第89話 波のお悩み〜うまくまわり始めた世界〜
「ありがとうございますっ!!!」
私はガッツポーズをしそうになるのを抑えて、勢いよく頭を下げる。
「いえいえ、素晴らしいプランですし。何より、あなたの情熱が伝わってきました。ぜひよろしくおねがいします。」
相手方のお偉いさんが、優雅に礼をして笑ってくれた。
「本当に、ありがとうございます。では、失礼します。」
私は最後まで気を引き締めたまま、扉を閉めて外へ出る。
コツコツとビールの音を響かせ、二階から降りてビルを出て、少し歩く。
そして息を深く吐いて吸い込み、
「ぃよっしっ!!!」
人目も憚らずに大きくガッツポーズをした。
周りには人もいないし、先方のビルからも離れているから大丈夫だろう。
北原さんと会ってから数日だったが、彼と会ってから話がトントン拍子に進んだ。
それが彼のおかげかはわからないが、あれから上手く行っているのは確かだった。
「これで目標よりも多いし、何より大口とつながりができた。書類も昨日本部からの最終判が押されてたから、あとはこっちでまとめるだけ。」
ここまでくれば、あとは私の仕事はないに等しい。
支店の場所は内装外装ともに完璧だし、取引先も決まり、どんな人員でどうやって回すかも決定済み。
となれば、あとはのんびりと開店を待つだけ。
いや、正確にはのんびりしていられずに普通よりも忙しく動かなければならないのだが。
それでも、今までと比べれば楽になった。
「しかも今週末は三連休!!」
成人の日だったか建国記念日か天皇誕生日から知らないけど、とにかく三連休だ。
帰れないと半ば諦めていた実家にも帰れることになった。
本部からもゆっくり休んでねと言われているので、お言葉に甘えて帰省することにしたのだ。
何年ぶりだろうか。
色々あって、長い間お正月とかにも帰れていない気がする。
帰れるのは嬉しいけど……うちの人たちは少しアレなので、私の知らないうちに色々なことを準備していそうなのが怖い。
お見合いとかが勝手にセッティングされている未来が見えている。
はぁ……そこまで強引なことはしないだろうけど、結婚はまだかとは言われそうだよな。
帰省できることの喜びと何か言われそうなことへの不安を混ぜた複雑な気持ちで、松山の道を歩いていく。
少し前まではホテルとか仮の場所で集まっていたけど、支店ができるところで仕事ができるようになったので、本部から応援も来て気持ち的にもタスク的にも楽になった。
今日はもう外回りは必要ないので、支部にこもって書類作成や書類まとめ、あとは書類確認に時間を回すことができる。
本当に、うまく回りだして嬉しい限りだ。
私は支部のビルに入りながら、彼のお陰……というわけじゃないけど、本当に落ち着いたらまた会いに行こうと。そう、思うのだった。
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