幕間

第103話 『銀翼』の最後

 〜ミレーユ視点〜


 エルは相当悩んでいたんでしょうね。


 今は疲れて寝ちゃったわ。後は残ったメンバーで雑談しているところ。



「さて、メリル──これで満足かしら?」


 明らかにエルを試していたメリルに私はそう聞く。


「えぇ。とてもね? ミレーユもでしょ?」


 まぁ、私もなんとなくわかってはいたけど、はっきりさせて良かったと思っている。



 神域と呼ばれる場所は頼まれたからと言って、軽はずみに行くような場所じゃない。


 仮にもサブリーダーに任命した私とメリルに相談無しで勝手に決めて良い事じゃなかった……。


 これはパーティにとって亀裂が入ってもおかしくない案件だった。


 その為、メリルと私はこの事がわかった後──直ぐにエルを除いたメンバーで意思確認をする為に何度も女子会と称して会議を行う。当然ながら関係無いエレノアさんには気絶──いえ、寝てもらったわ。


 でも──なんやかんやで、皆はエルに着いて行く事に異存はなくて良かったけど……普通は抜けてもおかしくない。



 そして、エル自身の秘密も皆が気になっていた。


 そう、これらはエルがはっきりさせなければならなかった事──


 だからこそ、私はエルが話を切り出した際に直ぐに答えなかった。



 結果は──


 今の皆の顔を見ればわかるわ。


 エルが攻撃スキルを習得出来ない理由が明白になったのと、あり得ない強化率の支援魔法の事──


 エルの誰も知らない秘密を知れた事によって、『白銀の誓い』はより強い絆で結ばれた。



 そして……フレアちゃんの置かれた境遇がわかった。


「皆、これから──死に物狂いで強くならないといけないわ。フレアちゃんの聖痕は取り除く為に」


 皆は私の発言に頷いてくれる。


 フレアちゃんは目が見えないのに無邪気に精一杯生きている。小動物みたいに可愛いのもあるけど、エルの為に強くなろうと、私達の足を引っ張らないように頑張るフレアちゃんを応援したいと皆思っている。


 必ず皆で力を合わせて何とかしたい。



 その場は深夜という事もあり、解散して皆寝床に戻る。




 私は横になり思考する。


 神域はおそらく──


 今の私達では攻略出来ない……。


 最低でも一対一で天眼を相手取る事が出来るぐらいじゃないと……。


 私も力不足……。


 せめて……私以外の『銀翼』の力があれば……。



 思い出す悪夢──


 それは『銀翼』がなくなった日──


 私は圧倒的な力に何も出来ずに片手足無くし、私を守ったゾッホは胸を貫かれ生き絶え、キャロルが私を回復する中──


 ブレッドとアランは背中から黒い翼を生やした『天使』と呼ばれる相手に立ち回る。



 ブレッドの声が聞こえてくる──


 私は声の聞こえる方向に視線を向ける。



「ぐぅっ……アランっ! 後は頼んだぞぉぉぉっ! オーガスト流奥義──『飛燕色乱舞』──」


 致命傷を受け、限界であろうブレッドは凄まじい威力の属性魔法が込められた飛ぶ斬撃を放ち全身から血を噴き出して倒れる──


 属性竜ぐらいなら殺せるであろう攻撃でも『天使』には足止め程度にしか効果がなかった。


「──ブレッドっ!?」


 倒れるブレッドにアランの叫び声が木霊する。


 迫る『天使』の攻撃でアランが殺される──


 そう思った時──


「まだ死んでねぇよ! 天使さん? この時を待ってたぜ──オーガスト流奥義──『極一閃』──ちっ……これも効果無しか……アラン──俺はここまでだ……丸投げするぜ?」


 ブレッドは『天使』の背後に突如現れて横薙ぎに強烈な一閃を繰り出し──


 ──遠くの方へと吹き飛ばす。


「あぁ、後は……任せろ……あいつは必ず俺達の子供達の為に討つ──」


 アランの言葉に『天使』にカウンターを受け、上半身と下半身が離れ離れになったブレッドは満足そうに頷き──


 ──生き絶える。



 次々と死んでいく仲間に──


 昨日まであった笑顔や日々が戻らないと思うと涙が止まらない。


 私は何でこんなに弱いんだろう……必死に訓練したのに……無力だ……。



 そんな私にキャロルが話しかけてくる。



「──ミレーユ……貴女だけは必ず──逃す──」


「……嫌よ……絶対に……皆の仇を取る……」


「……ダメ。……アランじゃ勝てないわ……」


「こいつを倒さないとエル達が守れない──ブレッドとゾッホの仇を取って──王都は必ず守るっ!」


「──ダメよ。こいつは私達が命を賭けてなんとかするわ……。フレアとエルはこれから先──必ず辛い目に合うわ……エルは必ずフレアを守ろうとする──私達の代わりに──助けて欲しい──」


「──どういう意味!?」


「今は知らなくても、いずれわかるわ」


「それでも──「ミレーユっ!」──……」


 どんな苦境であっても見せた事の無い表情で私に叱りつけるように言うキャロル。


「ミレーユ? これは私とアランの最後のお願いなの……である貴女に弟と妹を託したいの……今頼れる人が貴女しかいないの……」


 悲しみを堪えた表情で言うキャロル。


「そんな言い方卑怯よ……」


「ふふっ、そうね……ごめんね? でも私達は本当に貴女とレーラは娘だと思ってるわ。過酷な運命を背負ったエルとフレアの2人を助けてあげて?」


「……生きて帰って来て……」


「ふふっ、エルみたいな事言うわね? 大丈夫よ。私達は例え死んでも貴女達を見守っているわ──さぁ──イザベラから預かった転移石を使うわ。生きてね? 愛しいミレーユ──」


「ま、待って──お、──」


 今まで言った事の無い言葉を勢いで言う。


「初めて聞けて嬉しいわぁ。貴女達に幸多からん事を──『魂命強化』発動──」


 それが──キャロル──いえ、お母さんの最後の言葉。


 そして──お母さんから出た光の粒子はお父さんへと向かい──


 お母さんは倒れる。


 お父さんに纏わりつくようにお母さんは翼に変わる──


 お父さんはこちらを振り向き笑顔で──


『さらばだ──娘よ──』


 そう言った気がした。



 そのまま『天使』に凄まじい速度でエルの放った攻撃と同じ攻撃を行う──


 これが『流星』アランの二つ名の由来──


 そして、これこそが白銀アランに纏ったキャロル──2の姿を見て──


 パーティ名『』を思い出す──



 私はそこで戦線を転移石により離脱させられる。そういえばエルも魔人と戦った時に同じ手段を使った……エルはやっぱり、お母さんにそっくり……。



 敵に向かう2人の笑みは私達を守る為に向けられた笑み。



 その意思は大事にしたい。



 そう誓って、エル達の住む王都に戻った。



 お母さんの言っていた過酷な運命とはが関係しているのは間違いないはず。


 今まで以上に強くなって──


 命を賭けて──


 エルの恋人──そして、お姉さんとして2人を守る──


 両親が望んでいなかったとしても、これが両親の救ってくれた命の使い方──


 これは私が決めた事……。


 誰にも文句など言わせないッ!



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