新潟の海

新潟の海には限界があった

視界の先にある佐渡島に

いつか行けるのだと思っていた

波を消すブロックの上に立って

青い世界を眺めていた


私が佐渡島に行くことがないうちに

祖父は亡くなった

遺産でもめた後に縁は切れて

私は新潟の海から切り離された

一度だけ祖父の墓参りに行った

いつか自分も入る暗い穴

朽ちた花弁を一枚つまんだ


新潟の海をもう一度見ることはあるのか

猫を捨ててきたと言った日

私は祖父を嫌いになった

縁を切るほどには深いかかわりがなく

緩やかな記憶でつながったままの私と祖父

いつか暗い穴の中で出会うのだろうか


幼い日に見た青い世界が

今でも私を呼んでいる

一度祖父とゆっくり話したかった

切られた縁の端に手を添えて

体に流れる血を感じてみる

猫を捨てない私であるためには

何が必要なのだろうか


暗い穴の中にいる人へ

私はいつかそこへ行きます

温かい記憶をなくさないように

綺麗なものをしまう部屋を心に作って

生きていくから待っていてください

新潟の青い海と共に

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