第99話 俺が裁こう

 俺とシロガネはバラムの開始の合図と共に動き出す──



 これは俺が一撃を与えたら終わりの勝負だが、シロガネは人の姿で狼形態より的は小さい為、容易に一撃は与えられないだろう。


 だがスキル、魔法は禁止だ。


 約4倍強化の俺なら──なんとでもなるだろう。


 可哀想?


 そんなもの俺には全く関係無いっ!


 俺は【縮地】スキルを使い──一気に距離を詰めて問答無用でシロガネを一刀両断にする為に全力で剣を上から斬り下ろす──


 対するシロガネは手甲を嵌めた拳を合わせる──


 ガギンと鈍い音と共に俺達の攻撃は拮抗する。


 強化状態の俺はどうやら通常のシロガネと渡り合えるぐらい強いようだ。


 ただ、この強化も長く続かない──


[【再生】スキルのお陰で副作用が半減なぅ]


『と言っても、お前の体の負担は大きいけどな……早死にしたくなければさっさと終わらせろ』


 ──ノアありがとう……お前の力のお陰で俺はまだ戦えるッ!


 俺の天使を汚した奴には天誅をッ!


「……主」


 目の前のシロガネが俺を呼ぶ。


「なんだ?」


「……真っ二つになるような攻撃だったぞ?」


 それはそうだろう。


「当然──そうなるように全力で攻撃しているからな」


 きっと俺の目は座っているだろう。


「……主は優しい心の持ち主じゃなかったか?」


 いつもの俺と違う雰囲気に戸惑いが見え隠れするシロガネ。


「シロガネ……俺はな……フレアが己の命より大事だ。そのフレアを汚したお前は万死に値する──」


 俺は次々と攻撃を重ねていく。


 奥義を使いたい所だが──


 溜めがいる技だけに容易に放つ事が出来ない。


 せめて、あの奥義に使っていた『型』を応用しよう。


 あれは『発』を使っている。


『集』は一定の魔力を四肢などに留めて威力を上げる。


 そして、『発』はその応用で溜めた魔力を一気に放出し、ブーストをかけている。


 この乱撃の嵐の中、シロガネの体勢を崩した瞬間──


 一気に魔力を放出させて袈裟懸けに斬り込む。


「やるねぇ」


 シロガネは紙一重で避ける──


 さすがシロガネだ……素の身体能力だけで今のを避けるとは……。


 だが──


 まだ俺の攻撃は終わっていない。


 抜剣の構えを即座に取る──


 シロガネは正拳突きを俺の顔面目掛けて打ってくる。


『集』は何も四肢だけに効果が反映されるわけじゃない。魔力を集められればどこでも一緒だ。


『線』もそれと同じ応用の型。剣速を上げる為に鞘と剣に魔力を込めて滑らかにしている。


 そこに剣を抜き放つ瞬間に『発』を使う──


 後出しでの攻撃なのに、シロガネの拳が俺に当たる前に剣が先に接触する。


 さすがにカウンターでシロガネも避ける事は出来ずにそのまま即座にバックステップで下がってダメージを軽減するシロガネ。



 この事にはこの場にいるバラム、シロガネ──そして初代も驚愕する。


『既に戦闘中に応用が出来る段階とは……末恐ろしいな』


 褒めてくれる初代。


 ここ数日、バラムに毎回ボコられるから一矢報いる為に頑張っていたが、この成長は素直に嬉しい。


 最後はシロガネがフレアに汚物を認識させた怒りで集中出来たのがトリガーだとは思いたく無いな……。


「勝負あり。ボスの勝利です」


 バラムも満足そうな笑みを浮かべている。


「まだ終わっていない」


「「えっ?」」


 バラムとシロガネは俺の言葉に疑問符を浮かべる。


「まだお仕置きが終わっていない。シロガネ……もう少し付き合え」


 普段では絶対出さないドスの効いた声で俺は告げる。


 当然ながら【応援】スキルの重複で寿命が縮もうがフレアに汚い物を晒した罪は必ず──


 裁くッ!!!



「主──我は腹が減った」


「ならたくさん剣戟をご馳走してやろう」


「いや、そうじゃなくて……」


「なぁに遠慮する事はない。俺は倒れるまで確実に攻撃を止める事は──ないッ!」


「ちょ、悪い事したのなら謝ろう! だから主──待つのだ!」


「やだ」


 俺は逃げ惑うシロガネに今の全力で次々と攻撃していく。


 別に今は怒ってはいない。


 ただ、こんな事がないようにお仕置きは必須だろう。


 それに──


 例え【応援】を使った状態であっても──強くなれている実感があって今とても嬉しい。


 もう少し付き合ってくれ──


 この充実感をもう少し俺に与えてくれ──

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