第107話 感動の始まり〜同僚と友達〜
「あれ、これってどうすればいいんだ……」
俺は境内の石畳を歩き始めたところで、足元を見てつぶやいた。
「えっと左足と右足で、手が……」
なんかさっき父さんたちから説明されたような気がするが、テンパってて思い出せない。
なんか足を出す順番とかあったよな……えっと……。
「ふふふ、そんな気にしなくて大丈夫ですよ。私達の結婚式ですもん。楽しみましょう。」
慌てる俺を見て、笑いながらさくやさんが手を繋いでくれた。
その手は小さいが温かく。とても心強かった。
「そうですね。よし、楽しもう。」
俺は大きく頷いて、ペチンと自分の頬を打った。
そして、無駄な思考は取っ払ってたださくやさんと一緒に歩いていくことだけを考える。
「「おめでとうございます!!!」」
一歩、ニ歩踏み出し、神主さんの待つ本殿が見えてきたところで、聞き慣れた声が響いてきた。
「関……部長……ありがとう」
大きく手を振っている関と、それをなだめながらも小さく手をふる部長を見て、俺は目頭が熱くなる。
会社にいたときにもたくさんお世話になって、辞めてからも喫茶店に足を運んでくれて。そして、結婚式にまで来てくれて。
本当に、いい部下と上司を持った。
いや、違うな。
もう元になってしまったから、今言うならば――
――――本当に良い友を持ったな。
「同僚さんですか?」
さくやさんが二人を見て、軽く会釈しながら言った。
「はい。元部下と元上司です。二人とも本当に良い人です。俺たちが出会った合コンにいたので、一回会ってませんか?」
「えっと……よく覚えてないです」
俺が尋ねると、さくやさんは頬をかいてそう答えた。
まぁ、一度きりの合コンで会った人なんて覚えてないよな。
地域の皆さんに祝福されながら、少し恥ずかしいけど手を繋いで進んでいく。
真ん中を少し過ぎたあたりで、
「「おめでとー!!!」」
そんな元気な声が聞こえてきた。
声のした方を見れば、気の強そうな女性と小さくて可愛らしい女性が、満面の笑みで手を振っていた。
「花ちゃん……愛梨……」
さくやさんが二人に小さく手を振り返しながらつぶやく。
「お友達ですか?」
「はい。というか、同僚ですね。二人も合コンにいたと思いますけど……」
俺が尋ねると、さっきにお返しとばかりにさくやさんが言う。
「あぁ、なんとなくイメージだけはあります。はい。」
たしかに、海海銀行さんに女性が三人居て、気の強そうな方とぶりっ子っぽい方がいるというのは覚えていた。
うん、覚え方最悪だな俺。
「ね? 細かい情報なんて覚えてないでしょう?」
「ハハハ、そのとおりですね。」
さくやさんに勝ち誇ったように微笑われて、俺も同意して笑った。
前向けば、本殿まであと少し。
残るのは、父さんたちとお義母様達だけだ。
「いきましょう」
「はい」
さくやさんともう一度強く手を握り直して、二人で両親達へと歩きだした。
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