第102話 結束

 今、目の前にはフレアとエレノアさん以外が全員揃っている。


 あの後、悪いと思いながらも起こさせてもらった。


 俺一人ではこの先──どうにもならないかもしれない。


 だけど、フレアを守る理由が出来た。


 俺個人の力はまだまだだし、強くなれる保証もない。


 神域に辿り着くのはバラムとシロガネがいればなんとかなるかもしれないが──何があるかわからない以上は皆の力も出来れば貸して欲しい……。


 この事は話せる範囲で皆に相談しないとダメだと思った。というか、神域みたいな危険な場所に行く事を皆の意見を聞かずに決めてしまった。こんな大事な事を後回しにするなんて……リーダーとして失格だ……。


 説明した上で協力してくれるかどうかの意思確認しないと……最悪──パーティは解散するかもしれない……。


 俺は集まってくれた皆に話しかける。


「皆、夜遅くにごめん……実は話があるんだ……」


「フレアちゃんの事ね?」


 メリルさんはやはり察しが良いな……。


「そうなんだ。ミレーユとメリルさんはさっき見たけど、この俺の胸にある烙印がフレアの目にあった……そのせいでフレアの目は見える事が無い……」


「「「──!?」」」


 カレンさん、ミリーさん、セリアさんは驚いた顔をする。


 何に驚いているのかはわからないが……。


「俺の旅の目的は──フレアの目を治す手掛かりを探して治す事なのは知っていると思う。さっきバラムから治し方を教えてもらったが、この烙印のせいで治療は出来ない……。だから──俺はこれを取り除いてフレアの目を見えるようにするつもりだ……」


「エル、その烙印って言うのって──神に選ばれし者に刻まれるって言われてる奴だよね?」


「烙印と言えば然るべき場所に行けば──強力なスキルを得れるだろう?」


「それは聖女様にしか現れないと聞いているんですが……」


 カレンさん、セリアさん、ミリーさんの順で答えてくれる。やはり、皆も存在は知っているみたいだ。


「そうだね……お伽話かと思っていたんだけど、実際に刻まれてしまった以上、選ばれたんだと思う……。そこで聞いてほしいのがスフィア聖王国の建国の経緯なんだ──」


 俺はバラムから聞いた話を考察を入れながらしていく──



「「「……」」」


 話が終わると全員が押し黙る。


 表情も真剣で歯噛みしている感じだ。


 最初に口を開いたのはメリルさんだ。


「確か歴代聖女の烙印が消えるのは──まさか!?」


「メリルさんの想像の通りだよ……最初俺はエレノアさんと一緒に付き添いで神域に行く予定だった……それまでに強くなって──辿り着けたらいいかと思っていた。だけど、俺の中で目的は変わった──神域に行けばフレアの烙印は消えるはずだ。フレアの目を見えるようにしたい。出来れば……皆の力を貸してほしい……お願い──します!」


 俺は皆に頭を下げる。


 完全に俺の我儘になる。それに皆に相談しなかったんだ……頭ぐらいいくらでも下げる。


「エル君は──神域がどう言った場所か知ってるはずよね?」


 沈黙の中、話しかけて来たのはメリルさんだ。


「父さんと母さんから聞いているよ」


「私達ももちろんどんな場所かは知ってるわ。けれど──今の私達で辿り着けるのかしら? 下手したら現『六聖』でも辿り着けない場所よ? もちろん私も挑戦した事はあるけど──撤退したわ」


「……メリルさん……」


「なぁに?」


「それって昔ですよね? 今のメリルさんはその頃より強いはずです……それに──俺が皆を鍛えます。皆が誰一人欠ける事なく辿り着けるように……」


 そう、皆が来てくれるなら俺は全力で【応援】するつもりだ。そうすれば──『銀翼』と同じか、それ以上のパーティになれるはず。


「確かに強くはなったわ。そして、この間の特訓……明らかにわ。それが──エル君の烙印の理由かしら?」


 皆、微かに気付いていたのだろう。


 答えを求めるように視線が集中する。



「烙印──これが関係しているかはわからないですが……俺は生まれ付き、初代オーガストが所持していたスキル、【応援】を持っているんだ。これは強力な底上げが出来る力です。その代わり……俺は攻撃系スキルが使えないけどね。そして、このスキルは強くなる為にも使える……セリアさんの時にはぼかして伝えたけど、この力を使っています」


「……なるほど。それで昔がむしゃらに訓練してたのね……援護魔法にしても異常だったわ。ミレーユは知ってたのかしら?」


「……初めて聞いたわ。私が聞いていたのは攻撃スキルが使えないスキルがあるとしか……」


 そう、このスキルは生まれて初めて他人に話した事だ。今まで誤魔化してきた。


「これはエル君が私達を信頼した証として受け取っていいのかしら?」


「そうですね。これは俺の最大の秘密です。これから命を落とすかもしれない場所に黙って成り行きで連れて行くのは俺には出来ない……」


 頭を下げた状態で言う。


「……実は今回のエレノアの件については皆で話し合いはしてるのよ……とても危険な場所だから……。でもね? 不思議な事に誰も反対なんてしてないのよ?」


 俺はメリルさんの言葉を聞き、顔を上げて皆を見る。


「どんな危険な場所に行ってもエルがいたらなんとかなるでしょ?」


 カレンさん──


「私はアメリア様の命により、ここに来ました。しかし、今ではここにいるのが楽しくて仕方ありません。例え危険な旅であっても私はここにいます」


 ミリーさん──


「私はお前の右腕だ。ノアの代わりに必ず役目を果たす」


 セリアさん──


「私は元からついて行くつもりよ?」


 ミレーユ──


「ね? もちろん私もよ? ふふっ、それでね? 皆で強くなろうと──かつての『銀翼』の誓いみたいな事をしたわ。不思議よね……声に出してみると必ずやり遂げるって思っちゃうのよね。今はエル君が私達を信頼してくれた事がとてつもなく嬉しいのよ? エル君が私達を強くしてくれるんでしょ?」


 メリルさん──


 俺は皆の言葉に涙が止まらない。


 声を出す事が出来ず、頷く事しか出来ない。


 皆は俺の周りに来て慰めてくれる。


 今まで誰にも言えなかったスキルの事、フレアの悩みを共有した事で俺の今まであったわだかまりみたいな物がとれた気がした。


 しかも皆は、話を聞いた上で否定する事なく、付いてきてくれると言ってくれる。


「……ありがとう──」


 なんとか声を絞り出す。



「エル──さぁ、正式に『白銀の誓い』を行うわよ? エルがやらないと意味ないでしょ?」


 ミレーユは俺にかつての『銀翼』で行った──言葉に出した内容を必ず実現させるという意思を込めて本気で取り組む為の儀式を今行うと言う。


 別に何も強制力なんてない……だけど、『銀翼』の皆は必ず言葉に出した目標や願いは実現していた儀式。


 そうだな……俺がやらないとダメだ。


 俺は抜剣し天に掲げながら、声を張り上げる──


「俺達は誓う──誰よりも強くなって──フレアの目を必ず治すッ!!!」


「「「必ず──」」」


 皆、各々の武器を天に翳す──


「私達──『白銀の誓い』はこれからっ! 必ず願いは叶えるっ!」


 続くカレンさんの言葉に父親であるブレッドの面影が見えた気がした。



 俺は『白銀の誓い』が存在する限り──


 皆を守る為に、強くなる為に──


【応援】を使う。



「皆、夜中に何してるのです??」


 声が大きかったせいでフレアが起きたようだ。


「可愛いフレアの為に頑張って強くなるって話してたんだよ」


 疑問符を浮かべるフレアに俺はそう答える。


「むぅ〜、フレアが皆を守るのです!」


 ぷんぷんと怒るフレアに皆は笑い出す──






 ────────────


 5章完結です。

 幕間を2話ほど挟みます。

 ここまでお読み頂きありがとうございます。

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