第89話 セリアの想い

 〜セリア視点〜



 キンブリーではある噂があった……。


 その噂とは元々、複数人の有権者がいたが、その中の3人が頭角を現し、を持ち始めていると。


 その危険性の確認を、たまたま近くにいた私とノアは母国からを受けて調査に来たのが始まりだった。


 そこから私達の歯車は狂ってしまった……。


 まだ成人したばかりのノアはギャンブルに興味を持つ。


 何事も経験だろうと遊ばせている内に私は情報収集を行った。


 三光であるゴウキとサガンは結託し、強い奴隷を量産していると裏が取れた。


 依頼の内容はおそらくこれの事だろうとノアと共に報告に向かう為に迎えに行くと──


 ノアはサガンが経営するカジノから借金を背負わされていた。その金額は白金貨1枚。


 当然ながらそんな手持ちは無い為、支払う事が出来ないノアは奴隷落ちとなっていた。


 私は何をしているんだと叱咤した。


 そして、私はゴウキに脅される。


「そこの坊主は既に俺の所有物だ。だが──お前が借金を肩代わりすれば──俺の闘技場で2人共戦ってもらう。勝ち続ければ借金の天引きをして解放してやろう。なぁ? スパイさん?」


 そう言われた。


 私の行動は筒抜けだった。


 そして同時に理解した。こうやって武力を集めて、嵌めて来たのだと。


 三光に嵌められた時、私に残された道は闘技場で勝ち続けてノアと共に解放されるか、奴隷として売られるかのどちらかだった。


 もちろん私はノアの為に戦士らしく戦って死ぬ事を選んだ。


 どちらにせよ奴隷にはなってしまったが……。


 ノアはしばらくすると闘技場での戦いで死亡したと伝えられる。


 その時に血塗れになったネックレスを渡される──それは間違いなく、親友から貰ったと言われた事のある『結界』の魔道具だった。


 唯一の家族であるノアが死んだと聞いて久しぶりに涙を流した。


 ネックレスを見ながらアランさんの息子を思い出す。


 英雄の夢を見たノアは親友である錆と呼ばれたエルから初代オーガストの墓に行った事を聞いて──行きたいと言っていた。



 だが、弟はもういない……。


 けれども、墓ぐらいは初代オーガストの所に作ってやりたい──そう思った。


 そこからはもうほとんど覚えていない。毎日勝ち続ける事しか考えなかったから。


 戦闘奴隷として入ってくる強者達を私は殺し続ける──


 途中、ゴウキから部下にならないかと提案があったが当然断る。



 そして、ある日、監視付きで気分転換に街を歩いていると──


 がいた。


 試合の時間になり、ゴウキの手の者に遮られてしまったが、懐かしい気分になった。


 ノアの親友──せめてノアと同じようにならないようにと願いながらその場を去る。



 別の日にまた錆と再会する。


 今度は私を買い取ると言う。


 しかし、私も後2勝で解放される。そう思ってその提案は断った。


 錆は奥歯を噛み締めていたが、きっと奴隷である私の体を好き勝手したかったのだろうと思った。


 男などそんなものだ。



 そして──


 解放を賭けた一戦を迎える。


 体調は最悪だ。


 思考する事を辞めてしまった私は毒を気付かずに盛られたようだった。


 自分の情けなさに笑えてくる。


 ノアの墓は作れそうに無い。


 私はここで間違いなく死ぬだろう。


 せめて──


 ゴウキに一泡吐かせたい。


 そう思いながら私の戦場に行く──


 相手は最悪な事にゴウキの私兵で一番強い者だった。


 私を生かすつもりは一切無い──そう感じた。


 私はゴウキを睨み付けるとその横には『天眼』様がいた。


 いつまで経っても連絡の無い私に痺れを切らしたのかもしれない。


 今となってはどうでも良いと思った。



 戦闘は開始する。


 毒に侵され体力が削られている私は最初から飛ばすしかない。


 万全の状態であれば勝てるであろう相手も今の私では一太刀浴びせるのが限界だろう。


 私は気合いを入れる──


 すると、何故か状態になった気がした。


 ノアが応援してくれている──


 そう思って私は攻撃していくが──


 毒により案の定、私は思い通りに体が動かなくなっていく。


 技を使おうにも体力的に限界──そう思っていると再度力が溢れてくる。


 この軌跡のような現象をありがたく受け取り。


 私独自の技を放つ。


 敵は激しい動きに毒が比例して回っていく事に気付き、中距離の攻撃に切り替える。


 もう私の攻撃は届かない──そう諦めの思考になっていると──


「セリアさんっ! 貴女の力はこんなもんじゃないだろっ! ノアは貴女の敗北は望んでなんか無いッ!! ノアの代わりに俺が『応援』するッ!!」


 錆の声が聞こえてきた。


 それと同時にまたが溢れてくる。


 ノアが錆といるとと言っていた意味がわかった気がした。


 錆──いや、エルは私を買い取って──本気で助けようとしてくれていた事がこの時なんとなくわかった。


 血反吐を吐きながらも応援する姿に嘘偽りはない。


 あの時、手は取れなかった──けれど、この時はありがたく受け取った。


 お陰で私は必殺技を使い──相手を撃破した。



 死ぬだろうと思った私の命はエルの手によって救われる。


 本当に『銀翼』の名に恥じない男になったと思った。キャロルさんを思い出させてくれる包容力は私を安心させてくれる。


 しかもそれだけじゃない──『銀翼』を思い出させてくれる程の戦力でゴウキが放ってくる敵を殲滅していく。


 この時、最近街に出る度に聞く『白銀の誓い』はエルのパーティだと理解した。


 とても強いパーティだ。


 敵を殲滅したと思ったら──



 魔人となったノアが現れた。


 色黒になっているが間違いなくノアだった。


 ただし──正気は保っていなかった。


『天眼』様のはこの事だとこの時わかった。


 そして、ノアは殺される……その事も同時に理解した。


 だけど、この時の私にはどうする事も出来なかった。


 代わりに動いてくれたのはエルだ。


『天眼』様を相手取り、一歩も引けを取らぬ立ち回りをし──一太刀を浴びせてノアの前に立つ。


 これだけでも驚愕に値する……魔帝国最強は伊達じゃない。私でも一太刀浴びせられるかと言えば──無理だろう。


 それにエルは魔法が使えなかったはずだ……あの武器はいったい?


 決して強いとは言えなかったエルがアランさんとは違う強さを見せてくれる。



 ノアとエルは対峙する。


 2人はかつての子供の頃のように戯れあっているように私には見えた。


 そして──


 エルが見せてくれたアランさんの技によりノアは目を覚ます。


 けれども──


 手遅れだった……。



 私は死んだと聞いたノアの声が最後に聞けただけでも十分だった。


 ノアの最後の笑顔を見れて本当に嬉しかった。


 私では何も出来ずに終わっていた。


 エルには感謝しかない。


 エルがノアを殺す事も異論はなかった。


 せめて親友であるエルの手で人の内に殺して欲しい──そう思った。


 エルの視線に私は頷いて応える。


 最後はエルが泣きながらもあり得ない火力で塵も残さずにノアを火葬してくれた。


 周りの被害も『天眼』様の力によって皆無。



 観客席にいた客は大歓声を上げていた。



 あれが──


 かつての錆や泥と言われた英雄の子か……。


 さすがはアランさんの息子だ。


 というか──あいつ強くなり過ぎだろ……。


『銀翼』がなくなった時に最後に聞いた噂は──



『英雄パーティから見放された塵は塵らしく生きている』


 ──だった。


 しかし、『天眼』様やノアとの戦闘を見る限り──かつての『銀翼』にいてもおかしくないぐらい強くなっている。



『白銀の誓い』か……あの中にノアがもう入らないと思うと切なさが私を襲う。


 ノア──


 これから私は最愛の弟の為に腕まで無くしたエルの腕の代わりになりたいと思う。


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