第56話 アラサーの叫び
今までの椅子は、木でできた四角いやつで、机はこれも木でできた丸いやつだった。
それもまだ全然使えるのだけど、やはり年季が入っていて座面のクッションがへにょへにょになってしまったということで。
思い切って変えることにした。
机は椅子に合わせようというのと、色んな傷跡が目立つからという理由で。
業務用?のテーブルって椅子とセットなのが多いらしいから、そっちのが探しやすいらしいし。
「椅子は運べましたね。」
俺は腰を抑えながらつぶやく。
「そうですね。」
雪さんも腰を抑えながら同意してくれる。
「残るは机ですね。」
神之さんも腰を抑えながら深みのある声でつぶやく。
言ってる内容と上半身だけ見ればドラマのワンシーンだが、みんな腰を抑えてるから格好はつかない。
仕方ない。歳には勝てないのだよ。
椅子は一人一個。頑張れば二つ持てるくらいの大きさだったから良かったけど、テーブル。これが厄介だ。
だって、大きいんだもん。
見ただけでやる気を削がれるような大きさ。
あんなの一人で持とうとしたときには、腰が外れてお陀仏だよ。
「はぁ、行きますか。」
「そうですね。」
「はぁ、頑張りましょう。」
みんなで励まし合って、トラックに乗った机を運び出す。
大きいのが二つ、小さいのがたくさん。
小さいのがラスボスで、大きいのが裏ボス。
「最初に大きいのから行きますか。」
「そう……ですね」
神之さんの意見に俺も頷く。
頷きたくなかったけど、大きいのを最後にってのは多分体力と気力的に不可能だから、やるなら今しかない。
「そっち大丈夫ですか?」
「オッケーです。」
「俺もオッケーです。」
机の短い辺を俺と雪さんで持って、神之さんは長い辺の真ん中を持って補助する形で運んでいく。
「入り口気をつけましょうね。」
「了解です。」
俺らに比べてまだ余裕のある神之さんが指示を飛ばしてくれる。
「うおっと」
一瞬扉にこすりかけたけど、なんとか回避した。
あぶねぇ。こんなテーブル高いだろうし、当てたら一巻の終わりだわ。
ちなみに、『いっかんのおわり』の『いっかん』は、一貫ではなく一巻なの割と知られてない豆知識だ。
俺たちは慎重に、そしてスピーディーに机を運んだ。
「ふぅ、なんとか運び終わりましたね。」
「長かったですね。」
俺と雪さんはそうやってお互いを称え合う。
「皆さん。もう一個ですよ。」
…………止めて下さい神之さん。現実を突きつけないでください。
アラサーにはキツイって!!!!
そう叫びたくなるが、この中じゃ俺が一番若いので心の中にとどめておいた。
くそぉ、こんなんになるなら関でも呼べばよかった。
「はぁ、頑張りますか……」
「頑張りましょう……」
「あれとあとは小さいのだけですから。」
俺たちは比喩ではなく真面目に重い腰をあげて、最後の一個を運び始めた。
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