第111話 また揺れよる……
見知らぬ冒険者に1番最初反応したのはグランドさんだった。
「ふむ、お主は誰じゃ?」
「俺はAランク冒険者のドロンだっ! 【剛腕】のドロンがこいつよりSランクに相応しいっ! そいつには二つ名すらないんだろ?」
剛腕ね……素行が悪くて有名な人だな。こういった情報を俺が知っているのは冒険者は情報が大事だと思っているからだ。これも処世術の一つだ。
とりあえず、剛腕さんっ! もっと頑張ってくれ!
俺はAランクのままでいいっ!
厨二病の二つ名もいらない!
だから、もっと周りを巻き込んで反発するんだっ!
[必死過ぎて草]
うっさいっ! 俺の胃にこれ以上ストレスを与えるんじゃないっ!
別に今Sランクじゃなくてもいいだろ!?
「ぐぼっ」
「これでAランクか……最近の冒険者は弱いのぉ……オーランドの方がまだ粒が揃っておるな……」
「「「……」」」
そんな事を考えている間にグランドさんは槍の柄で一瞬にして外まで吹き飛ばし、静まり返る場。
……とりあえず、わかったのはグランドさんはやはり強い事と、俺はもうSランク確定という事実ぐらいだろう。
グランドさんも俺がオーランドから脱出する時は手加減してたのだろう……。
受付嬢さんの言っていた『偉業』を改めて聞くと本当に「それ本当に俺がやったの?」と疑いたくなる内容だが……。
「受付の嬢ちゃん」
「はい、何でしょう?」
「他に文句のある奴はおらんか? わしが叩き潰してやるぞ?」
「さ、さすがにいないと思いますよ? 元六聖筆頭を相手にしたくないと思います──」
……グランドさん筆頭なの!? そりゃぁ強いはずだ……実行部隊の隊長ってそう言う事か……何で神殿騎士とかやってたんですかね!?
「文句ならあるぜ」
「ほう……そこそこ強いな?」
「ふん、現役のSランクがそこそこかよ……俺がそこの奴の強さを確かめてやるよ。そうすれば今黙ってる連中も納得するだろ?」
「ふむ……」
いやいや、凄い嫌なんですけど!?
グランドさんも納得しないでくれません?!
「異存はないようだな? 皆、そいつが若いのと、元六聖が後ろ盾なら不正を疑っているんじゃないか? ある程度強さを見せれば皆納得するだろ?」
今度はまともな正論だ!
逃げ場が無い……。
「いや、俺別にSランクじゃなくて良いですよ? ランクは別に興味ありませんし」
「ギルドの規定ですのでエル様はSランク決定です」
ぐぬぬ……。
「……Sランクといえば待遇が一気に変わるランクなんだが、興味が無いとは中々面白い奴だな。まぁ、最近話題の『白銀』のリーダーで、元銀翼のアランさんの息子だろ? 俺はお前に興味がある。裏の訓練所で勝負しようぜ? 殺し無しの何でもありで」
絶対嫌だ!
「では、参ろうぞ!」
「ちょ、グランドさん……俺は──」
「なぁに、軽く捻ってこい。あれぐらいオーガスト家には問題なかろう。勝てば──エルの知らん情報を必ず話そう。嘘偽り無くだ。フレアにも関係ある情報じゃ」
「──わかりました。その言葉忘れないで下さいね? 例えSランクであっても俺の道は誰にも邪魔させない──」
満足そうに頷くグランドさんは俺と共に裏にあるらしい訓練所まで歩き始める。
しかし、この勝負負けれなくなったな。弱体化してる上に全身が地獄の筋肉痛で勝てる気が全くしない。
だが、何でもありと言っていたな──
『──シロガネ、聞こえるか?』
俺は【念話】を使い、シロガネに連絡する。
『飯で忙しい』
『強敵だ。今すぐこっちに来てくれ』
『飯が……』
『後で食えって! 主の最大のピンチだから! 後で何か作ってやるからっ!』
『……主の食べた事のない料理を所望する──「わかった」……直ぐ行く──』
訓練場に着く頃には落雷と共に現れるシロガネ。
早いな……というか──もっと普通に来てくれよ! 周りドン引きだよ!
『シロガネ……』
「主よ、強敵はどこだ? 我には虫けらしか見えんぞ?」
「……そこにいるだろ? そいつが勝負をご所望だ。殺さずに対応してくれ」
「えっ?」
さっきのSランク冒険者は「俺??」みたいな顔をしている。
当然ながら模擬戦を申し込んで来たのはそっちだからな。
この際、被害には目を瞑ろう。
俺は勝たねばならん!
「ちょ、これ卑怯じゃないか? お前との勝負のはずだが?」
冷や汗を流しながら言う対戦相手。
「何でもありだからね。それにシロガネは俺の従魔だ。テイマーやサモナー相手にすると思えばいいんじゃないかな? あと俺、今日体調悪いからね。さぁシロガネやれ!」
うん、俺ルール違反はしてないなっ!
まさしく正論っ!
決闘だって代理が認められているぐらいだからな! これは決闘じゃないけどな!
「うむ、恨むなら主を恨め──『落雷』──」
何気に俺にヘイト集めるなよ!
「ちょ──無理無理っ!」
そんな事言いながらもさすがはSランクだ……なんとか避けている。
このSランクの人は手甲を嵌めている。近接型なのだろう。
「……主よ、手加減がやり辛い……このままだと殺してしまうぞ? 人形態になってよいか?」
「許可する」
シロガネは裸の状態で人形態になる。
本当これどうにかしないとだな……。
「うむ、これなら手加減が出来るな」
「なっ!? 【変化】スキルか!?」
「ほれ、遊んでやろう。行くぞ──『雷纏』──」
雷を纏ったシロガネはフレアの強化状態やバラムの速度を超えて移動し──
殴る──裸で……。
そしてワンアクションの度に揺れる……ブルンブルンと……。
カレンさんとはえらい違いだ……。
見てるこっちは吐きそうだ。
「ぐはっ……お前服着ろっ! 汚いもんが目に入って集中出来ないだろっ!」
ごもっともだ。俺も裸で戦われたら集中なんか出来ない──訓練したお陰のせいか俺も見えている……。
「鍛錬が足らんな」
それは鍛錬の問題じゃないだろう……いや、集中力を維持出来ていないから鍛錬不足なのか?
どちらにせよ、凄い戦闘妨害だな……。
苦笑いしている冒険者数名は高ランクで見えているのだろう。
見えていないのは低ランク冒険者だけだ。きっと、高速過ぎて裸の男が消えたり、現れたりしているようにしか見えていないのだろう。
たまにシロガネが止まるから結局全員が視認しているだけどな……。
これ──
後で俺への風評被害が半端ない気がするな……。
「こんなもんに鍛錬なんか関係あるか! ぐぼっ……」
シロガネの容赦ない拳が顔面を捉え、そのまま吹き飛ばされるSランク冒険者。
終わったか……。
というかフレアがいなくて本当に良かった……。
「シロガネはやっぱりお兄ちゃんのとこにいたのです!」
この声はフレア……シロガネを追いかけて来たのか!?
最近このパターン多すぎだろ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます