第96話 ようこそ、こちら側へ
次の日──俺はもう、全てをバラムの部下に任せる事にした。
とりあえず早く向かいたい……一年あるからと言っても危険な場所に変わりはない。早く訓練も開始したいからね。
バラムの部下には悪いと思ったが──何より事務処理から解放されたかった……。
ちなみに今は俺達は既に出発の準備を終わらしてキンブリーの門の前にいる。
意気揚々と準備をしたのはバラムだ……どれだけ旅に出たいんだ……。
「やっぱり行くんだね?」
「あぁ、俺は冒険者だし──冒険してる方が性に合ってるよ。街は任せたっ!」
目の前にはフローが見送りに来てくれている。
運営は雇った人達がするから問題ないだろう。責任者として頑張って欲しい。俺も国際問題にならないよう頑張る……本意じゃないけど……。
「出来る限り頑張るよ。……聖女様の事──丸投げしてごめんね……」
「気にしなくていいよ……やれるだけしてくるさ……」
気がつけば──
ギャンブル都市『キンブリー』のトップにいる俺……。
名前だけだが……。
本当やれる事しかしないよ?
「またまたぁ〜エルの事だから、きっと解決しちゃうでしょ?」
いや、何言ってんの?! 無理に決まってるじゃないか!
しかも難易度の高いダンジョンに潜らなきゃならないし、何より──
危険な存在なんか復活してたら即逃げだよ!
「……まぁ、なるようになるさ……それより──フロー……何で女装なんかしてるの? まさかそっちの趣味?」
──痛っ!?
何事!?
強烈な一撃が右横腹に直撃する。
俺はその場で両膝を着き、右手で腹部を押さえる。
犯人は──
ミレーユだった。
何故!?
「エル──その子は女の子よ? 謝罪しなさい」
「──えっ!? お、女の子?」
周りを見ると俺以外が全員頷いていた。
マジ?
俺はフローを再度見る。
確かに女性らしいと言えば女性らしく見える……胸も──あるな……。
「黙っててごめんね……実は僕の名前は──フローティア。女なんだ……女だと誘拐とかされやすいからね……昔、誘拐された時はノアと一緒に助けてくれてありがとね……ノアの事は残念だったけど……。でも今回は僕だけじゃなくて──街まで救ってくれた……感謝しかないよ」
……ノアと一緒に助けた?
──……まさか……ノリノリで正義の味方ごっこしてる時か!?
しかも、助ける時はほとんどノアが倒して、最終的に父さん達に事後処理を丸投げした事件だった気がする……。
「……あぁ、あの時の……思い出したよ……」
俺の黒歴史と一緒にね……。
あの頃は英雄になる為に人助けをしまくっていた気がする。しかも、痛い台詞付きで……。
「あの頃と変わらず──エルは優しさを持ったままで安心したよ……台詞はなかったけどね?」
「その事はどうか内密で……」
黒歴史が掘り起こされる気持ちがわかった……これは辛い!
恥ずかしさで胸が張り裂けそうだ!
[破裂しろっ!]
するかっ! でも穴があれば入りたいわっ!
「ふふっ、エルにも弱点があったね。僕はこれからは女らしくするよ。君に少しでも振り向いてもらう為にね?」
この目は……肉食系の目……。
俺はまさかモテているのか!?
「エル──浮気は許さないわよ?」
「ミレーユ、俺は浮気なんかしない!」
ミレーユの言葉に条件反射で言葉を返す。ここ最近こんなのばっかな気がする……お陰でこの言葉が直ぐ出てくるな。
「先の事なんてわからないよ? 僕だけじゃないでしょ?」
フローティアはそう告げた後に視線を周りに向ける。
俺は振り向き見渡すと──
女性陣が肉食系の目をしていた……ミレーユは睨んでるし、フレアはにこにこしているが……。
この雰囲気はなんか怖い……。
確かに前世のラノベみたいにモテると嬉しいなと思う事はある……。
だけど、これはなんか違う気がする!
ミレーユという防波堤が無ければ──
蹂躙されているだろう!
それぐらいの意気込みが目に込められている。
ポンポンッと俺は肩と足を軽く叩かれる。
バラムとシロガネだった……。
そういえばこいつら浮気しようとしたんだっけ……。
そして奥さんや娘さんさんから命狙われてるんだったよな?
こいつらの表情を読み取るに──
『ようこそこちら側へ』
と言っている気がする……。
ミレーユに氷漬けにされる未来が脳裏をよぎる。
絶対、そうならないようにしなければ!
母さんも『父さんみたいな事したらちょん切られるわよ?』と言っていた……。
ナニをちょん切られるかは予想がつく。
だが、もし仮に過ちが起こったら──
俺は終わるかもしれない……男として……。
しかしっ!
俺はバラムとシロガネのようにはならないっ!
そう固く決意する。
「さぁ、今は神域を何とかする為に出発だ! フローティアも頑張れよ!」
俺は何事もなかったように振る舞いキンブリーを後にした。
このキンブリーでは色々あった……。
再会──
親友の死──
街のトップ──
英雄──
悪魔に取り憑かれて……。
挙句の果てに聖女が奴隷……。
トラブルばかりだったし、今もトラブルに巻き込まれている……。
だげど、俺は──
俺の出来る事をするだけだ。
さぁ、行こうッ!
この性癖の歪んだ聖女を何とかする為に!
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