第100話 昔話
「うぅ……──俺は寝てたのか?」
気がつくと俺は地面に転がっていた。
シロガネにやられたのだろうか?
「ボス、あのままだと非常に良くないので気絶させて頂きました」
バラムの声は真剣だった。
【応援】の重ね掛けはやはり良くないのだろう。
俺は起き上がり、周りを見渡す。
少し離れた場所でシロガネが正座をさせられていた。
「あれは?」
「……フレアお嬢様に粗相を働いたので反省させています」
バラムは意外と気が使える奴なんだな……。
まぁ、シロガネはもう良い。
それより──
「そうか……。とりあえず俺は条件を満たしたぞ……教えてくれ。治し方があるのか?」
フレアの目が今は一番大事な事だ。
「そう──ですね。役に立つかどうかは置いておいて、実際に治したという話は大昔にあります」
治す方法があるんだな!
けれど──
「役に立つかどうかは置いておくか……何か代償が必要だったりするのか?」
そうとしか考えられない。じゃないと俺が手掛かりを探した時に見つかってもおかしくないからな……。
「ボスは察しが良いですね……そうです。治し方と言うのは語弊があるかもしれません。これは──とある昔のお話です。スフィア聖王国は今もありましたね?」
「ある。そこに神域があるからな……」
「そこの建国の経緯は知ってますか?」
「知らない……」
母さんから色々と聞かされて来たけど、そこだけは何故かぼかされていた気がする。
「では、それも関係しているので一緒に話しましょう」
バラムは語っていく──
昔々──
ライアスという男がいた。
そのライアスには幼馴染のスフィアという恋人がおり、その人は生まれ付き目が見えなかった。
ライアスは彼女を治す為に幼い頃から訓練した。
そして、何年も何年も──彼女を治す為に死に物狂いで【回復魔法】を人々に使い続けたライアスは人類で最初にスキルレベルを10まで上げる事に成功する。
しかし、【回復魔法】はあくまで『回復』しか出来なかった。
元から無い物を回復させる事は叶わないことを知った。
その頃には人々を助け──聖人と呼ばれる存在になっており、スフィアとの間に子供も授かっていた。
周りは前代未聞の【回復魔法】を目にして神と崇める。
ライアスはそれでもスフィアを治す為に治療法を探す──
危険な場所にも行く為、自分自身鍛え──次第に強くなって行く──
そして、ありとあらゆる方法を使い──治す手段を探した。
最強と呼ばれ、聖人として崇められても──
結局、スフィアの目を治す事は叶わなかった。
ある日──絶望感が襲うライアスに神が現れる。
何の為に現れたのか?
それは──
脅威となる存在を封印しろという内容だった。
ライアスは断った。
それよりもスフィアの目を治したいと。
すると──
封印する代わりに治療方法を教えると交換条件が告げられる。
それにはライアスも素直に納得して条件を飲む事にした。
それと同時に脅威となる存在を封印する為、スフィアは【神気】という力を授けられる。
それは言葉通り、神のような力だった。老いた体を若返らせたり、敵を封印し、周りを癒す事が出来た。
スフィアはその力で聖女と呼ばれるようになる。
そして、当時強者と呼ばれた仲間と一緒に死力を尽くして脅威を追い詰めて封印を施す。
すると、そこに『信託』をした神が降臨し、報酬として治療法が告げられる。
内容は──
己の目を移植するという内容だった。元々無い物は再生出来ない。ならば新しく足せば良い──そう言われた。
ライアスは『脅威』から呪いを受け、先が長くないと悟り──迷わずスフィアに自分の片目を取り出して移植する。
スフィアは初めて見るライアスの顔に涙を流した──
自分の為に命を賭けて──ここまでしてくれたと。
ライアスは余生をスフィアとしばらく暮らす──
しかし、『脅威』の力は大きく、完全に封印されていなかった──
再度暴れ出す『脅威』。
向かう場所は封印を行ったライアスとスフィアの元。
当時、封印した仲間である『神の使徒』は再度結集して立ち向かうが──次々と倒れて行った。
そして──目前にまで迫った時、神が降臨し足止めをする。
完全な封印を行うには継続して【神気】を使わなければならないと神より聞いたスフィアは──
愛する人の為に何が出来るのか?
そう考える。
呪いにより弱ったライアスは【神気】を持ってしても治す事は出来なかった。
満足に動けないライアス──
いつも迷惑をかけてばかりだったライアスの命を助けたい──例え、残り僅かな時間であっても。
その想いしかなかったスフィアは神により授けられた力を再度使う決心をする。
スフィアは言う──
「ライアス──今までたくさん迷惑ばかりかけてごめんね……ありがとう。私が必ず──封印するから──だから少しでも長く生きて……愛しています──ずっと──」
「……」
儚い笑顔をライアスに向けているであろうスフィアにライアスも精一杯の笑顔で応える。
スフィアは口付けをすると、ライアスは最後の力を振り絞り──もう片方の目も取り出してスフィアに移植する。
「……俺の最後のプレゼントだ……」
ライアスに勇気をもらったスフィアは『脅威』に立ち向かう──
そして、自身を生け贄に封印する事に成功する──
それ以降──
スフィアにより、救われた人々は崇め──国を作る。
その名を──スフィア聖王国として。
「とまぁ、こんな感じです。おそらくオーガストと会った時にはこの話が改修されてましたので──確証もありませんし、信じる信じないは自由です。それと──烙印はそれ以降つけられていますね。目印ですよ」
切なすぎるだろ……。
まるで見てきたような言い方だな。長生きしてるもんな……。
気になる点がいくつかあった……まずライアスという人物は聞いた事が無い。歴史から抹消されたのか?
神という存在と『脅威』は同等の存在なのか?
何故、【神気】というスキルはライアスさんではなく、スフィアさんに与えられたのか?
母さんからはぼかしながら、初代聖女様が世界を脅かす存在を封印したとしか聞いていない。
詳しい内容を聞いたわけじゃないからわからない部分もある。
バラムは烙印と言っていたが、
だが──嘘は吐いていない。
建国されたのはそれが理由なのは間違いないだろう。
「信じるさ……バラム──お前との付き合いは短い……だけど、俺は【真理】スキル持ちだ……。お前は嘘は言っていないのはわかっている……」
「ありがとうございます……」
バラムは俺の返事に嬉しそうな、悲しそうな顔をする。
「我はいつまでこうしていたらいいのだ?」
忘れ去られていたシロガネの発言で少し空気が緩む。
「反省したなら、ぼちぼち戻ろう」
しんみりしたけど、フレアを治せる事が知れたのは素直に嬉しい。
ライアスさんはその後どうなったんだろ?
それだけが気になった……。
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