第103話 夜の駅で事件発生

駅の裏の自動販売機で温かいお茶を買った。

珈琲と迷ったが、夜遅いのでカフェインは良くないかということで、結果お茶になった。


お茶にもカフェインがああだこうだという意見は受け付けない。

あくまでもイメージ。科学的根拠は一切ない勝手なイメージなのだ。


「冷えるな」


北海道の雪だらけの寒さとはまた違う、瀬戸内特有の冷たな風に体を打たれながら、ホームへの道をたどる。


もう少しで電車が来るな。いや、田舎だと電気を使ってない場合もあるし、その場合は列車か?


そんな事を考えて角を曲がったその時。


「なぁなぁ、お姉さん駄目なの?」


「ひ、人を待ってますから……」


「えぇ、いいじゃん。こんな夜に一人でいるなんて何されても文句言えないよ」


「そうだよ、多分相手さんも忘れてるよ」


「「ガハハハ」」


そんな下衆な笑い声が聞こえてきた。


「ッ!!」


俺は背筋が凍るのを感じながら、飲み物をポッケに突っ込んで走り出した。


「いいじゃん、すぐ終わるからさ」


「ほら、終電来ちゃう前にさ、パバッとね?」


二人の男がベンチに座ったさくやさんに詰め寄る。


「か、彼氏がい……」


さくやさんが何かを口にしようとする、その前に。



「ひとの彼女に手を出さないでください」



俺は男たちと彼女の間に入り込んだ。


っぶねぇ、間に合わないかと思った。

とりあえず、まだ口論だけみたいで良かった。


「は? なんだよおっさん。どけよ。」


「関係ないし。俺らはおねーさんと話してんの。」


いきなりやってきた俺に、男たちは煙たそうな顔をする。


さて、どうするか。


力勝負では勝てる気がしない。

口論……でおさまってくれるようには見えないし。


自分一人なら逃げればいいが、今回ばかりはそうはいかない。


……アレを使うか


俺はチラッと後ろに目をやって、さくやさんがギュッと背中を掴んでいるのを確認し、一瞬だけ微笑む。


そして、ポケットに手を突っ込んで、


「すみません警察ですか? 今ですね、若者二人に絡まれていまして。はい、駅の前です。」


取り出したスマホを耳に当てると、そうあたかも本当に電話をかけているかのように声を出した。


実際に警察に電話はかけていない。

というか、そんな暇なかった。


冷静に考えれば、コレがハッタリだとわかるのだが……。


夜の明かりの少ない駅のホームで相手の手元はよく見えない。そして、俺の社畜時代に培った大人特有の間や、対応の仕方を再現した話し方。


それらを踏まえると、二十前後の彼らにはあたかも本当に電話をかけたかのように見えるだろう。


いや、そう思わせられなくてもいい。

ただ、警察を呼ばれるかもという不安さえ抱かせれば良いのだ。


「っ……!!!」


一人が俺の様子を見て、息を呑んだ。

そして、男たちはお互いに眼と眼を合わせると、


「い、行こうぜ、こんな奴らほっとこうぜ」


「あ、あぁ。女なんていくらでもいるんだ」


そんな言葉を置いて、そそくさと去っていった。

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