第6話 いざゆかんコンパへ

「いつもすまんねぇ北原くん。後、関くんもありがとう。」


たった一時間の残業で仕事を切り上げて集まったオフィスのロビーで、部長が腹をさすりながら言う。


その顔には、これからのコンパへの期待感が現れていた。


「いやいや、こちらこそご一緒させていただけて光栄ですよ。」


「そう?なら良かったよガハハハ」


関の圧倒的お世辞に部長が笑う。


「じゃあ行こうか。」


軽い足取りの部長についていく。


「相手はどんな感じなんですか?」


「今回はねぇうちと取引のある山々証券さんと、海々銀行の若い女の子たちだよ。男はうちから3人と川々商事さんから3人。みんな可愛いらしいよウヒヒ」


「そうなんですね。」


一応言っておくとうちの会社はいわゆる銀行だ。まぁ、企業相手に金を貸すタイプのだから、みんなの思う窓口やATMがあるのとはまた違うが。


株式会社 銀々銀行ギンギンぎんこう

我社ながらとんでもない名前だと思う。


「ここの焼肉屋でやるんだよ。ほら、入った入った!!」


部長が扉を開けてくれているので、小さくお辞儀をしてから中に入る。

店は小洒落ていて、なかなかに良さげだ。


「ここには個室があるんだよぉ。あ!店員さん、予約していた川上です。」


「12名様で個室利用の川上様ですか?」


「はいそうです。」


部長はさっきまでと打って変わって敬語できっちりと答える。


部長のそういうところ、俺は嫌いではない。

というか、個人的に部長には好意的な印象を抱いている。


誰よりも長く残業して、誰よりもみんなのことを気遣って、体調が悪そうな社員の仕事を肩代わりしてることもあった。


あのクソ課長とは雲泥の差だ。

そういうところが、課長と部長の差なのか。単にこの部長がいい人すぎるのか。


「失礼します。」


少し奥まったところにある、靴を脱ぐスペースの扉を部長が開ける。

相手が取引のある会社の人なだけあって、部長も下手に出ている。


「失礼します。」


「失礼します。」


俺らも続いて中に入る。


「「「「はじめまして」」」」


どうやら俺らが最後だったみたいだ。


右手のテーブルに女性たちが、左手に男性たちが座っているので、俺たちも左手に座る。


なかなかにでかいテーブルで、肉を焼く丸いところも3つあった。


「ではでは、始めましょうか。」


この中で多分、一番役職が高い部長が仕切る。


「食べ放題2時間でいいですか?」


「いいですね。」


「いいと思います!」


男女それぞれから賛成の言葉があり、部長はタブレットみたいなのを操作する。


「先輩! 可愛い子いるじゃないっすか?」


端っこでポケーっとしていたら、関が少し興奮気味に話しかけてきた。


「お前、彼女いないのか?」


「いないっすよ。大学で別れてからずっとご無沙汰で。そういう先輩は?」


「俺にいると思うか? 恋人と聞かれたら会社と答えるかもしれないが。」


「先輩らしいっすね。」


失礼しまーすと入ってきた店員の声で、俺たちの社畜トークは終わりを告げた。

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