裏切り者の正体
セオリー通り、造語を喋ったキャラクターに訪ねた。造語をもう一度口に出して、反復して尋ねる。これで読者にこの小説にしか登場しない単語を印象付けることができる。これでいいはずだ。
「青竜伝説を知らないの? 青竜伝説っていうのはね、この地に古くから伝わる伝承のことよ。その名の通り、伝説の青き竜が勇者のピンチに現れて大地を飲んで、空を割るのよ。大いなる災いをこの力払いのけるの! ふう。痛みが治ったわ」
お手本のような説明口調で光は青竜伝説の話をした。
「つまり、青竜の力を呼び起こして、悪を挫けってことだな?」
俺は、話を要約して、言い直した。これで読者に言わんとしていることが伝わるはずだ。要は、後々青竜が出てくるぞっていう前振りだ。
「そうらしいわね」
「頭痛はもう平気か?」
主人公として痛みに震わせるヒロインの心配をした。
「ええ。すっかり良くなったわ。行きましょう!」
俺たちは再び、泥に足跡を刻み始めた。まるで止まった時計が動き始めたようだ。
「ヒロインも大変だよな?」
「その通りよ! コンビニのアルバイトと同じ! 周囲に楽そうだと思われているけど、やることはたっくさんあるんだから!」
その瞬間、今度は俺の頭に亀裂が走る。一筋の痛みが頭蓋の中を駆け回る。割れるような痛みが脳を締め付ける。大脳、中脳、小脳、それらすべてを貫通し、通り抜ける。痛みは見えない電撃。突き抜けるような衝撃。苦痛の連撃は間髪入れずに俺を舐める。その瞬間、痛みとともに頭の中にコンビニという単語の意味が流れた。なんだこれ?
「ぐっ!」
声にならない声が口から溢れた。
「ちょっと! 大丈夫っ?」
今度は光が心配そうに俺に駆け寄る。
「ああ。大丈夫だ。ごめん、ヒロインの仕事を増やしちゃって」
「ヒロインじゃなくても心配するわよ! どうしたの?」
その時だった。俺の周囲の時間が停止した。光が止まる。空気の流れが消える。完全に停止した世界の中に俺がいる。一人ぼっちの俺が凍りついた世界の中に閉じ込められている。
『光に、なんでもない。先に進もうと言え』
頭の中に誰かの声がする。これは、作者の声か?
「わ、わかった」
俺は、ひとまずその声に従うことにした。世界は再び動き出す。
光が動き出す。空気の流れが再び生まれる。何事もなかったかのように世界が動き出す。
「ユウ? 大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ。なんでもない。先に進もう!」
俺は無理矢理笑顔を頭蓋の前面に貼り付けた。作り笑いはほんの少しだけ場を和やかに変えたような気がする。
そして、俺たちは先に進んだ。俺は作者が何をしたかったのか理解した。これは矛盾の調整だ。俺は頭痛が始まる前、コンビニというものが何なのかわからなかった。そんな単語知らない。だけど、頭痛と同時にコンビニというものの説明文が頭の中に投げ入れられた。今は、コンビニがなんなのかわかる。話を円滑に進めるために、作者に俺の知識が調整されたのだ。読者のみんなには、俺が今何を言っているかわからないだろう。だが一先ずは気にせず、この小説を読み進めて欲しい。
赤黒い火炎が透明な空気に色を与える。黒い煤と白い灰が空を汚す。竜の口腔から吐き出された炎の海は、辺りの地形を醜いものへと変えた。地面は干ばつし、木々は溶けている。抉れた地面からは湿った土がむき出しになっている。
「我こそは赤竜伝説のゼロゴー!」
赤い竜の咆哮は醜く、そしてどこか悲しげだった。大気を怯えさせるほどの声量は、空に反響し、俺たちの身に降りかかってきた。咆哮の雨は、俺たち人間の小さくて弱い体を包んだ。
[一時間前]
昼間の太陽が木々の隙間から降り注ぐ。微かな森の匂いは、戦いの疲れを拭ってくれた。木が発するマイナスイオンたっぷりの気体は、まるで気体のシャワー。こうして永遠に森の中の小道を歩いていたい。叶わぬ願望だとわかっているが、そう考えずにはいられなかった。手に入らない望みこそ、際立ち輝いて見えるのだ。
「聖都市グレアの次はエリア五番だっけ?」
俺は、次の目的地を口に出して言った。こうすることで読者にも俺たちの目的が伝わるはずだ。
「ええ。確か道なりに進んで行けば着くのよね?」
「そのはずなんだけど。いつになったら着くんだよっ! なんで乗り物とか親切設計を作ってくれないんだよ!」
俺は露骨に文句を吐いた。
「文句ばっかり言わないの! またナレーションさんに怒られるわよ!」
素敵で真面目なヒロインがバカな主人公に釘を刺した。
「なんなんだよ、この変なナレーション。つーかナレーターは俺のことが嫌いなのかな?」
ああ。嫌いだ。
「こいつ、ハッキリ言いやがった!」
頭のおかしい俺は、空に向かって叫んだ。
「もー。メタ発言みたいなことしないで! わかりにくいって怒られちゃうわよ!」
「わかった! わかった! じゃあ黙って進むから! ナレーターさん? 『ユウと光はしばらく歩いた』みたいなナレーションを入れてください!」
了解した。
ユウと光は道なき道を歩き続けた、疲れてもくたびれても文句一つ言わずに。そして、一時間が経とうとした頃、痺れを切らした光が口を開いた。
「いい加減目的地に着かないかしらねー? このまま歩いていてもモンスターなんて出てこないと思うし!」
俺の背中を、嫌な予感が登った。
「おい、それってフラグってやつじゃないのか?」
光が俺の方を見る。彼女の視線はどこか申し訳なさそうだ。
「うん。いきなり戦闘になったら不自然だから、作者が『フラグを立ててくれ』だって」
そして、俺たちは一呼吸を置く前に、モンスターの群れに取り囲まれてしまった。作者はお手本のようにフラグを回収したのだ。
俺と光の周囲を囲むモンスターの群れは、見たこともないような格好をしていた。全身は細くて黒い糸状の人型だ。頭があるべき場所には、大きく明朝体で『没』と書かれている。
一体なんだ、こいつら?
「光! 俺が斬撃で一掃する!」
「わかったわ!」
光は俺の背中に張り付いた。俺は勇者の剣に渾身の力を込める。炎と電気と冷気の三重奏が剣の表面で揺らいでいる。あたりを熱いとも冷たいとも取れるような不思議な温度が賑わす。空気が凝縮し、同時に蒸発する。化学の定理を壊すような現象が小説の中で起こる。
俺は、現実では起こりえない熱と冷の同時攻撃を放った。自分の足を軸にして一回転。背後では光が、攻撃に巻き込まれないように俺に身を寄せている。
「そのまま掴まっていろ!」
光は返事をすることもできない。空気の流れが強すぎるのだ。俺はそのまま周囲の三百六十度を薙ぎ払った。辺りの地形が歪んで歪む。マイナスイオンを放っていた森林は瞬時に焼け野原に姿を変えた。黒い煤が空に立ち上る。灰の雨が降ってきた。そして、俺の最強の攻撃でダメージを食らわなかったモンスターたちが一斉に反撃をしてきた。
額に『没』と書かれた不気味なモンスターたちは一斉に飛び上がる。手を大きく広げ攻撃の構えを取る。
「今度は私がやる!」
光が一歩前に出る。修復したばかりの剣に、周囲の光因子を収束。そして、光を刃に変えてそれをそのままモンスターに突き刺した。だが、光の刃も俺の攻撃同様にモンスターに傷一つつけることができなかった。
「どうして私とユウの攻撃が一切通用しないの?」
二人の攻撃が通用しないと言うことは、俺の活躍パートでも光の活躍パートでもない。これは、負け試合だ。物語を進行させる上で必要な場面。この場で俺たちは敵に倒されるんだ。きっとそういう脚本なのだろう。だけど、俺は諦めない。主人公がそんなカッコ悪いところを読者に見せるわけにはいかない。運命だろうと脚本だろうと俺が変えてやる!
「俺は絶対に諦めたりしない!」
そして、俺と光は一方的にモンスターに蹂躙された。
希望は潰えて、光は消えた。俺たちの完全な敗北だ。隣を見ると光が地面に伏している。横臥するヒロインの姿は少しだけ艶かしかった。地で濡れた彼女の手をそっと握った。だけど彼女は少しも動かない。
俺たちの様子を伺っていたモンスターたちが近寄ってくる。きっととどめを刺すつもりなのだろう。俺たちは手も足も出なかった。完全に攻撃が完封されていた。この物語の前の本編でもこんなことがあった。主人公たちの敗北パートだ。物語のエンターテイメント性を高めるためにも必須の脚本。敗北なしで主人公は成長しないのだ。
俺は最後の力を振り絞って立ち上がった。右手の勇者の剣を敵に投げつけた。剣は弱々しく空気を割いた。そして、敵に当たることなくそばの地面にその身を沈めた。
終わった。遂に思いつく全ての行動が完封された。俺は絶体絶命のピンチに陥った。今までで最高の窮地。人生のどん底の空気は重くて生暖かかった。
モンスターが俺の目の前まで来た。黒くて細い腕を振り上げる。そして、爆音と共にモンスターの死体が辺りに散乱した。
一匹の巨大な赤竜は全てのものを燃やし尽くす。鼓膜が破れるほどの轟音と地獄の業火が一つの曲を奏でる。
「我こそは赤竜伝説のゼロゴー!」
そしてゼロゴーと名乗る赤竜は、モンスターを壊滅させた。赤竜は主人公のピンチを救うと人間へと姿を変えた。
俺はこちらへ近寄ってくるゼロゴーを無視して、光のそばに行って彼女に声をかけた。
「おい、光?」
頼む! 生きていてくれ。俺は彼女の口元に手をやった。微かだが息がある。
「よかった」
「あはは。お嬢さん無事だったみたいやな?」
と、独特な喋り方をするゼロゴーが言った。彼女は赤い髪を後ろで束ねている。歳は少し俺より若い。子供の幼稚さに大人の妖艶さが溶けて重なっているようだ。
「助けてくれてありがろう。俺はこの小説の主人公。君は誰?」
「あたいは新しく主人公のパーティーに加わる新メンバーさ。あたいは赤竜伝説のゼロゴー。没になった登場人物よ! よろしくね」
俺はこの時になってやっと理解した。俺の攻撃も光の攻撃も一切役に立たなかった。このパートは、新キャラクターの活躍パートだったのだ。
「没になった登場人物? なんで没になった登場人物がこの物語に登場しているんだ?」
「それはですね、作者がネタ切れだからですわ」
ゼロゴーの喋り方がお嬢様風になった。幼い見た目にミスマッチした喋り方は、どこか可愛らしかった。
「作者がネタ切れになったら、没になったキャラクターが登場するのか?」
「ええ。もう何も思いつかなかったのでしょうね。だから、没になった案を再び加工して本編に取り入れることにしたのよ」
先ほどと違って、光のような口調でゼロゴーが言った。ヒロインが二人に増えたみたいに感じた。
「どうでもいいけど、その喋り方なんとかならないのか? 会話しにくいんだけど?」
「無理だよ! 没キャラクターを無理矢理本編に登場させたのよ? 設定まだが定まっていないのっ! 作者が個性を出そうと思ってこねくり回したけど、結局途中で投げ出されちゃったんだからね!」
ゼロゴーが、元気な女の子のような口調で言った。
「そうか。ところでその没キャラクターのゼロゴーは俺たちに一体何の用だ?」
「よくぞ聞いてくれました。あなた達には私と一緒にこれからエリア五番という没ステージに行ってもらいます」
今度は清楚な感じのキャラだ。
「没ステージだと? そんなところに行っている時間はない。まずは光の回復が先だ」
「それが終わったら来てくれるのね?」
「ああ」
俺は彼女のことを少し不審に思いつつも肯定の返事を投げた。
「ナレーターさん! 時間をちょっと進めてくれる? そうね、一週間後くらいに!」
ゼロゴーは空に向かって呟いた。
[一週間後]
ゼロゴーと出会ってから一週間が過ぎた。光の治療は完了し、無事にエリア五番に進めるようになった。ゼロゴーともすっかり打ち解けて、今ではすっかり三人目の仲間になった。
「んで、没ステージへはどうやって行くんだ?」
「このステージの端から落ちればいいわ」
と、光のような口調でゼロゴーが言った。
「下にストンと落っこちれば着くの?」
と、本物の光が言った。実に紛らわしい。読者であるあなたは読みにくいと思いつつも小説を読み進めた。
「うん! だって、没ステージなのよ? 邪魔になっちゃうでしょ!」
と、少女のような喋り方でゼロゴーが言った。
俺たちは小説の世界の端っこまで来た。俺たちにとっては日常的なことなんだけど、読者にとっては非日常なことだからしっかり説明しておくな。
実は小説の中で主人公が訪れる場所は、たいていハリボテなんだ。俺たちが冒険した場所から少しでも外れるといきなり崖になっていたり、黒い壁に阻まれて進めなくなってしまう。読者のみんなにとっては、箱庭系テレビゲームの中の世界みたいって言った方がしっくりくるかな? どこまでも行ける無限の世界が続いているわけじゃないんだ。世界の端っこまで行けば、もうその先には進めない。そして、今俺たちがいるのは世界の端っこ。ゼロゴーが言うには、ここから飛び降りたら没エリアに行けるらしい。ほんとだろうか?
俺は今いる場所の端っこから下を見下ろした。眼下には真っ黒な深淵が広がっている。無限に続く暗闇の中に没ステージなんてあるのだろうか? ひょっとしたら、ゼロゴーの話は全て嘘で、落ちたら死ぬんじゃないか? 不安な気持ちが手の平のような形になって心臓を握りしめた。
「ビビっている?」
ゼロゴーが俺に尋ねた。彼女の顔には不安がない。
「まさか。俺は主人公だ。こんなところで怖がったりしない」
そして、俺たちは深淵の大穴に飛び込んだ。不安を置き去りにして、未来に全てを賭けて。
風が頬を切る。目も開けられない。冷気が肌を焼く。空気の中を下に向かって落ちていく。まるで、底のない海へ重りをつけて沈められているみたいだ。どんどんどんどん下へ落ちていく。どんどんどんどん暗くなっていく。光なんてもうどこにもない、完全な闇の中。風の音だけが耳に刺さる。闇と風の奔流の中、ただひたすら待った。
そしてしばらく落ちてから、なんの衝撃もなく地面に着地した。その瞬間、風の音は止んだ。氷のように冷たい闇に抱かれた。
俺に続いて、次々と他の仲間も落ちてくる。だが、誰がどこにいるのかわからない。
次の瞬間あたりを輝く明かりが照らした。明かりの中心には光がいた。
「さあ! みんな行くよ! ここが没ステージ零壱番の入り口だ!」
と、ゼロゴーが没ステージの入口らしき場所を指差して言った。
そこには、石でできたアーチ状の古臭い門があった。いかにも入り口という感じだが、門の奥を覗き込むとそこには何もない。黒い壁のようなものが見えているだけだ。
「ねえ。本当にここが入り口なの? 何もないように見えるけど?」
「ええ本当よ。私が先頭を行くから、全員ついてきて」
そのままゼロゴーは黒い壁の中に吸い込まれていった。
「ふー。行くしかないな」
俺は、黒い壁の中に手をゆっくりと差し込んだ。黒い壁は触れなかった。その代わり、手がなくなったような感覚に襲われた。まるで、俺の体から手だけが所有権を奪われて、他人のものになったようだ。俺は生唾を飲み込んで、恐怖を押し殺し、黒い壁の中に飛び込んだ。
そこは、作りかけの寺のような場所だった。壁は石造りで荘厳だが、天井がない。天井があるべき場所には先程の黒い壁のようなものがある。小部屋らしきものもいくつかあるのだが、入り口が黒い壁になっている。小部屋の入り口の黒い壁には、この古めかしい建物に似つかわしくない『立ち入り禁止』の文字が明朝体で書いてある。
「ここは?」
俺が立ち尽くしていると、急に後ろから衝撃が体を襲った。
「いてっ!」
「きゃっ!」
光がこの寺に入ってきたのだ。後から入ってきた彼女の下敷きになった。
「ほらっ! 何やっているのよ。しっかりしなさい」
と、母親のような口調でゼロゴーが二人を助け起こした。
「おい! ゼロゴー? ここは一体なんなんだ?」
「ここは没ステージよ?」
「いや。そういうことじゃなくて、なんであちこちが黒い壁みたいになっているんだ?」
「没ステージだからよ」
「いや、それじゃ答えになっていないだろ。没ステージだとあちこちが黒い壁になるのか?」
「ええ。それが没ステージだからね。没ステージとは、作者が途中で物語から削除した書きかけの設定。他に面白いステージを思い付いたら削除されるのよ」
「黒い壁は、システムのバグみたいなものか? 書きかけで削除されたから、未完成になっているんだな?」
未完成の設定をそのまま使うなんて作者は何を考えているんだ? もっとしっかり設定を練ってくれないと登場人物としても困る。
「ま、そんなとこよ。私の喋り方も変でしょ?」
「ああ。口調が次々に移り変わって喋りにくい。没キャラクターだから未完成なんだな?」
「そーゆーこと! じゃとっとと先に行きましょう」
俺たちは、途中何度か没モンスターの集団に邪魔されながら、寺の探索を進めた。寺の内部は複雑だった。あちこちが入り組んでいてどっちに行けばいいのかわからない。
俺は、道の途中で宝箱を見つけた。
「これは宝箱?」
俺は、宝箱に近づいていった。宝箱は無造作に道の途中に置かれていた。きっと、このダンジョンを作っている途中で没にしたからだろう。細部は適当だ。
「取っちゃダメ!」
と、ゼロゴーが叫んだ。乾いた空気に、湿った緊張が走る。
「おい、脅かすなよ!」
「その中には没アイテムが入っている。それを取ると、バグが生じてこの先に進めなくなるわよ。何にも触らないで」
「わ、わかった」
俺は、宝箱を諦めると先に進んだ。
階段を上がり、謎を解いて、通路を進む。仕掛けを解除して、罠を躱した。そこから更に、階段を上がり、崩れかかった橋を飛び越えた。
そして、螺旋状になっている長い階段をひたすら上に登った。一番上まで来ると、今度は一度寺の外に出た。そこからロープを垂らして壁伝いに下に下がった。この方法でしか来ることができない小さな中庭に降り立つと、そばにあった宝箱を無視して奥へ進んだ。長い長い道のりをひたすら真面目に攻略した。
そして、遂にボスの間にたどり着くと、巨大な鉄門が構えていた。門には、明朝体で『ボスの間(仮)』と書かれていた。きっと、作者がここをボスの間にするか迷っている間に、没ステージになったのだろう。俺は、門に手をかけると、ゆっくりと押した。門は、胸に響くような重い暗い音を響かせながら大きく開いた。
「ここがボスの間か? 誰もいないみたいだけど」
ボスの間は、俺たちの心配をよそに驚くほどあっさりとしていた。シンプルな薄暗い石造りの部屋。部屋の奥には空の玉座のみがある。
「いいえ。ボスならいるわよ」
と、ゼロゴーが言った。
「どこにいるんだ? ひょっとして姿を隠しているのか?」
「いいえ。そうじゃないわ」
と、玉座にまっすぐに向かいながらゼロゴーが言った。
「おい、何してる? ボスがいるんだろ? 危ないから一人で行くなよ!」
ゼロゴーは無視して玉座の元へと行った。そして、空っぽの玉座へと腰を下ろした。
「おい? 遊んでいる場合じゃないぞ? ゼロゴー?」
「ボスならここにいる」
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