第12話 忘れ物(♡)

「北原くん、お疲れ」


「部長、お疲れさまでした。」


あの部長まで女の子と同伴で帰っていった。


「はぁ、帰るか。」


俺はスマホで時間を見てから、ポケットにしまう。

時刻は9時前。まだオフィスに行けば仕事ができる時間帯だ。


まぁ、俺もそこまで社畜じゃないしもう少しで辞める身だ。そんなに仕事に精は出さない。


「ふぁぁぁあ。」


みんながいなくなり、静かになった個室であくびをして、部屋を出る。


「ご馳走様でした。」


店員さんに挨拶をして、外へ出ようとして………止められる。


「お客さん、これ忘れ物です。」


「あ、ありがとうございます。」


渡されたのは薄緑のハンカチ。

これ、確かさくやさんが使ってた。


俺は急いで外にでる。

会計は部長が太っ腹に全員分出してくれた。


さくやさんは………。

見渡す限りは見えない。


「あれ、先輩何してるんすか?」


「関、お前こそ。」


横を見たら、関とみつりさんが手を繋いで俺を見ていた。


「いや、こっからどこ行こうかと話していたら、血相抱えた先輩が出てきたんで。」


「そうか。お前、さくやさん知らないか? 落としもんなんだけど。」


俺はハンカチを見せる。


「俺は知らないっすね。みつりちゃんは?」


「確か、左の方に行ってた。」


「ありがとうございます。」


俺は言葉を全部聞く前に走り出した。


「きーつけてくださいね。」


「おう!」


軽く手を上げて答える。


ここから帰るには、電車か?

近場だったら通用しないが、遠くだったら駅方面だな。


俺は駅へ向けて走り出した。




 ◇ ◇ ◇ 


sideさくや





「はぁ」


駅へ向かっていたのだが、何故か寄り道したくなり近くの公園のブランコに乗っていた。


思い出すのはさっきあった男の人のこと。


面白い人だった。


「若い……か。」


昔から大人びてるとか、大人っぽいとか言われ続けた私が、若いと言われるのは始めてだ。


「ふふふ」


なかなかに悪い気はしなかった。

気分良く、ギーコギーコとブランコをこぐ。


「おねぇさん、一人?」


前から来たのは、酔っ払った若い男。


「………」


私は無視してブランコから降り、その場から離れようとする……が、


「どこ行くの?遊ぼうよ?」


男に道を塞がれた。


「遊びません。これから用事がありますので。」


「いいじゃん、そんな用事なんて。俺と遊ぼうよ。楽しいし気持ちいいよ?」


「遊びません。」


私は強く言って離れようとするが、やはり男はついてくる。


「警察呼びますよ?」


「あぁ? なんだよいきなり!! うるせぇ!!」


酔っぱらい特有の短気を発動し、男は拳を振りかざし、殴ろうとしてきた。


あぁ、やっぱり男って嫌だ。

少しいいなと思ったらすぐこれだ。


私は咄嗟に目を瞑り、来る衝撃に備える………が、いくら待っても殴られなかった。


その代わりに、


「おい、人の女に手出すな。」


そんな頼もしい声が聞こえた。

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