第85話 雑談が一番のなんとか

「支部は松山でしたっけ?」


俺は珈琲の横に砂糖を置きながら尋ねる。


さくやさんは最初はブラックを楽しんで、後半に味変するタイプらしい。


まずは香りを楽しみ後にミルクと砂糖で癒やされるというのは、とても素晴らしい飲み方だ。俺も今度真似しよう。


「はい。って、なんで知ってるんです!?」


俺がさらっといった言葉に、さくやさんが驚きの表情を見せる。


「いや、さっきうちの元上司と元部下が来てくれてまして、話の内容的にもしかしてと思いまして。」


「なるほどですね。確かに銀銀銀行さん、今会議してますね。」


彼女が時計を見て、もうこんな時間かとつぶやく。


「そうなんですか。みんな忙しいんですね。」


「そうですね……。色々落ち着いたら実家にも帰ろうと思ったんですけど、落ち着きそうもなくて。支部長だからって仕事が多すぎるんです。」


帰れないことの悲しさと仕事に対しての怒りを混ぜて、彼女が言う。


「支部長なんですね! すごいじゃないですか。俺は万年平社員でした。」


出世街道の横でゴミを拾い続けて、しまいには一度もその道を歩くことなく脇道に逸れました。


「課長とかお話なかったんですか?」


「あるにはあったけど、仕事の量増えるのに給料は申し訳程度しか増えないので丁重にお断りを。」


不思議そうに尋ねるさくやさんに、俺は苦笑いとともに答える。


一時期、実力なんていいからとにかく役職について『課長』という名札で先方に行ってくれっていう時期があって、そのときにね。


俺みたいな平社員が行くよりも、〇〇課課長の□□ですって言ったほうが相手方に示しがつくし。課長以上が立ち合わなければならない会議とかもあるからね。


もちろん、給料は上がりません。ありがとうございます。


「なるほどですね。あ、ごちそうさまでした。」


さくやさんは食事初めと同じように、律儀に手を合わせる。


「お粗末様でした。お代は大丈夫です。」


「いや、そんな悪いですよ。」


さくやさんが胸の前で手を振って否定した。


「大丈夫ですよ。俺にはこれくらいしかできないんで、頑張ってくださいね。あぁ、無理はしすぎないように!」


頑張ってと言ったあとに、すかさずフォローする。


俺とか彼女みたいなタイプは放っておいても頑張っちゃうし、頑張りすぎちゃうから。


『頑張って!』よりも、『無理しないで』とか『頼って!』のほうが効果があるときが多い。


「ありがとうございます……。」


「うちも一人くらいなら雇えますし、まぁ気張らずにね。連絡してくれれば愚痴ならいつだって聞きますから。」


深く頭を下げる彼女に、俺は軽く笑って声をかける。


「本当に、ありがとうございます」


そんな俺を見て、再びさくやさんは頭を下げてしまう。本当にとても律儀な人だ。


「いえいえ、また会えたらいいですね。今度は時間があるときに。」


俺は本当に大丈夫と微笑んで告げる。


「そうですね!! では、また今度」


「はい、またのご来店お待ちしております。」


手を振って、お店から出るときも頭を下げた彼女に、俺は普段通りの挨拶を返した。


思いがけない再会ではあったけど、とても楽しかった。


いつかまた近いうちに会う。そんな予感じみた何かを感じながら、俺はお店に戻った。


三人とも、無理だけはしないでほしいな。






 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

皆様ありがとうございました。

本日でカクヨムコンテストの読者選考期間が終わりとなります!!


明日起きたときにどうなっているのかドキドキしながら寝ようと思います。


皆様本当にありがとうございました。

そしてこれから、コンテストがどうなろうと、今後ともよろしくおねがいします!


どうぞご贔屓に。

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