2.今日からここはプライベートスペース
社会科準備室は特別棟4階にあり、文芸部の他に弦楽部やアカペラ部などの部室もある。社会科準備室には一度たりとも出入りしたことがないので、どんななのかは想像できない。
「……失礼します」
誰もいないと分かってはいるものの、若干小声で教室に入る。中身は一般教室の半分ほどの間取り。いや、実際は一般教室と同じ間取りなのだろうが、機材やら書類やらで半分が埋め尽くされている。どうやら、ここは元々一般教室だったらしい。
今日からここは、俺のプライベートスペースだ。
「今日から部活動体験期間です。各々が所属する部活に1年生が体験に来ると思うので、そこのところ、把握よろしくね」
そうか。部活動体験か。なに、部員1人の部活に来る変わり者な一年生なんていないだろう。が、万一を思って部室にいた方が良さそうだな。
リュックを手に持ち、俺は1人社会科準備室へ向かった。
特別棟は部活専用の棟のようなもので、1階に職員室やら図書室やらがある他、2階から4階までは文化系部活の部室となっている。そのため、行き交う人々の中には1年生と思われる生徒もいて、いつもより喧騒としている。
社会科準備室の前に着いた俺は予め職員室で貰っておいた鍵で解錠し中に入る。
今日も今日とてここだけは静かで平和なプライベートスペースだ。
俺は窓際に置いてある椅子に座り、外を見やる。ここからだとグラウンド全体が見渡せて、なかなか気持ちいいもの。
カキン。
野球部のノック練が始まったところ。おお、みんな坊主だ。
カキンコン。
はて、ボールがバットに当たってこんな音が出るか?
コンコン。
今度は先程よりも大きい音が後方から聞こえた。ん? 後方? 来客か?
「はぁい」
俺は春風の余韻に浸りかけていた体を動かし、近くに寄って出入口の扉を開け放つ。
「こんにちは」
これが俺と彼女の初めての出会いだった。
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