第11話 コンパ終了

「あ、何か飲みますか?」


俺が何も飲んでないのを見て、メニュー表を差し出すさくやさん。


「あっ、大丈夫ですよ。私、お酒飲めないのでこのお水で大丈夫です。」


俺は向かい側の自分の席から水を持ってくる。


「飲めないんですか?」


「えぇ、恥ずかしいことに。今もこの空気中のアルコールで酔いそうなくらいですよ。さくやさんは、お飲みになられるんですか?」


「私はたまに飲みますね。結構お酒には強いですけど、しょっちゅうは飲みません。」


「そうですか。」


会話が一段落したところで、俺は水とともに取り寄せたマイトングで再び肉を焼く。


2枚ある肉保管皿に、お肉が一枚もなくなってしまうのは由々しき事態だ。

なんとしてでも防がないと。


「食べますか?」


「あ、頂きます。」


途中さくやさんのお皿があいてたので、タンを2.3枚渡し、再び焼き始める。


「それでさーー」

「そうなんですかぁーー!!」

「この後……」

「でも、それって……」

「俺はそこで……」

「世間って辛いですよね……」

「仕事が……」

「課長になれる……」

「社長のコンパ………」


コンパも終盤に差し掛かり、残り時間10分ほど。


俺は最後に自分用に5枚くらい肉を焼き、トングをおいた。


これで食べ納めならぬ、焼き納めだ。

俺の愛しのトングちゃん、お別れだね。


俺はトングをかの有名アイドルグループの引退の時のように、テーブルに慎重に置き、両手を合わせて祈る。


今までありがとう。短い間だけど、君とともに焼いた肉は忘れないよ。


「ふふふ、面白いですね。北原さんは。」


俺の名前を呼び、手に持つグラスで顔半分を隠しながら言うさくやさん。


「面白いですか?」


なに、俺って漫才の才能あった?M1出れる?


「いや、お肉を真剣な顔で焼いたり、トングに祈ったりと、面白いなーと思いまして。」


「あぁ、それですか。」


なんだ、俺の奇行のほうね。これはしょうがない、俺の社畜魂がそうさせるんだ。許せ。


「えー、皆さん。残り3分になりました。本日はお楽しみいただけたでしょうか。このあとは解散となりますので、肉を持ち帰るも、人を持ち帰るもよしです。各自お楽しみいただければと思います。それでは、今後4社のますますの御発展と皆様の御活躍を願って、解散とさせていただきます。」


パチパチとみんなから拍手が部長に向けられる。


「先輩、上手く行ったみたいですね?」


皆が今後の準備をする中、関が話しかけてくる。


「いや、連絡先は聞けずじまいだよ。」


「なんすか? ひよったんすか?」


「いや、いつ言えばいいかわからんかった。」


相手が企業や、営業目的ならスラスラと言えるのだが、プライベートの対人となるとなぁ、なかなかきついよな。


「まぁ、次がありますよ。お疲れでした。」


「あぁ、気をつけて帰れよ。」


みつりさんとお手々を組組しながら関は帰っていった。

ちきしょー羨ましいじゃねぇか。


俺はカバンを持たない寂しい左手を、ぐぱぐぱと握っては開いてをする。

いくらやってもそこに女の人の手の柔らかい感触はなし。


今まで握ったこともなければ、これから握ることもないのだろうな。


ハハハ………ハハハハ……帰ろ

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