幕間
第88話 フローティアの想い
〜フロー視点〜
僕の名前はフロー──
いや、私の名前はフローティア。
実は女性なんだよね。
エルは僕の事を覚えてないっぽい……それはそうだろう……。
今は男っぽい格好と口調で過ごしているんだから。
理由は簡単。
昔──お父さんの取引先について行った時に誘拐に合った事があったからだ。
エルに助けられたのもこの時だったりする。
攫われた後に言う事を聞かない僕を大人達は殴り蹴り──両手、両足を折り、傷だらけにした。
そして最後を迎える──そう思った時にエルが──
「父さんを待ってられるかっ! 悪は許さんっ! この未来の英雄がぶっ倒すっ!」
と言いながら堂々と男の子が2人で現れる。
もう1人は──ノアと呼ばれる男の子だった。
当時、私達は10歳だったと思う。
それなのに──
エル達は大人顔負けの強さでどんどん倒して行く。
実際の所、エルはあまり倒してなかった……ほとんどがノアと呼ばれる男の子が倒していたけど。
エルは【結界魔法】や【援護魔法】を使いながら指示を出していただけだったりする。
気付けば僕はエルに【回復魔法】をかけてもらい、片手を引かれて立たされていた。
「無事かな?」
【回復魔法】を使いながら僕を気遣ってくれる──そんなエルに胸はぎゅっとなる。
これが一目惚れという奴だと後で知った。
その後にエルのご両親がやって来て、僕は親の元に帰してもらえた。
それが英雄パーティ『銀翼』だと知ったのは別れてからだ。
それからずっと──エルの事ばかり考えていた。
僕の家は他よりも裕福で親はキンブリーと言われる街の有権者だ。
ある程度、自分が好きに出来るお金が出来ると──居ても立っても居られなくなって情報屋から情報を仕入れる事にした。
けれども、その頃には『銀翼』は既になくなり、エルは除名されていた。
そして、『英雄に見捨てられたゴミ』と噂されていた……。
僕はそんな情報は全く信じなかった。
父さんも僕を助けてくれた人を信じたら良いと言ってくれた。
エルは僕の中では既に英雄だ。
噂なんかに惑わされない。
ずっと信じた。
気がつくと僕は三光と呼ばれるキンブリーでトップ3人の内1人になっていた。
これも成り行きでなった……父さんが上り詰めた地位をそのまま僕が継いだだけだ。
そのお父さんは既に殺されている。
次は僕の番だろう……そう思って日々を過ごしていた。
すると──
情報屋からエルの新しい情報が入る。
エルはオーランド王都で英雄になっていたという情報だ。
さらに続けて、魔人を討伐したとか、フェンリルを従えたとか、料理の革命を起こしたとか色々と情報が入ってくる。
僕の信じた英雄は──
やっぱり英雄だった。
でも、もうすぐ僕は殺される──
そう思って護衛達と街をふらふらしていると、切羽詰まった顔をした衛兵が慌ただしく走っている姿を見かける。
僕は声をかけると、フェンリルらしき魔物を連れた冒険者がやってきたと聞いた。
僕は間違いなくエルだと確信し、僕が行く事を伝えて貰い、詰所まで向かう。
到着すると──
成長したエルの姿があった。
ずっと会いたかった人を目の前にして、抱きしめたい衝動が襲うけど、それを抑えながらも平静を保ちながら話して行く。
エルは僕の事を覚えていなかったように見えたのが少し寂しかった……でも女の子の面影がなくなってしまったのだから仕方ないとも思った。
少しばかり話をして僕とエルは友達になれた。
有頂天になった僕はその日は眠れなかった。
しばらく日が経つと──
三光の1人であるサガンが失脚し、エルが新しい三光になったと聞いた──
内容はカードゲームで全財産を賭けるという──正直、目を疑うような話だった……。
サガンはあらゆるイカサマの達人で人を騙して成り上がった畜生だ。スキルも駆使する為に誰もイカサマを見抜けない。
あいつを勝負をする所まで引きずり出す事も、カードゲームで勝つ事も凄い手腕だと思った。
僕は後日会いに行くと、利権を全て譲るからよろしくと言われた。
恩人の頼みは聞いてあげたいけど──
その内、殺されてしまう可能性がある僕が利権を持っていると残り1人の三光であるゴウキが間違いなく行動に移してしまう。
その事を伝えるとエルは──
ゴウキをなんとかすると言う……。
そんな簡単に言ってしまうエルを見ていると後先考えていなかったあの頃を思い出す。
そこからの行動も凄かった。
ゴウキの闘技場に対して最大限の嫌がらせをした上で、かつて助けてくれた1人であるノアのお姉さんを助ける為に行動する。
計画が上手く行かないゴウキは持てる戦力でエル達を襲うが──
エルのパーティ『白銀の誓い』はとんでもなく強かった……この街で間違いなく最強の武力を保持するゴウキの私兵はあっという間にやられ──
魔人となったノアが現れる。
ゴウキの非道な計画の被害者だと後で知った。
かつての明るい感じの面影は全く無く、エルはどうするのだろう? そう思った。
エルは強くない──そう聞いていた。
けれど、エルは自分が決着をつけるべくノアと相対する為に『天眼』と呼ばれる魔帝国の猛者相手に圧倒する。
そして──
かつての友であるノアと相対したエルは苦しそうな顔で斬り刻んで行くが、決め手に欠けていた。
だけど、最後の一撃は見る者を圧倒する光景だった。
凄まじい速度で繰り出される技は英雄アランさんの二つ名ある【流星】を思い起こしてくれる。
正気に戻ったノアの願いにエルは応える為に見た事のない武器を使って跡形も無く消し去った。
苦しそうなエルに涙が溢れる。
かつての友を殺す──
その事がどれだけエルを傷付けただろう……。
昔より強くなったエル──
これからもきっと傷付きながらも自分の道を歩み続けるのかもしれない。
僕も──
いえ、私も自分の出来る事をやろうと思う。
これからは私も私らしく女性として生きる──
私の恋心は叶わないかもしれない……けれども彼をサポートしたい。
自分に真っ直ぐな彼はこれからも困難が待ち受けるに違いない。
この街が足枷になるのなら私が全てを背負うっ!
それが昔と今を救ってくれた事に対する誠意。
ちなみにゴウキやサガンの報復が怖かったけど──
それ以降、音沙汰ななかった……。
部下の情報によると殺されたのではないかと曖昧な報告を受けた。
相当恨みを買っていた連中だ……それも十分にあり得ると納得した──
さて……まずはこの目の前にいる──
女性をどうにしかしないと……。
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