第44話 保険の有無。すなわち化かしあい。

「どうでしたかね。気に入っていただけたお車はありましたか?」


全て見終わって、店舗の中でお茶を出しながらお兄さんが尋ねた。


あれから2台見に行ったのだが、片方は条件こそ良かったが前のオーナーが喫煙者で、車にその匂いが染み付いているので、無し。


5台目はネタもんだな。カスタムしまくりだった。


てなわけで、全部見終わったわけだ。

俺的には1番か、3番だな。


「私はこちらのお車をおすすめいたします。」


そうお兄さんが差し出すのは、1台目が映ったタブレット。


たしかに、この車もいいのだ。

見た目はきれいだし、値段も高くはあるが払えないほどではない。

そして何より、機能が充実している。


USBポートや、Bluetooth接続なんかもできるらしい。マジ近代。


正直、そんな接続できたとしても俺に使いこなせるかわからないし、そんな指すものないので、過剰スペック感は否めないな。


「大事な決断なので、どうぞごゆっくりお考えください。」


お兄さんは、ニコニコとほほえみながら言う。


どうしようかな……。

お金の余裕はあるけど、だからといって無駄に使うのはお門違いだし………。


よし、決めた。


俺はこのままだと一生悩みそうなので、一度決めたら変えないと確固たる意思を持って最終決定をした。


「3番目に見たやつで、お願いします。」


たしかに1番目も良いんだけど、3番目でも十分満たされるし、何よりあのザ・普通って感じが俺に合ってて好きだ。


「なるほど!! こちらですね!」


お兄さんはタブレットを操作して、車を映して言う。


「はい。これでお願いします。」


「分かりました。とても良いご判断だと思います! では、これから細かいオプションなんかをつめていきますね。」


車というのは本体を決めて終わりじゃない。


前も話したように、これから細々とした契約書や関係書類地獄が待っている。

そして更に落ち着いてくると、最後の関門。保険お誘いゾーンが待っている。


ここがマジで厄介で、何か一社をすすめて来るのではなく、保険と名のつくものならなんでも入らせようとしてくるのだ。


俺はお兄さんの圧には屈しないと、社畜の唯一と言っていい取り柄。鋼のメンタルを発動して、書類の束に立ち向かった。





 ◇ ◇ ◇






えーっと、結論から言うと、保険に誘われることはなかった。


いや、一回はあった。保険どうですかと、柔らかめに言われた。


俺はこれは最初の手探り段階かなと思い、入る気はあまりないですねと答えたのだが……。


そこから保険について聞かれることはなかった。

そっと、書類の束に保険についての紙を入れるのを見たけど、それ以上の追求はなし。


どうやら、俺の杞憂だったみたいだ。


一応言っておくと、何も保険に入らないわけじゃない。念の為に、一個手厚くて安めのやつには入っておいた。


で、細かい書類はあっちの方で処理してくれるらしく、俺は本人確認が必要な書類を書くだけで済んだ。


いや、思ってたより全然楽だな。

最終調整とかがあるらしく、即日引き渡しとまではいかないが、それでも一週間しないうちに引き取れるらしい。


本当に、最近って進んでるんだな。


おじさん感動しちゃうよ…………って、俺もまだ二十代だけどな。


俺は晴れ晴れしい気分で、家路についた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る