晴れのちラブコメ、雨のち省エネ

川中とと

1.省エネ主義者の信条

 俺は省エネだ。しかし、それは周りからの意見であって俺が好き好んで省エネ生活を送っているわけではない。


 ただ、『無駄だと思うことはやらない。面倒事も避ける。人生に必要なことだけをやり、効率よく生きる』これを信条に掲げているだけ。


 でも、それって随分楽で快適な生き方で、結局は省エネ生活に繋がるのかもしれない。


「雅太にとって、私は恩人なんでしょ?」


 さて、他称省エネ主義者の俺こと冬木雅太ふゆきまさたは晴れて高校二年へと進級した。


 そして、進級から一週間経った日の放課後、担任の鳶尾琴いちはつことに呼び出しを食らった。


 そして言われたこの一言。


 この一言が何を意味するか簡単に言うと、琴が俺に強請る時の決まり文句、という表現が最適だ。俺と琴の関係を説明するには、少々時間が足りない。まあ、後々話すだろう。


「そうだが」

「どんなお願いでも聞いてくれるの?」

「尽力はする。無駄だと思ったらやらないが」


 と、言ってはいるものの、実際俺の中での無駄の基準は曖昧だ。強いて言うなら生きていく上で無駄か有益かってことくらい。


「単刀直入に言うと、部活に入って欲しい」


 部活。文化系、運動系と大きく分けてこの二大系統が有名である部活動。しかし、それらは人生に必要なものなのだろうか。


 世間には青春という言葉がある。青春とは生涯において最も活気のある時代のことを言うらしく、それは高校生時代らしい。


 そして、高校生を経験した大人は口を揃えてこう言う。


『青春するなら部活に入るべき。じゃなきゃ後悔する』と。


「それで、返事は?」


 琴を無視してとくと考えてみる。


 省エネを好む俺とて部活を断固拒否しているわけではない。むしろ、些かだが興味はある。ただ、人生に必要かと問われると素直に頷けない。ううむ。


「というか、なぜ部活に入れと?」

「あれ、知らないの? 今年から全生徒入部制になったんだよ」

「なら籍を置くだけってのは」

「全然オーケーよ」


 なら良いか。しかし、問題は何部に入るか、だ。サッカー部やら野球部やらの運動部に籍だけを置くってのは流石にまずいだろう。となると、人数の少ない文化系の部活が良いと思うのだが。


「私としては文芸部に入って欲しいんだよね。文芸部の部員人数がゼロでさぁ、このままだと廃部になっちゃうから入って欲しいの。一応、私が顧問だからさ」


 そう言って入部届を俺に差し出した。


 部員が俺だけというのは幸い。俺は一人を好む人種で友人も少ない。そして部員のいない部活、つまりは俺専用の部室が手に入るわけだ。無条件で貰える特典としてはこれ以上良いものはないかもしれん。


「今書いちゃっていいか?」

「いいよ」


 記入必須欄を全て埋め、入部届を琴に手渡す。ついでに、と社会科準備室の鍵を渡され、俺は拝見にでも赴こうと職員室をあとにした。


 ————————————————————

 ※あとがき


 ヒロイン登場は2話の最後からです。申し訳ありません。

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