第109話 もし、この世に大罪があるのであれば……

 俺は目の前にいる人に対して現在震えている……。


 あぁ、少し前の俺をぶん殴ってやりたい。


 きっと地獄の筋肉痛のせいでまともな思考じゃなかったんだ!


 簡単に振り返ろうと思う。



[ここからはダイジェストでお送り致します]




 3日前──


 シロガネとの訓練後に俺は『弱体化』の効果をメンバーに伝えた。


 リスクの事ももちろん話した。


 そうじゃないと俺は実践訓練で死んでしまうと思ったからだ。


 そして、次の日はなんとか免除してもらえた。




 2日前──


『弱体化』が解けても地獄の筋肉痛で死にそうな俺にバラムの「もう弱体化は解けたでしょう? 勘が鈍るのでさっさと訓練して下さい」と言う言葉を告げられ……初代からも訓練を開始しろと、しぶしぶ訓練を行った……。


[スパルタ乙w]


 という【叡智】の言葉に深く頷いたのは言うまでもないだろう。ただ草は生やさないでほしかったが。


 とりあえず、この状態での訓練は死ぬかと思うぐらい辛い目に合った……。


 まず、朝に対戦したのはミリーさんだった。


 隠密系スキルを駆使して攻撃してくるのだが──


 身体中に激痛が襲っている状態では察知系スキルに集中が出来ない……どちらかと言うと、『型』の集中だけで限界だった。


 そんな俺にミリーさんの容赦ない攻撃が続いた……死にたくない俺は、それはもう必死だった。


『継続回復』を使用しながら、どこから来るかわからない攻撃を型の『円』と目に『集』を使って避け続ける。


 たまに背後から迫る攻撃が避けきれなくて──


 刺さっていた……地獄の筋肉痛と合わさりダメージが凄い事になっていた。


 以前よりも攻撃が分かり辛かった印象が強い。


 きっと、夜中に暗殺者として放たれたなら間違いなく俺は死ぬだろうと確信した一戦だった。



 夜の相手はフレアだった。


 結果を言うと──


 余裕で負けた。


 いつの間にか習得した【縮地】スキルと【神速】を同時に使ったフレアを俺には捉える事は叶わなかった……。


 俺も一応、ただ負けるわけにはいかないので痛い体に鞭打って攻撃したのだが──


「それは残像なのですっ!」


 と前世の某アニメのような台詞を言われ続けて攻撃が当たる事はなかった……。


 もはや、常人には全く見えない領域だろう。バラムやシロガネ並の速さだ。


 俺も目に『集』を使わなければ見えなかったからな……スキルの合わせ技が強力過ぎる。


 まぁ、俺の不調の理由を知っているから勝っても不満足そうだったが……。



 1日前──


 地獄の筋肉痛は3日目に入り、落ち着き始めると思っていたのだが──


 全く変わらない……もはやこれは呪いではないか?


 そう思うぐらいだった。


 ちなみに【回復魔法】を使えば良いじゃないか?


 そう最終日に気付いて使用するが──


 効果は無かった……やはりこれは呪いなのだと確信した瞬間だった。


 絶望感が漂う中、朝はセリアさん、夜はメリルさんが訓練相手だった。


 訓練内容としてはこの2人が1番痛く無かった。


 何故か?


 それは満足に動けない俺にわざと胸を当てたり、抱きついたりとしてきたからだ。


 そのお陰で俺の顔は終始緩みっぱなしだった。


 癒しがあるのはどんな形であれ嬉しい物だと心底思ったぐらいだ。


 こういう時に優しくされると涙が出そうになる。


 エレノアさんなんて効果が無いとわかっていても必死に『回復』をしてくれていた……ただ、涎を垂らしていたのでろくな事を考えていないんだろうなとは思ったけど。





 そして、ついに次の日朝──今現在なのだが……。


 俺は地獄の筋肉痛から解放されたっ!


 なんて清々しい朝なんだ!


 これで訓練も全力で行けるっ!


 ──そう思っていたんだ……。


 対戦相手はだ。


 ミレーユの目は座っていた……背後には般若が見える気がする。


 殺気もある……。


 これは間違いなく──


 怒っている。


 思い当たる節など一つしか無い。


 セリアさん、メリルさん、エレノアさんの優しさに甘えていたのがバレたのだろう……。


 いつもであれば俺は甘える事はしないのだが──


 今回は前半のスパルタで身も心もぼろぼろになってしまっていて癒しが欲しかった。


 今回、人間は弱ると優しくされたい──それがよくわかった。



 ちなみにこの訓練は集中する為に俺と対戦相手、バラムしかいない。


 つまり──


 本人かバラムからしかバレる事はないのだ。


 俺はバラムに視線を向ける。


「犯人は私です」


 自白されてしまった……。


「何故?」


「出来心です──といのは冗談でハーレム野郎に天誅をっ!」


 こいつ……完全な私怨じゃないか!


 確かに『白銀の誓い』は従魔、眷属を除けば女の子だらけで、ハーレムに見えるだろう……。


 しかし、俺はミレーユ一筋だ!


 その事はもちろんミレーユもわかっているはず──


 俺はミレーユを恐る恐る見る。


 わかってくれるよね?


「さぁ、エル……選びなさい。死んで浮気を認めるか──生きて違う事を証明するかを──」


 その言葉に俺はフリーズする。


 バラム……お前はいったい何を吹き込んだんだ?


 ここまでの究極の選択肢を出された事は未だかつてないんだが?


「いえ、私はまるで恋人のようにイチャラブしてましたとしか言ってないですよ?」


 大罪がこの世界にあるのであれば──


 ミレーユは間違いなく『嫉妬』だろう……。



 この後の訓練は──


 もはや、訓練ではなかったであろう……。



「ボス、使って下さい──じゃないと今のボスでは死んでしまいます」


 そうバラムも言うぐらいで、冷や汗も垂らしていた。


【応援】の使用許可が降りなかったら俺は嫉妬に狂ったミレーユに殺されたかもしれない。


 俺はぼろぼろになりながらも理由を聞くと──


 ミレーユとの時間が少ない上に他の女の子と仲良さそうにしていたストレスが溜まりに溜まっていたそうだ。


 離れていると愛は育む事もあると聞いた事があるけど、ミレーユの場合は愛というのは人を狂わすのだと──この時知った。


 とりあえず、ミレーユとの時間がとれていないのが原因だと知ったのでこれからは出来るだけ、合間はミレーユと過ごそうと思う。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る