第5話 コンパの誘い

「すみません。今すぐ直します。」


課長のデスクの前で深々と頭を下げる。


「君もう5年目でしょ? そういうとこちゃんとしてよねぇ。今年度の新人、君につけようと思ってるからさぁ。」


「すみません。頑張ります。」


何度も頭を下げる。


「よろしく頼むよぉ?」


「失礼します。」


去り際にも頭を下げる。


必殺『ペコペコマン』だ。

課長のどんな嫌味にも部長のどんな小言にも対応できる最強カードだから、みんなも覚えておこう!!


「先輩きついっすねぇ。今日3回目じゃないっすか?」


「ん、あぁ。仕方ないよ課長昨日娘さんにパパきらーいって言われたらしいから。」


「ははは。もっとやれって感じですね。」


「そうだな。ほら、仕事しないと。」


隣の席の後輩、関くんと軽く喋って席につく。


俺の少ない正月休みも終わり、普段通りに仕事をこなしている。

俺はできる大人だから宝くじが当たっても表には出さないし、決してさとられない。


全ては完璧な作戦下にあり、夢と希望の田舎暮らしのためなのである。


ピコン


デスクのPCに赤い点滅マークが現れる。


部長からメール?


なになに、『今日終わったらコンパ行かない?』

ったくあの人も飽きないもんだねぇ。


『分かりました。いつもの場所ですか?』


そう、返事をしておく。


部長(45)通称ハゲオヤジ。は、未だ結婚できていないため、会社の若い衆を連れてはコンパやら合コンやらに行きまくっているのだ。


57回行って、56回がメアドも聞けずに終わる。

メアド聞けた一回も、相手が男だったってオチ。


ここまで来ると、俺も同情してしまう。


まだ一桁くらいしか行っていないが、俺ですらメアドくらいは教えてもらえるのに。


「先輩にも来ましたお誘いメール?」


「なんだ、関のとこにも来たのか?」


口に書類ホルダーを当てて、関は顔を近づけてくる。


「俺今回初めてなんすけど、やっぱ断ったらまずいっすか?」


「まぁ、行っといたほうが出世街道は安定だろうな。」


たかが部長と侮るなかれ。

前に部長の機嫌を損ねた奴が北海道の支部まで飛ばされたんだ。


佐々木、名寄で元気にしてるかなぁ?


メガネをクイクイ上げて喋る佐々木の顔が目に浮かぶ。


「マジすか、じゃあ今回は行きますわ。先輩も来てくださいよ?」


「分かってるだろ?俺がこういうの断れない人って。」


「そうでしたね。」


後ろを課長が通ったので、関はその後喋りかけてこなかった。


俺も仕事しよう。


さっきお小言のついでに課長から渡された書類を片付けるべく、俺はキーボードに手を添えた。

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