗ったジェットコースターは、スリル満点で超面白かった。

 サホも楽しんでいるし。でも、ちょっと「きゃー! 怖かったよー!」ってしがみつかれるシチュエーションも期待してたんだけど、な。

 最近、慣れてきたのか、ちょっとからかっても平気そうな顔されるし。

 チェロス、平気で交換して食べちゃうし。恥ずかしがると思ったのにな。


 で、見つけたのは、「お化け屋敷」。


 これは鉄板だよな。キャーキャー言って抱きつかれること必至! 最悪俺が抱きついてもオッケーだし。


 ……まさか、それがこんなことになるとは。


 嫌がるのは想定内だったし、そんなサホをからかうのを楽しんでいる部分があったのも認める。


 でも! 俺バカ!! 


 サホがホントにツラい時は、それを隠そうとするって、分かってたはずなのに!


 泣くほど嫌なことに、強引に誘うなんて!


 言葉を濁しながら、当たり障りなく避けようとしていた時の、青ざめた顔に気づいていない訳じゃなかったのに!

 

 結果、サホをまた泣かせてしまった。


 小さい頃のトラウマは、キツいよな。俺だって、まだ事情をよく知らない頃に父親に冷たくあしらわれて、他の子供みたいに遊んでもらえないことにすごく傷ついた。

 母親や、伯父さんがその分世話を焼いてくれたから、本当の意味で寂しいとかなかったけど。


 っていうか、その伯父さんが実の父親だって知った時はさすがに人間不信に陥った。長くは続かなかったけど。

 その前に散々遊んでもらって、すっかり伯父さん大好きになっていた俺は、不承不承現実を受け入れざるを得なかった。しっかり手玉に取られていた気がする。

 今逆らうような言動するのは、その意趣返しもある。反抗期紛いのガキみたいな対応だって分かってるけどさ。


 サホが家族が大好きなのはよく分かるし、お姉さんのことはよく話題に出るから、ホントに大好きなんだろう。そのお姉さんとはぐれて、一生会えないかもって暗闇で絶望した出来事は、ものすごい心の傷だろうし。

 おまけに、そのお姉さんまで大泣きじゃ、な。


 何とかサホを慰めて、サホも逆に申し訳ないって謝って。


 でも、俺、サホを泣かせてばかりだ。


 最初の出会いのキスは、事故カウントにさせてもらうけど。


 

 その次は、半分くらいサホの反応を楽しむつもりで、あと、サホを落とすのは簡単だ、俺だったら許されるって傲りもあったし。


「お前、すぐ泣くなよ」ってサホには言ってたけど、泣かせているのは俺、なんだよな。


 ………………猛省。


 その後、またサホは楽しそうに遊んでいたけど。

 サホの笑顔を見るたびに、チクチクと俺の胸は傷んだ。


 予定通り観覧車にも乗ることになったけど。サホ、無理してないかな?


 最近はサホが受け入れてくれるから、からかい半分にエロい話をしてるけど。

 ホントはもっと先に進みたいって俺の欲望を紛らわせている、ってこともあるんだけど。


 でも、軽く体を寄せることも恥ずかしがるサホにしたら、それだって負担なのかもしれない。


 サホが可愛いのは変えられないし、サホが可愛いから触りたくなるのも変えられないし。

 でも、それがまたサホを泣かせることになったら?

 

 正直、首から下を触って、気持ちよくさせて、サホから「して欲しい」って言わせたいって下心もあるし。


 でも! ここはガマン!


 これ以上、サホを泣かせたくない!


 俺は、婚約が整うまで、サホの体に触らない!



 ……手を繋ぐのだけは許して欲しい、けど、な。




 観覧車に乗って。


 俺は自分の決意を示すために、あえてサホの隣には座らず。


 でも、あまりにも決意が固すぎたのか、表情に出てしまい、逆にサホを不安にさせてしまった。


「なんか、怒ってる?」

 なんて言われてしまった。


 俺がサホに対して申し訳ないと思っていることと、その反省を含めて、自制しようと決意したことを話す。


 自分からはサホに触れないこと。

 でも、手だけは繋がせて欲しいこと。


 サホからの接触はオッケーにしたのは、まあ、ちょっと逃げではあるんだけど。

 でも、サホのことだから、自分からなんて、ないよな、きっと。

 

「私からも、触らないって言ったら?」


 案の定、確認が入る。やっぱり、サホからはないよな。でも、自分で決めたんだ。


「……超ツラいけど……ガマンする」


 

 俺の決意はダイヤモンドより固いんだ!



「……私からは、恥ずかしいから、リクからしてほしいな、やっぱり」


 ……決意は、一気に軟化した。

 硬度がダイヤモンドから豆腐に急降下した。


 反則過ぎだろ!


 そんな、そんな可愛い顔でねだられたら、折れるしかないじゃないか、なあ? 


 仕方ないよな? サホのお願いだし?


「あ、だからって、やたら触っちゃダメだよ?! ハグくらいまで!」

「………ハグは、オッケーなんだ? 他のところを触るだけは?」

「ダメ! 触っちゃダメ!」


 サホ、気付いてる? 


 今、君は俺にハグのオッケーを出したんだよ?


 なのに、他のところ触っちゃダメとか!


 こういうのを、生殺しって言うんだよ?!



 ハグしたら、ついでにあっちとかこっちとか、触りたくなるかもしれないじゃないか?! いや、なる!

  

 なのに、触るな、なんて……俺の中の色々が、また暴走しそうだよ……ツラい。


 でも、サホにしたら、最大限の譲歩で、想定外の許容なんだよな。


 だったら、それに甘えよう。


 サホの隣に移動して。さっそくハグする。


 

 ああ、サホ、柔らかいなあ。

 腕の中にすっぽり収まって、相変わらず爆弾級の弾力が一部あるけど、それ込みでホントに、ふわふわやわやわプルプルしてて。つい頬擦りしてしまった。

 ほっぺたも柔らかい。


 戸惑いながらも素直に腕の中にいるサホ。


 ……やっぱり、ツラい。



 これはある意味、さっきの自制宣言以上の罰かもしれない。


 うん、これを俺の罰、と言うことにしよう。

 ある意味、天国のような地獄のような罰なんだか役得なんだかって感じだけど。

 

 観覧車が頂上に到達し、夕陽に染まった街並みが見えた。サホも目をキラキラさせて景色に観入っている。夕陽に照らされたサホの肌が、頬が、唇が、とってもキレイで……色っぽい。


 一応断って、サホにキスする。

 サホは素直にうなづいて、目を閉じる。



 うわっ! 可愛すぎ! そしてエロい! その顔!


 俺を苦しめるために無防備にしてるだろ?!


 俺は夢中になってサホの唇をむさぼる。

 そうしたら?!


 サホ、舌を絡めた? 自分で?!


 無意識に舌を引っ込めたけど、たどたどしいながら、サホは舌を突き出して俺の舌を追ってきた。


 もう、ガマン出来ない!

 

 サホの口中をまさぐり、抱き締めた体をくしゃくしゃに抱き潰すくらいになで回す。


 パーカー越しに、下着の筋が触れる。これは、ブラジャーの、ホック?

 外したら、怒るかな?

 上からなら、触っても?


 手を思わずパーカーの裾に移動させようとした時。


 ガタン、という振動で我にかえる。


 俺は思わず、唇と手を離し。


 とろんとした潤んだサホと目が合う。



 ……ヤバかった!

 

 さっそく約束破って、触るところだった。


 ……でも、惜しかった。



 観覧車は、もう残り四分の一くらいの高さまで降りてきていた。


 サホは夕陽に染まってるわけではなく、顔を赤らめて。

「……景色、結局あのあと、見てなかったね………」

 恥ずかしそうに言った。



「まあ、お約束だし……もう、下に着いちゃうな」


 この時間が終わって欲しくないけど、ある意味助かった。

 サホの前に、俺の自制心は豆腐以下だ。


 分かってたけど、いつもいつも思うけど、さ。


「もう一回、乗る?」


 ………………サホ………………。


 俺の自制心も豆腐だけど、サホの無自覚の誘惑の方が、絶対始末に悪いよな!!


 


「……やめとく。電車に間に合わないと困るし。……色々困るし」


 時間制限を意識して、何とか自制心を建て直す。

 正直その制限がなかったら、とうに理性が崩壊している。


「また、遊びにこようね」


 無邪気に可愛く笑うサホの能天気さが羨ましい。


「そうだね……」

「どうしたの?」

「いや、名残惜しいなあ、って。もっと時間があったらいいような、ないから助かったような、複雑な気分」

「そうだね。時間制限があるから楽しいっていうのもあるかもね」


 俺の葛藤が全く伝わってないんだな。それが、サホのいいところだし。

 そんな無邪気で天使みたいに純粋で、全く俺の決意を疑ってないところとか、……泣くほど可愛いし、好きだし、だから、ツラい。


 


「ホントにサホは純粋で天然で、マジ天使みたいだよ……ホントに」




 無邪気な天使が、俺を誘惑しまくって、苛んでくる。


 やっぱり、これは、天国のような地獄だな。

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