第87話 俺の力?
目が覚めると──
最近寝泊まりしていた屋敷だった。
起き上がるとミレーユがおり、目が合う。
「起きたわね?」
「あぁ、起きたよ」
「三日も目を覚まさないから心配したわ……」
「そんなに寝てたのか……迷惑かけてごめん……」
俺は自分の体調を確かめる。
右手が無い以外は完全回復している。
そういえば、ノアからスキルを託されたんだったな……。
おそらく──【再生】スキルだろう。
ノアの忘れ形見だ。
「ノアは残念だったわ……」
「そう……だね……セリアさんに謝らないと……」
「セリアは気にしなくて良いと言っていたわ。彼女も事情ぐらいはわかっているもの……今は休みなさい」
「そう……か……でも一度しっかり謝るよ……ごめん、今は1人になりたい……」
「嫌よ」
「……何で?」
「酷い顔よ? 1人にしたらどこかに行っちゃいそうなぐらい……」
「……」
そんなに酷い顔なのだろうか?
確かに気分は相当落ち込んではいるけど……。
「エル……頑張ったわね……」
ふいに頭を撫でてくるミレーユ。
「うん……頑張ったよ……けど──本当にこれで良かったのかな?」
「──胸を張りなさい。1番の最善だったわ……ノアにとってもね?」
「本当に?」
「少なくとも私達はそう思っているわ。それに、あの時あの場にいた人達はエルの事を『英雄』と言っていたわ」
「英雄──か……」
俺は──
いつか英雄になりたいと思って子供の頃に目指した時期があった。
何故目指したのだろう?
父さんが英雄だったから?
オーガストの系譜だから?
強くなりたかったから?
守る力が欲しかったから?
周りからちやほやされたいから?
わからない……強くなれないと諦めた英雄……。
そして、現在は初代から強くなれる可能性を教えてもらい訓練し──今は見知らぬ人達に英雄と言われているとミレーユから聞いた……。
だけど、少なくとも魔人になった親友を殺す為に強くなりたいと思ったわけじゃないし、英雄になりたくてやったわけじゃない──
『英雄は自分で決めるものじゃない……周りが決める』
ふと初代が俺の思考の最中に入ってくる。
初代……これが英雄であるなら──
俺にはやはり向いてないよ……。
こんなものは仮初だ。
『別にお前が見ず知らずの人の英雄でいなくていいだろ? お前が受け入れてくれる人達の為に頑張れば良い。そうすれば──その人達にとっては仮初の英雄じゃない。ありのままでいけ。少なくとも俺はそうしていた。世間的な英雄なんてものはなれなくても問題なんかない。お前が何の為に何を為すのかが大事だ』
何の為に何を為すか──か……。
良し! 決めたっ!
初代、俺──墓に行けるようになる為に、もっと強くなるよ!
それがノアに対する償いだから──
『あぁ、楽しみに待っている。あそこに1人で来れるようになれば──お前は間違いなく、強者の1人だ』
最強は無理でも高見を目指すよ。もう俺は折れない──
ただ、あそこに1人で行く自信は今の所無いな……。
「ミレーユ……俺は世間的な英雄に興味は無い。俺はミレーユ達が認めてくれるならそれで良い。だから今のままで行く。そして、ノアの墓はいつか初代オーガストの岬に作るよ。強くなって必ずあそこに辿り着く」
「エルなら出来るわ。必ず、アランみたいになれる……あの最後の技はアランも使っていたわ」
父さんが?
「父さんってそんな技なんか使ってたの?」
「え?? エルは見た事ないの? むしろ何でエルが知らない技を使えたのかしら?」
「……初代が教えてくれた……」
「……」
沈黙が支配する。
ミレーユはジト目を向けている。
正直に言っただけなのに……。そういえば取り憑かれている事言ってなかったな……。
「……ミレーユ」
「何かしら?」
「俺さ……初代に取り憑かれてるんだよ」
「……早く浄化しましょう……間違いなく呪われてるわ。それにエルが寝てる間に『聖女』は見つかったわよ。呼んでくるわ──」
「ちょ、ちょっと待って! 浄化したら俺死ぬんだよ!」
瘴気抑えてくれてるから! まぁ、聖女様でも浄化出来ないと思うけど……。
「……何でなのかしら?」
俺は初代と出会ってからの経緯を話す──
俺が瘴気に侵されている事もやその進行を抑えてくれている事も。
『型』についても──
「……なるほどね……これで謎が解けたわ……エルが急に『型』を使える事のね……けれど、それと同時にエルが凄い事もよくわかったわ……」
「俺が凄い? 凄いのは初代だよ」
「……エルの話を聞くに──全て一度しか教えてもらってないんでしょ? 構えだけならまだしも魔力を使った『型』は才能と努力が無いと出来ないのよ? 数種類使える方が異常なのよ?」
そうなの??
普通に使えてたんだけど……。
「それに──スキルも無いのにあの強さ……既にAランクはあるかもしれないわね……これでスキルさえあれば伝説の再来よ?」
俺ってそんなに凄い事してたのか……でも攻撃スキル無いしな……それに伝説は言い過ぎかな?
他の人で型を使っている人はいる。
「【援護魔法】を自分に使ってるだけだよ。攻撃スキルは無いから伝説の再来にはならないかな?」
『いや、なれるだろ……』
初代が何か世迷言を言っている。
「とりあえず、その初代の話は私だけしか知らないのかしら?」
「そうだね。話したのは初めてだよ」
「なら──2人の秘密ね?」
ミレーユはウインクをしながら俺の横に寄り添う。
「そうだね。俺とミレーユだけの秘密だ。瘴気の事も心配させたくないから黙っておいて欲しい」
「夫婦になるんですもの。当然よ?」
とても良い笑顔だ。
早く夫婦になりたいな。
落ち込んだ気分も大分マシになって来たな。
そういえば聖女様が見つかったって言っていたな。
後で聞いて会ってみよう。
ミレーユのお陰で気が少し楽になったよ……。
「ありがとう──」
「どういたしまして」
「ミレーユ……胸借りていい?」
「──来なさい。一人で背負わなくていいわ。私──いえ、皆で乗り越えていきましょう? こういう時男の人は抱くと落ち着くって言うわよ? 虚無感や寂しさを紛らわせるには温もりが必要よ」
ミレーユは俺の頭を胸に押し付けて抱きしめてくれる。
俺はそのまま抱きしめ返して顔を上げてミレーユを見つめる。
「いいの?」
「恋人同士なのよ? それに結婚もするんだし気にしなくていいわよ?」
俺は──
温もりを求めて──
ミレーユをベットに押し倒すと──
ガチャっと扉が開かれる音がした。
「お兄ちゃんっ! やっぱり目が覚めたのです!」
「「えっ!?」」
まさかのフレア登場で俺とミレーユは固まる。
「……これはあれなのですね! この間聞いた──『お楽しみ中ですね』って奴なのです!」
誰だフレアにそんな事吹き込んだのは!
「……フレア……これは元気の無いお兄ちゃんをミレーユが慰めてくれてただけなんだぞ?」
「そうなのです? クロムが前に『兄貴はハーレム野郎だからずっと夜もお楽しみなんだろうな』って言ってたのです。添い寝がお楽しみなのです!?」
クロム……恩を仇で返すとは……今度会ったら絶対にボコる!
「そうそう、ミレーユに添い寝してもらってたんだよ? それと、俺はミレーユ以外とこんな事はしないからね? クロムは嘘吐きだから信じたらダメだぞ?」
「わかったのです! 皆に目が覚めた事を伝えてくるのです!」
そう言い残し、部屋から出るフレア。
「「……」」
俺とミレーユは視線を合わせて安堵する。
フレア──タイミングが悪い!
「必ず──今度するわよ?」
「……はい」
ミレーユの発言には有無を言わせない迫力があった……。
「本当だ! 目が覚めてる!」
「心配したわよ?」
「これでアメリア様に安心して報告出来ます……」
カレンさん、メリルさん、ミリーさんの順で声をかけてくれる。
「心配かけてごめん。そして、皆ありがとう──」
皆、笑顔で応えるくれる。
さぁ、これからやる事はたくさんあるだろうな……。
────────────
4章終わりになります。
幕間を3話程挟む予定です。
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