第98話 許される行為じゃない

 天眼に変態扱いをされてから数日が更に経過した。


 旅は順調だが、正直言うとかなり引きずっている……。


 変態じゃないと思っているのに他人から言われるとそうなのだろうか? と疑問に思ってしまう自分がいる。


 自分は普通だと思ってはいるのだが、聖女様であるエレノアさんも正直Mが極まってる感が半端無く。


 話しかけると「めちゃくちゃにして下さい!」と大声で言う……その度にミレーユ達からの視線が痛い。


 こういう人が近くにいる時点でもう普通じゃないのかもしれないと思ってしまうのも要因だったりする。



 そういえば、エレノアさんにフレアの目を治せるか聞いてみたが──


 先天性は無理だと言われた。


「生まれつき目が見えないのは神が与えた試練です」


 と回答付きで。


 そんな試練を可愛いフレアに与える神なんぞ、滅べば良いと思う。




 そして、現在俺は何をしているかと言うと──


 地面で寝ている。


 時間は深夜だ。


 夜だから寝ているわけじゃない



 何より最悪なのが──


 現在進行形で行われているバラムの特訓だ。基本的に訓練内容は模擬戦一択。


 と言ったバラムは問答無用で致死攻撃を仕掛けてくる。もはや模擬戦じゃなく実戦だ……。


 ミレーユみたいに手加減なんて全く無い!


 初代の『型』がなかったら死んでいただろう……。


 来たるべき娘さんから守ってもらう為にバラムは必死だ。


 ちなみにシロガネも嫁さんから追われている為、俺の成長具合を確かめに来ている。


「ボスっ! これでは娘に殺されてしまいますっ! そうすれば私も地獄のような苦しみが待ってるんです! 早く立って下さい!」


[お前が勝てない相手に俺がどうやって勝つんだよ……無理ゲーだろ! 強くなっても、お前の娘さんどころか、お前にすら勝てる気がしねーよ! byエル]


【叡智】さんや俺の心を代弁しないでくれませんかね?


 いや、まぁその通りなんだけどさ……。


『まぁ、地力が違い過ぎるからな……【応援】無しじゃ無理だな』


 そうなだよな……訓練中は【応援】スキルを使わないように釘を刺されている。


 バラムはこのスキルの存在を知っているようだった。


 おそらく、力に頼らずに地力をひたすら上げる訓練なのだろうと予想出来る。


 だけどな!


 フレアを強化した並の速さなんか、自分の強化無しで対応出来るわけないだろ!


『円』を使って、攻撃が来た事を認識した瞬間には吹っ飛ばされてるんだぞ!?


 あぁ、癒しが欲しい……。


「呼んだ? 「邪魔です」──げふぉっ──」


 決して乙女が出して良い声じゃない言葉を発しながら吹き飛ぶのはフィーリアさんだ……殴ったのはバラム。


 最近、人気が無くなるとやたら滅多と現れる……。


 即座にバラムが退場させてくれるんだが……やり方が雑だ。



「バラム……俺は強くなっているのか?」


 フィーリアさんは毎度の事なので置いておこう。


 ここ連日、俺は這いつくばっている記憶しかない。


「そうですね……なっていますよ?」


 何故疑問形……。


「全く歯が立たないんだけど?」


「それは私が強すぎるからですね」


 何そのドヤ顔。


「……」


「では──私以外の人と模擬戦しましょう。【応援】を使ってもいいですので、その方に一撃でも入れる事が出来たら目の治し方の可能性を──」


「やるっ! フレアの為なら命など惜しくない!」


 誰が相手でも関係無い。


 フレアの治し方の手掛かりがわかるのであれば俺はどんな強敵であっても立ち向かおう。


「……ボス……訓練もそれぐらいの気持ちで挑んで下さい……このシスコン」


「うっさいっ! 最後小声だけどしっかり聞こえてるぞっ! それで誰と戦うんだ!?」


「──先輩──」


「うむ──我が相手になろう──」


 この声はシロガネか……。


 フェンリルは災害クラスだ。だが、体は大きい。一撃だけなら俺でも可能だろう。


 俺はシロガネの方に体を向ける──



「……どちら様?」


「……我はシロガネだ」


「いやいや、フェンリルじゃないじゃないか!? というか──服着ろっ!」


 目の前にいたのは筋骨隆々の白髪をオールバックにした裸の男性がいた。まるで獣人のようで尻尾や耳もある。


「わぁおっ! おっきい〜っ!」


「バラム──」


「はっ」


「ぶふぇ──」


 とりあえず変態は消えた。


 何で裸なんだよ!


「お兄ちゃん並に大きいのです……」


 ──フレアの声!?


 そして、そのコメント一番いらない情報だから!


「フレア……何でいるのかな?」


「バラムに呼ばれたのです!」


 俺は幽鬼のようにゆらゆら揺れながらバラムを見詰める。


「……ボスが強くなる為に──私は手段は選びません。ただ──やる気を出してもらう為に呼んだのですがね……この状況は正直予想外でしたが……」


 申し訳なさそうに言うバラム。


「シロガネ……」


「うむ、主よ──我が胸を貸そうぞ?」


 バラムにより服を着させられたシロガネは反省の色はないようだ。


「そうだな……胸を借りよう……。フレア……皆の所に戻ってくれるかな? お兄ちゃんはこれから退しないとダメな奴が現れた……」


「わかったのです!」


 素直に従ってくれるフレアに安堵する。



 俺は無言で【極】全強化オーバードライブを使う──


「シロガネ──フレアを汚した罪は償ってもらう──」


「中々良い殺気だ……さぁ、全力で来るが良い──」


 自信満々に答えるシロガネ。


 バラムは満足そうな笑顔で周りに被害が出ないように用意をそそくさとし──


「では、ボスはスキルと武器は剣のみ、先輩はスキル魔法禁止で。開始──」


 そう告げると同時に俺は型の『集』を発動する。攻撃重視だ。


 俺は既に倒す事をしか考えていない。


 かつてここまで怒った事があっただろうか──


 ──否ッ!


 人生で初めてだろう。



 例え相手が災害クラスのフェンリルであっても関係ない!


 例え見えていなくても認識してしまった……これは許される行為じゃないだろう。



 俺は俺の信じた道を進む──


 ノアの時にそう決めたんだ!


『いや、絶対意味が違うだろ……ただのシスコンが発動しただけじゃないか……』


[天眼のナカーマw]


 雑音が五月蠅いッ!


 とりあえず、必ず──


 お仕置きする!

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