犬の本心

紙飛行機を作れば飛ばしたくなる。紙飛行機は部屋の中をまっすぐに飛ぶ。壁にぶつかって落ちる。このつまらない限界は、常に私の前にある。何度も飛ばす。何度もぶつかる。父が通る。父にぶつかる。父は花に水をやるために、ベランダの扉を開けた。紙飛行機が、飛び出す。壁はない。世界を知ってしまったフライト。


慌てて家を出る。らせん状になった階段を駆け下りる。四階、三階、二階。ベランダの下へ走る。紙飛行機は見当たらない。木の上、道の上にもない。もっと飛んで行ったというのか。私の作った、私の作り出したばかりのものが、どんどん飛んで行ったというのか。私は進んだ。私は翼をもたないので、足で進んだ。どこにも見当たらない。


小学校のグラウンドの前で、目が合った。見上げる視線。茶色い毛並みの犬が、こちらを見ていた。私が探しているのは、お前じゃない。けれども、犬はずっとこちらを見ている。後ろを向いて、歩き始めた。振り返ると、犬がついてきている。足を速めた。犬も足を速める。走り出した。犬も走り出す。今、私に、翼が欲しい!


どこまでも追いかけてくる犬。私の知らない犬。会ったばかりの人間に興味があるのか、敵意があるのか、そんなこともわからずに追いかけてしまうのか。振り返らず、駆けて、駆けて、駆けて、マンションに戻ってきた。もう、犬はついてきていなかった。あの犬の本心は、なんだったのだろう。もう、紙飛行機も作りたくない。

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