第88話 元 社畜の日常
「ありがとうございました」
俺は閉まりかけのドアに向けて頭を下げる。
「あの人、週に一回は来てくれてるよな。」
そうつぶやきながらお皿を片付ける。
今来てくれていたのは、開店初日に来てくれた就活生のお兄さん。
受かったと喜んでいたはいいけど、いざ入ってみると研修づくめでヘトヘトらしい。
けど、時間外労働が8時間を超えることもなく、お給料もしっかりと出ているらしいし。何より、彼自身とても楽しそうにしているので大丈夫だろう。
「ふぁぁ昼までは暇かな〜」
片付けも終わり、お店に誰もいないのでソファに座ってぐったりとする。
疲れているわけじゃないけど、暇だし。これくらいは許してほしい。
「お見合い……ねぇ」
母には『そこはかとなく上手く行きそうな雰囲気を感じているような気がしている女性がいるから、もう少し待ってください。』とお返事をお書きした。
別に間違ったことを言ってはいない。
近所のおばさま方と仲いいし?
そこはかとなく以上に、煮っころがしを渡し渡されの関係ですけど。
そう考えると仲のいい女性はたくさんいるな。
みんな既婚者なのはご愛嬌というもの。
あと、歳が倍くらい違う。
「28、29、30、40…50……60………70……」
今の年齢からざっくりと今後の将来について考えてみたが……なんだろう、60を超えたあたりから数えるのが嫌になってきた。
平均寿命が80と言われる現代だから、俺も80前後まで生きたとしよう。
さて、ここから約50年。私は何をして過ごせばいいのだろうか。
路頭に迷わないだけのお金はあるし、金銭面の心配はナッシングピーポーマックスだ。
ここのお店を続けていくのはそうだけど、やはり子供はほしいかな。
子供の独り立ちとか、孫が遊びに来るとか体験したい。
けど、子供ができるにはまず結婚しないといけないわけで……。
「それができたら苦労してないんだよ……」
28まで恋愛なんてせずに、会社と付き合った末、生涯を添い遂げる気だった自分を殴ってやりたいな。
30までと考えると、猶予はあと2年。
けど、ここでどうやって相手を見つける?
言ってはなんだがあまり若い子はいないぞ。
子供なら少なからずいるけど、働き盛りの二十代ともなるとみんな出稼ぎに出ているようで、さっぱり見ない。
「マッチングアプリとか怖いしな、職場恋愛は……神之さん既婚者だし。マジで空から美少女降ってくるしかなくない?」
まず候補に神之さんが上がっている時点で終わりだと思うけど。本当に相手がいないな。
「うーん、難しいねぇ」
俺はソファに背を預けながらグダグダと考えるのだった。
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