第39話 後輩と何もせず

「で、何やんだ?」


一息ついたところで、俺は関に訪ねた。


「何があるんですか?」


オウム返しをして尋ね返す関。

そりゃ、住んでて詳しいのは俺なんだし、俺に聞くよな。


「海と山。」


俺はぱっと思い浮かんだ単語を2つ述べる。

あとは、田んぼに畑に川とかが思い浮かんだ。


「ざっくりっすね。もっと細かく言うと?」


「下灘駅、道の駅ふたみ、棚田、日本水仙花開道にほんすいせんはなかいどう


笑って尋ねる関に、俺は固有名詞で返事をする。

最初の2つは、海に近くて有名で、あとの2つは山、緑、草。って感じの自然だ。


「うわあ、固有名詞のオンパレード。どれがオススメです?」


関はケラケラと笑って、オススメを尋ねてくる。


「俺的には、伊豫稲荷神社いよいなりじんじゃだな。」


「それはなぜ?」


俺が腕を組みながら答えると、やつはその理由を聞いてきた。


「約1200年前の弘仁こうにん年間に建造され、1717年には当時の朝廷により、神階の中では最高位の正一位しょういちいを受け、1933年には県社に列した由緒正しき神社から。あとは、鳥居が赤くてデカくてスゲエ。」


俺は息をつかずに、まくし立てるように言い切った。

よく噛まなかったと、自分で自分を褒めてやりたい。


「前後の語彙力の格差ヤバいですね。とにかく、そこがオススメなのはわかりました。で、どんくらい遠いです?」


「約数キロ。歩いたら数十分間。」


都会的感覚で尋ねたであろう関に、無情な現実を叩きつける。

もち、東京のようなどこ行くにも通ってる電車なんてないから。


けど、俺が思うにこれでもまだ優しい方だよ。

二桁行かないんだもん、頑張れば歩けるくらいの距離じゃん。


「うわ、アバウト。けど、行き帰りで結構ありますね。しかも車は……」


「ないな。」


少し気体目につぶやいた関へ、俺は無慈悲な勧告をする。


車はないぞ。運転免許証なら持ってるけど。

ちゃんと、マニュアルも乗れるやつね。


どうしようかと、歩いてまで観光に行くか行かまいかを考えたであろう関は、数秒の沈黙の後。 


「……先輩、久しぶりに将棋でもします?」


苦笑と共にそんな提案をした。


「おう。そうしとけ。また、俺が車を手に入れたらくりゃいいさ。」


俺ははなからそのつもりだったので、関が血迷って歩き始めなくてよかったと頷く。


「ありがとうございます。」


田舎に来て、後輩先輩だった俺と関は、立場など気にせず普通にボードゲームを楽しんでいた。


なお、結果は連戦連敗。

オレが弱いのではなく、やつがうまいということだけ言っておく。


そのあと色々……はなく、夜ご飯の前にやつは帰っていった。

課長から電話がかかってきてたし、なによりもとから日帰りの予定だったのだろう。


いやぁ、昔というほど昔ではなくても、懐かしい人と会うと楽しいな。


そんなことを思いつつ、俺はその日は早めに床についた。

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