閑話休題~ワタシの知らない先生の事情 その2~
く、悔しい!
俺としたことが、あんな小娘に手玉に取られるなんて!
気は強そうだけど、あんな腹芸ができるなんて思っていなかった。気が強い分、感情をうまくコントロールすれば扱いやすそうだって思っていたのに。
どこで見誤ったんだ?!
おまけに気を付けていたはずが、歩き方だけで茶道経験があるって見破られるなんて。まあ、本当に茶道はかじっただけで、ただ茶事の招待を受けても大丈夫な程度にしつけられた、って言うのが本当のところなんだが。
とはいえ、あの女の観察眼は侮れない。
まあ、いい。とりあえず、中沢のことについては結果オーライだ。
俺だって、これ以上のことは、慎重に行こうと考えていた。強がりじゃないぞ?
だって、中沢は、あんなに隙だらけに男を誘惑するくせに、中身はお子さまなんだから。
無防備過ぎて、逆に良心が痛む。
これ以上は、大事に、時間をかけて、とは、思っていた。
ただ、それが、人に禁止されると……何だかムカつく。
あれじゃ、俺が遠藤に言われてガマンしているみたいじゃないか?
俺が、俺の意志で、中沢を大切に扱おうと決めたって、後から言っても、信じてもらえないじゃないか?!
……ヤバいなあ。
二日前までは、何となく興味が湧いただけで。
また会えたら、面白そうだな、ってくらいだったのに。
昨日の再会で、つい魔が差して、手を出してしまった。それでも、まだキープしておこうかな、った気持ちだったはず。かなり心は揺れ動いていたけど。
そうしたら、保健室だ。
気になって仕方なくて、入学式の教職員紹介が終わったあと、こっそり抜け出して。
そうしたら、無防備に眠っている中沢がいて……そりゃいるだろ? 具合が悪くて休んでいるんだから。
朝も調子が悪そうだったから、声をかけた時に気付いていたんだから、もっと早く対処してやるべきだったよな、担任として。
だけど。
それとは別に、ムクムクと、悪戯心が湧いてきて。
誰もいない保健室。
無防備に眠っている女の子。
首筋を覆うブラウスの襟。そこに巻き付くリボンタイをほどきたい。その下の第一ボタンをはずしたい。そんな欲求に駆られて。
ぐっとガマンして、ついっと顎に指を這わせて。
「……ん……」
その拍子に、中沢が小さなうめき声を上げた。
俺はビクッとして、思わず手を引っ込めて。
でも、中沢は目を覚ますことなく、再び穏やかな寝息を立てはじめ。
うめいた時にわずかに体を動かしたせいで、掛け物がずれた。
胸元を覆っていた掛け物が……下にずれて。
……うわっ、ヤバい。
コイツ、色々お子さまなクセに、どうして?
昨日も触った感触で分かっていたけど、コイツ、胸がデカイ。
巨乳、というほどではない。でも、それなりに、ある。
昨日や今朝はブレザーを着ていたから、そんなに目立っていなかったけれど、今はブレザーを脱いでブラウスだけだ。うっすら透ける、下着の白いレース飾りが清楚で逆にそそる。
仰向けであのボリュームって……脱いだら?
昨日、脱いだらスゴそう、なんて中沢に言っておいて、ブーメランだ。純粋にダメージがデカイ。
これ以上想像したら、マジでヤバい。
慌てて俺は、掛け物を直す。
「……ん、せ……せい……」
むにゃむにゃと呟いて、でもまだ起きる気配はない。
コイツ、ホントにヤバいよな?
共学とは言え、元女子高で女子の比率が高いのと、コイツの天然さが手伝って、今まで無事だったのかも知れないけど。
普通の高校だったら、すぐロックオンされるぞ?
ていうか、去年の薄着シーズンは、これ程育ってなくて(どこ、とは言わない)、まだ目をつけられていなかったとしたら?
ヤローなんて、ガキでも考えることは、変わらない。
むしろ、刺激が強すぎる!
それに。
昨日はファニーフェイスだなんて思ったけど。確かに、感情が丸わかりで、愛嬌が前面に出過ぎているせいで、そっちが目につくけど。
こうして眠っていると、意外に顔立ちも整っているんだよな。所作もキレイだし、今朝のお嬢様然とした様子と重ねると、育ちのよさが浮き彫りになる。
もう少し大人になって、感情をコントロールできるようになったら。
遠藤のような正統派美人とは言えないけど、十分に魅力的な女性になる。
男が放っておかないような、そんな女性に。
「……せん、せい……?」
俺は、無意識のうちに、中沢に口付けた。
首筋に、頬に、唇に、鼻筋に、額に。
俺の物だと、印をつけたくて。
だけど、痕がつかないように、触れるのが、やっとで。
その後、何だか無性に愛おしくなって、その口付けの名残を手で追った。
額に手を当てていたら、中沢は目を覚ました。
起き上がった中沢の、先ほど目をそらした胸元にまた目が行ってしまい……くそ、やっぱり、予想通りだ。
俺のせいで眠れなかったのかと問うと、真っ赤な顔で否定して。そんな風に目を潤ませて、それが嘘だってバラバレなんだよ。
一度こらえたはずの衝動が、再び涌いてきて、俺は、中沢をかき口説いた。バランスを崩し再び仰向けになった中沢を抱きすくめる。
昨日はブレザー越しだったけど、今日は、ダイレクトに胸の感触が伝わる。
眼鏡が邪魔だ!
俺は慌てて眼鏡を外し、ベッド脇の床頭台の上に放り投げるように置くと、その手で中沢の顎を捉えた。
強引に了承させて、今度は深く、口付けをする。
ああ、キスって、こんなに気持ちがいいもんだったのか?
昔、年上の女に無理やり唇を奪われた時は、ただただ気持ち悪かった(なので、残念ながら、俺のファーストキスは中沢じゃない)のに。
絡み付く舌が、絶妙な密着感と粘膜をくすぐる感触が、心地いい。
昔のことは、ただの事故だ。
俺のファーストキスは、最高に気持ちのいいキスの相手は、中沢だ。
「……や……あ……あぁ……」
唇が離れた拍子に、中沢の喘ぎ声が聞こえる。
半泣きなのに、目がとろんとして……最高に色っぽい!
これ以上、ホントにヤバい!
もう、入学式も終わる。
最後の自制心で、何とか中沢から身を遠ざけて、涙を拭いてやり。
本当に、このままだと、ここで一線を越えることになりかねない。
せめて、ここ以外で。学校から離れたところなら。
もう少し、じっくり、中沢に向き合えるんじゃないだろうか?
結構本気で伝えたけど、中沢は全面拒否。
また俺の気持ちは苛立った、けど。
気持ちを落ち着かせるために、少しからかって気を紛らわせて、その反応が可愛すぎて、からかいすぎたら、俺のことをチャラいみたいに言うから、本気になって弁明していたら。
中沢が俺の夢を見て眠れなかったって言うじゃないか!
こんなことで浮き足立つなんて!
俺は、そもそも自分からは告白したことがないのに、告白されたことは両手両足の指を使っても足りないくらい、いつも惚れられる立場だった。
だから、中沢が、俺に惚れても、それは想定内で。
なのに!
なんで、こんなに嬉しいんだ?
そう思ったら、ストン、と気持ちが落ち着いた。
っていうか、俺の夢を見て眠れなかったなんて、ホントに、なんて可愛らしいんだ?!
……いや、かなり欲目が入ってるって、落ち着いたら、思ったよ?
でも、この時は、本当に嬉しすぎて。
思わず、万葉集の和歌を引用しちゃったりして。
……分かってるよ! 俺が告られまくっているのは、この外見のせいだって!
こんな、古文オタクな男、イマドキ流行らないって!
だけど。
中沢は、聴いてくれた。
俺の古文蘊蓄を、面白いって、もっと聴きたいって、言ってくれた。
ただ聴くだけじゃなくて、ちゃんと混ぜっ返したりして、そのやり取りも楽しかった。
俺の見る目は、間違っていなかった。
やっぱり、中沢は、俺の運命の女なんだよ。
だから、やってやるよ。
茶道部の客寄せパンダだろうが、なんだろうが。
理事長に逆らわない範囲で、うまく立ち回って、茶道部の存続を勝ち取って、中沢の婚約者の座を勝ち取ってやる!
……そう言えば。
何か、大事なことを忘れている気がするんだけど。
あれ?
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