第45話 師匠にご相談

さてさて。車も買って、あとは取りに行くだけ。


そろそろ田舎暮らしの基盤も整い始め、残るは設備の最終調整のみ。それをこなせば、晴れて開店ができる。


そんな状態なのだ。


神之さんが使ってたこともあり、設備なんかは完璧と言っていいほどあるのだけど。


やはり、細かいところや掃除の行き届いていないところ。時代の変化に適応しなければいけないところは多々あるわけで。


なので、手を加える前に一度神之さんと相談してから、実行することにした。


俺はやっぱり豪華な神之さん宅で、その件について話した。


「なるほどですね。ついにそこまで来ましたか。」


神之さんはお茶を片手につぶやく。


「はい。」


「分かりました。あなたの判断、素晴らしいです。ただ、」


にこやかな雰囲気だった神之さんがそこで一変。キリッとした空気をまとって、


「目の前のお客様を笑顔にする。それを忘れてはいけませんよ。」


そう告げた。


「ありがとうございます。」


俺はハッとさせられた気がした。


お店を開くのは自分のためで、自分がやりたいからやると思っていたけど。


開くのにお客様は不可欠なわけで。

そこを見失ったままだと、いくらうまく珈琲が淹れられても、意味がない。


さすが先輩。一番必要なときに、一番的確なご指摘をいただける。憧れるわ。


「いいえ、業者の方は私も手配できますし、困ったことがあったら気軽に声をかけてください。」


神之さんは、俺を見ていつも通りに柔らかに笑う。


「ありがとうございます。」


もう一度深く頭を下げ、俺は神之さんの出してくれたお茶を飲む。


それは、しっかりと思いやりの詰まった、素晴らしいものだった。

こんなものを、俺も出したいな……。



 ◇ ◇ ◇



それから俺は、普段の暮らしを続けた。


健康かつ、ゆとりのある生活。

しっかりと喫茶店の準備も鍛錬もしている。


珈琲がすぐに美味しくなることはない。

ただ、そこに今までと一つ違うことがあるすれば、思いを込めるようになったことだろうか。


「ふぅ」


俺は夜、2階の自室でため息をつく。


別に悩みがあるわけではない。ただ、昔からの癖でついてしまうのだ。


ため息をついたら不幸になる、貧乏ゆすりをしたら貧乏になる。


そんな迷信はいっぱいあるけど、そのどちらをもコンプリートした俺は今ちゃんと生きれてるので、多分大丈夫だと……思う。


まあ、これからのことは分からないけどね。


そう。今後のことは誰にもわからない。 


ただ、この田舎街に来て。

今、俺の夢のスローライフが叶っているのは事実だから。


今後も頑張ろうと、思った。

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