第54話 料理の才能あり?

「よし、まずは何から作ろうか。」


俺は気合だけは十分に、エプロンの紐を締めて言う。


材料もある程度は揃えてある。

レシピもあるし、あとは本当に俺の技術だけなんだよな。


『モーニングのレシピ。

5枚切りの食パンに十字に切れ込みを入れて、いちごジャムを添える。

レタスにポテトサラダをのせて添えて、珈琲を淹れたら完成。』


おぉ、意外と行けそうか?

ポテトサラダってのがキツそうだけど、それ以外は割りかし行けそうだ。


次はおにぎり。

これは米握るだけじゃないの?


俺はおにぎりのレシピを探して見る。


『おにぎりの作り方。

米をお茶碗いっぱいよそって塩をひとつまみ振り、平にしたら真ん中に具材を置く。

三角形になるように握る。このとき、潰れないようにうまく握ること。具材は定番のもので日替わりが良い。』


なんか、握るだけとか言ってすみません。

きちんと手順とかこだわりとかがありました。


というか、神之さん。次に継ぐとかは考えなかったはずなのに、すごく細かく残してあるな。


まあ几帳面そうだもんな。ありがたく使わせてもらおう。


俺は感謝しながら、他のメニューも同じようにレシピを見ていった。






「いやぁ、なんというか。本当に頭が上がらないわ。」


俺はあらかた見終わって、レシピ本を閉じてつぶやく。


ナポリタンとかパフェとか。具材は勿論、手順にコツ。どうしたら良いかという具体的なアドバイスまで、事細かに書いてあるんだから本当に頭が上がらない。


「俺も頑張ろ」


完全再現。とまでは行かなくても、せめて神之さんから受け継いだ看板に泥を塗らないように頑張りたい。


「どれ、作ってみるか。」


正直初めてだし自信はないけど、これから繰り返して行くことで身につけようと思い、俺はまず一通りのものを作ることにした。


「よぉし! 行くぜ!!」


俺はキュッとエプロンの紐を結び直し、冷蔵庫に向かった。




 ◇ ◇ ◇




「疲れた……」


キッチンのカウンターによりかかりながらつぶやく。


おにぎり、ナポリタン、モーニング、パフェに三色団子。そしてパンケーキ。全六種類。


普段自分のご飯作るのに手一杯なのに、こんなに作ったら疲れるわ。


「出来は……まあ初めてにしたら上出来では?」


決して見た目がいいとは言えないけど、でも見れないほどではない。


ちゃんと何を作ってるかは分かるし、味見した段階で味もそこそこだった……はず。


「いただきます。」


俺はそうつぶやいて、緊張しながらナポリタンを一口食べる。


「…………」


数秒の咀嚼のあと、


「うまいじゃんか」


俺は驚きとともにつぶやいた。


いや、普通にうまいぞ?

見た目よりも上出来で、普通に美味しい。


流石にお店の味とまでは行かないけど、余裕で美味しい部類に入れるくらいの美味しさ。


「他はどうだろう……」


俺はこれがナポリタンだけのまぐれかと、俺にナポリタンの才能があるだけかと不安になりながらおにぎりを口に運ぶ。


「うまい!! けど、ちょっとしょっぱいな。」


おにぎりも普通に美味しいけど、ちょっとしょっぱすぎた。


中に昆布入れたけど、これなら普通に塩おにぎりで出せるくらいの塩味だ。中身入れるなら塩はもっと少なくていい。


「こっちは……」


俺は他のも食べていくけど、どれもそこそこ。いや、かなり美味しかった。


「これは希望が見えてきたか?」


あとはこの味を磨いて、見た目をどうにかするだけだ。


一回目でこれなら、上手くなれば本当にお店の味に並べるかも知れない。


「明日からも頑張ろう!」


俺は芽生えた自信とともに、つぶやいた。







宝くじが当たりブラック企業をやめて、念願の田舎暮らしを始めたけど。こっちでも、色んな人の支えがあって、なんとかやっていけそうだ。

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