第58話 カレンダーを染め上げろ!
さてさて。設備は揃い、俺のやる気も実力もそこそこついてきているこの状況。
あとは本当に設備の配線の設定が終わればいいのだけど、それももう終わりました。
なんか、設置した数日後には業者さんが来てやってくれました。
普通に見てるだけで、数時間で終わった。
別に難しい作業もなかったらしい。
それで、設備やら椅子やら専門家の方やらで、いくらかかったかと言いますと。
詳しくは伏せますけど、ざっと数十万。
正直三桁行くと思ってたから、二桁で収まったのは嬉しい。
それでもまぁ大金だけど、そこは初期投資としてパーと払いました。カードを持つ手が震えたのは内緒です。
配線も終わり、もはやいつでも開店できるようになったんだけど。
ここまで来ると一つ問題が出てくる。
それは、いつ開店するのか問題。
開く前に神之さんが宣伝とかしてくれるらしいし、チラシとか撒いたほうが良いと聞いたから早めに決めたいんだけど。
「うーん、わからん。」
俺は真っ白なカレンダーの前で腕を組んでつぶやく。
社畜時代は真っ黒なカレンダーの前でどの予定の間に新しいのをねじ込むかと悩んでいたけど、やることがなさすぎると逆にどこに入れようかと悩んでしまう。
「休みの日がいい? それとも平日? 月曜?
日曜? マジでわからん。」
なんかラップしてるみたいだけど、こちらは至って真剣。
真面目にいつ開けようかと悩んでいる。
別に明日開けと言われても開けるし、一ヶ月伸ばせと言われても伸ばせる。
材料とかもそんな大量に使うものはないから、なくなる少し前に注文すればいいし。本当に困ってしまう。
「あぁもう決まらん! こういうときはノリでいけ!!!! 明日……いや明後日!! よし、それで決定!」
俺はいつまでま悩んでいて決まらそうなので、吹っ切れをつけて強引にでも決めてしまう。こうやったほうが効率がいいし、結局うまくいくことが多い。
まあ、吹っ切れきれずに、明日ではなく明後日にしてしまったけど。
いやほら、心の準備とか色々あるから。うん、余裕を持つのはやっぱり大事よ。
「じゃあこれを神之さんにお知らせすれば、あっちでやってくれる……はず。」
なんか頼りっきりで申し訳ないけど、俺は街の皆さまとそこまで面識がないからこういうのは頼るしかない。
近所のおばさま方とは仲良くなって、定期的に行われるお茶会に誘われる仲になったけど。
なんとなく怖くて一度も行けてはいないけど、行ってみたい気持ちはある。なんか楽しそう。
「もしもし」
俺はわざわざお伺いするほどでもないので、お電話をかけた。なにげに神之さん電話するのははじめただ。
「はいもしもし神之です。」
「北原です。開店の日時が決まりまして。」
電話口でもあの穏やかな口調のままの神之さんに、要件を告げる。
直で会ったときは礼と手順を重んじ、メールや電話などでは簡潔に伝えるのが大切と習った。うちの会社で。
会社で習うことってだいたい、年度またいで上位陣が変わると簡単にひっくり返されることばっかりなんだよな。ほんと、理不尽オブ理不尽。
ただ、ことメールや電話に関しては的を得ているように思う。電話越しに忖度して回りくどく言われるよりは、スパッと告げられたほうが逆に相手も気楽だと思うし。
「あぁ! それはめでたい。それで、いつになっんです?」
「明後日に開こうかと。」
電話越しの拍手音を聞きながら、俺は言う。
急すぎと言われるかもしれないけど、こんなんでもしないと俺って動けないタイプの子だから。
これがブラックの弊害か。
一時期謎にカレンダーの予定があくと逆に不安になってくる病気にかかっていたからな。今思わなくても変態だわ。
「金曜ですか。良いと思います。私も知り合いをあたって広めてみますね。」
「お願いします。では、失礼致しました。」
「はいー」
俺は電話越しに伝わってくる神之さんのニコニコ具合に、自分も頬を緩めながら電話を切った。
さぁて、ここから頑張るか!
俺は最後の調整と、頬を叩いて気合を入れ直した。
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