第57話 おじサ○ンパス
「し、死ぬ……」
「お、終わった……」
「良くやりましたよ……」
死屍累々とはこのことで、俺たちはなんとかすべてを運び終えて、死んでいた。
俺はソファ、神之さんはカウンターの椅子、雪さんは普通の椅子に。それぞれ寄りかかるというよりは、支えてもらってなんとか起きている状態。
「これで、あとは本当に配線したら開店できますね。」
神之さんが体を伏せたまま言う。
お行儀悪いとかそんなの関係ない。マジで死ぬから。
でもその分、このお店とか設備たちへの思い入れは深くなった。あと、人との繋がりもね。
俺と雪さんなんて今回で会うの二回目だけど、めっちゃ仲良くなったもん。
やっぱり、同じ苦労をわかりあってそれを乗り越えたら、ぐっと仲良くなるよね。
社畜時代、ともに課長から下される途方も無い
まぁアイツは鈴木取締役、唯一の逆鱗であるお茶の温度を七回も間違えて熱々にし、北海道の支部まで飛ばされたけど。
佐々木、名寄で元気にしてるか?
アイツはいいやつだったよ。仕事もできるし文句も言わない。たまにするメガネクイッがムカつくけど、それ以外は完璧なやつだった。
ただ、何故かお茶の温度だけは何度言われても直せなかったんだよなぁ。本人は熱々のやつをごくごく飲むしな。
俺は今は亡き(名寄でしぶとく生きている)佐々木のことを思いながら、お店を見渡す。
いやぁ、なんというか感慨深いものがあるね。
自分のお店ってのもそうだし、こうやってイチから自分たちの手で揃えたってのも心に来るものがある。
来たばかりの俺でもこんなに思うものがあるんだから、積もる思いが沢山ある神之さんはそうとうくるものがあるだろうな。
元々自分のお店で賑わってて、けど腰をいわして辞めて。そしたら、都会から出てきた若いのがあとを継ぎたいと言ってきて。
そんな紆余曲折があって、ここまで来たんだもんな。
そう考えると、こんなパッとでの若造に大事なお店を任せてもらって、本当に頭が上がらない。
「頑張らないとですね。」
俺はまだ痛む腰を抑えながら言う。
「頑張りすぎないのも大事ですよ。」
神之さんが笑顔で答えてくれた。勿論、腰に手を当てながら。
「開店、楽しみにしてます。」
雪さんがにこやかな顔で言う。こちらは、腰にサ○ンパスを貼りながら。
本当にみんな満身創痍だ。
けど、こうして作り上げたお店でなにか出来るってんだ、すごいことだよな。
再び周りの人の素晴らしさに感謝しながら、俺もサ○ンパスを貼った。
ひんやりとしていて気持ちよかった。
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