3.女子の相手は久しぶり
そこにいたのは、背丈が俺よりも低く明るめの茶髪が目立つ女子生徒。出で立ちから学年を想像するにことは難しい。
「こんにちは」
そう言われたので、「こんにちは」と、とりあえず無難に返しておく。
「私、1年の七咲ななせです」
1年だったか。さては見学か体験か?
「どうも」
そう言うと、
「ここって文芸部で合ってますよね?」
「はい、合ってますよ。と言っても何もしてませんが」
「なんで敬語なんですか?」
くすくすと口元に手を当てて笑いながら指摘する七咲。確かに、それもそうか。
「それで、何か用が?」
「ああ。単刀直入に言うと、入部したいです」
そうか。それならそれで良いのかもしれない。プライベートスペース云々の前に俺は無駄嫌いだ。
確かに、プライベートスペースがあるというのは何かと便利なのかもしれない。しかし、ここに来るまでの過程を考えると、とても効率的とは思えない。そのまま自宅へ直帰した方がよほど効率的だ。
「ああ、そうか。なら、今日からここは七咲のプライベートスペースだ」
「プライベートスペース?」
「ああ、そうだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! じゃあ先輩は……」
「幽霊になる」
「なんでですか!?」
説明すると長くなるな。ううむ、どうしたものか。
「俺は帰る。戸締りはしっかりな」
俺はポケットから鍵を取り出して七咲に手渡す。ここは強行突破が最適だ。
「帰らないでくださいよ!」
「なぜ」
「それはこっちが訊きたいですよ!」
腕を捕まれ身動きが取れなくなる。
「はぁ、分かった。話をしよう」
どうにも女子相手だと事の運びが上手くいかない。
俺と七咲は教室内に入り、机を挟んで向かい合わせに座る。
「『無駄だと思うことはやらない。面倒事も避ける。人生に必要なことだけをやり、効率よく生きる』。これを信条に生きているんだ。だから俺は幽霊部員になる」
「なんですかその気持ち悪い信条は」
「よし、帰る」
「じょ、冗談ですよ! ねぇ、待ってくださいよぉ!」
両肩をがしりと捕まれ無理やり座らせられた。意外にも力があるらしい。
「なんで部活が無駄なんですか?」
「部活が無駄だと言ってるんじゃない。ここに来るまでの過程が無駄だと言っているんだ」
「まあ、ここ遠いですもんねぇ」
「そうだ」
「でも、それとこれとでは別です」
「これってなんだよ」
「それは、えっとアレですよ。アレです」
「だからなんだよ」
「なんですかねぇ」
アホか。いや、アホだ。見た目からしてアホさが丸出しじゃないか。何を今更。
「それよりも、ちゃんとした活動をするべきだと思うんです!」
その場で立ち上がり高々と宣言して見せた七咲。ここは流れに則って拍手を送ろう。
「馬鹿にしてますね?」
手の平を上にあげて、はぐらかしの意を見せる。
「はぁ、仕方ない。じゃあ、こうしよう」
俺は人差し指を突き立てる。七咲はどこか得意げな表情で着席した。
「部室には来るが、活動はしない。読書とかしてるだけだ」
「文芸部なんですから、それが活動な気がしますが?」
「うっ」
そうだ。ここは文芸部だ。
「なら、もっと先の話をしよう。例えば……そう、文化祭だ」
文化祭では1日目を各部活の模擬店、2日目を各クラスの模擬店と決められている。となると、文芸部も出店しなければならない。
「文化祭での模擬店に関しては一切手を貸さない。いいな?」
「分かりました。それでいいですよ」
なんだ、やけに物分りがいいじゃないか。
そして、記念すべき2人目の部員が手に入ったのだった。
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