第93話 聖女様現る!

 とりあえず、隣の部屋にお客がいると言っていたな……誰だろう?


 もう、正直疲れたんだけど?


 待たせてるみたいだから行かないとだな……。


「ちょっと行ってくるわ。皆は休んでおいて……バラムで神経すり減ったでしょ?」


 皆異論は無いようで待ってくれるみたいだ。




 俺は隣の部屋に入る──


 すると2人がソファーに座っていた。


 1人はフロー、もう1人は──


 がいた。


 そういえばミレーユから発見したと聞いていたな……。きっとフローが身元引受人みたいなものなのだろう。


 今代の聖女様は白髪、茶色い瞳で白い服装を基調とした服装を身にまとっている。胸とか服が張り裂けんばかりに大きい。


 見た人は全員が美人と言うだろう容姿だ。


 一度だけ母さんが教会本部に行った時に見た事がある。


 その頃は内気な華奢な子で胸も全く無かった。まぁ子供だったしね。


 名前は確か──


『エレノア』さんだったはずだ。


 俺とエレノアさんの視線が交差する。


 何故か潤んだ瞳で見られているのだが……。


 昨日セリアさんの事があったばかりだ……慎重に行こうと思う。


「あぁ、エル様──私の騎士様っ! お待ちしておりました!」


 ……エレノアさんは何を言っているんだろうか?


 俺はフローに視線で訴える。


 何故か両手を合わせている。


 うん、また厄介事の臭いしかしない。


 さっきからトラブル多すぎるだろ……。


「いや、俺は貴女の騎士ではありません。そもそもは教会所属ではありませんので。エレノアさんは何故ここに?」


「……」


 何故黙る!?


「フロー説明を……」


「僕の受け持つレース場に……いたらしく……保護したみたいな感じかな?」


 何故そんなに歯切れが悪い……。


 ん? エレノアさんをよく見ると──


 何か胸辺りに見えるぞ?


 決してエロい意味で言っているわけじゃない。


 最近見慣れているが立っているせいか、ちらちら見えているのだ。


 ますます嫌な予感がするぞ?


「フロー……エレノアさん……奴隷じゃないよね?」


 びくっとするフロー。


 もう、その態度で確認する必要が無いぐらいだ。


 何故奴隷になっているんだろうか……。


「陰謀によって奴隷にされました……こんな事──神はお許しになりません! 神は言いました! エル様が私を救って下さると……」


 その場で正座をして祈りながら俺を見るエレノアさん。


 俺はフローに視線を移す。


 フローは健全な運営をしていると聞いているのだが……。


 フローは両手を使い、全力で違うと合図をしている。


 どういう事だろうか……。


「フロー説明してくれない?」


「気が付いたら……僕の系列のお店で多額の借金をしてレースに注ぎ込んでいたんだ……そこを何も知らない従業員が奴隷に落とした後に『聖女と名乗る者がいる』と報告が入ってね……名前が聖女様だったから半信半疑で確かめに行ったら──いたんだ……」


 なんだそれ……。


 このフローの視線は──


「君しか頼れないんだ! こんなのバレたら国際問題だよ! なんとかして!」


 と言っているような気がする……。


「……それはご愁傷様です」


「エル頼むよ……君の手にこの街の命運はかかっているんだ……君がこの街のトップになったんだよ?」


 そういえば俺、2人分の三光の財産持ってるから──この街の支配者的な位置にいるんだった……忘れてた……これ他人事じゃないな……。


 俺もなんとかしてあげたい……だが、残念ながら俺にも出来る事と出来ない事があるんだが?!


 これって、普通に奴隷紋を解除したら丸く収まるんじゃないかな?


「これ『解除』したら問題ないよね?」


「いや……既に手遅れなんだよ……」


「なんで?」


「僕の情報網によると──既に『六聖』にバレてる……」


【叡智】さぁぁんっ!


[離れた所でこちらを監視していますよ]


 ガハッ……。


「なんでバレてるの!? というか手遅れの案件とかどうにもならないじゃん!?」


 いや、『六聖』にバレてる上に監視されてるって……どうすんのさ!


「そうなんだよ……僕も最近知ったから……このままだと戦争だよ……」


 頭を抱えるフロー。


 しかし、何でまたで問題が来るかな?


 もうお腹いっぱいだよ!



 ──そうだ、バラムならなんとかしてくれるかも。


「ボス──お呼びでしょうか?」


「おわっ!? まだ呼んでないけど!?」


「執事たる者はこれぐらい察しなければなりません。──ふむふむ、今代の聖女絡みですな?」


「そうだ。なんとかならないかな?」


「簡単ですね」


 片眼鏡をくいっと上げて言うバラム。


 さすが策略に長けた悪魔だ! 頼りになるっ!


「どうすれば良い!?」


 バラムは外を見て呟く──


「サーチ&デストロイです」


 きっと視線の先に『六聖』がいるのだろう。確かに強い気配がこの先にあるからね。


「……」


 それよりも……こいつ──本当に策略に長けているのか?


 いきなり実力行使の提案してきたんですけど!?


 いや、元々俺が前世での知識を当て嵌めただけで──この世界の悪魔は脳筋なのかもしれないな。


「──まぁ、正直私も何も聞いていませんのでなんとも言えません」


 なら初めからそう言えよ!


 エレノアさんってそういえば何でキンブリーにいるんだ?


「エレノアさん、ここにしに来たんですか?」


「……」


「借金を返済して奴隷から救ってあげる事は出来ますよ? そして、今回の件について国に帰って説明してきて下さい。戦争になるのは望んでいないでしょ?」


 もう、俺が出来る事なんてこれぐらいしかない。


「嫌です! それに戦争にはなりません」


 なんで!? というか、戦争にならない理由がある??


 やっぱり、これ他に目的とかあるんじゃなかろうか?


「エレノアさん、せめてここに来た理由ぐらい教えてくれませんか?」


「わ、わかりました。【信託】スキルの啓示通りに行動しました」


【信託】スキルというと──神様から予言とか助言とかされるスキルだと聞いている。


 このスキルは代々聖女様が必ず持っている。


 当然ながら母さんも


 過去形なのは、『洗礼』を行うと次代の聖女にスキルが移るからだ。


 母さんは『』の時にオーランドを拠点にしたと言っていた気がする。


 これがもし『信託』のせいであるなら、両親を死なせるような存在を信じるのは嫌だな。


 エレノアさんは『信託』に従ったと言っている。


 きっとろくな事じゃないだろうな……。



 俺は天井を見上げながら憂鬱な気分でエレノアさんの懺悔のような言葉を聞いていく──

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