第84話 今の俺なら──
考えろ、考えろ、考えろ──
俺はどうすれば良い──
既に【叡智】、初代、『天眼』からは治せないと聞かされている。
長生きしてる人や、物知りな【叡智】がそう言うならそうなんだろう──
何が最善だ!?
いや、何が最悪だ?!
起こるべき最悪は──
ノアが暴れまわって殺戮と破壊を行う事だ──
今はシロガネのお陰で被害はそんなに出ていない。
シロガネの攻撃を受けてもノアは即座に再生している。
まだ時間は稼げるだろう。
今のノアを見ていると人が魔人になると『魔法』だけでなく、『スキル』も使えるという事だろう。
ノアは人では珍しい【再生】スキル持ちだ。これで生き残ったに違いない。
以前のなり損ないは瘴気を吸収して再生していたが、人工の場合はそれが無理なのかもしれない。
せめて──自我が残っていれば……。
セリアさんの痛々しい声が俺の胸に突き刺さる。
ずっと涙を流しながら声をかけている。
姉であるセリアさんの声が届かない──本当に手遅れなんだろう……。
『天眼』は適性者と言った。つまり瘴気に適性出来ている事を言っていたのではないだろうか?
自我がある=適性者
であるならば、俺が意地でも目を覚まさせてやるっ!
全ての望みをそこに賭けるしかないッ!
これは、俺のギャンブルだ──
『天眼』に邪魔などさせないっ!
「──決断は出来たか?」
──!?
俺の背後から聞こえて来たのは『天眼』の声だった。
ミレーユとメリルさんは──
地面に這いつくばっていた。
この2人が短時間でやられるなんて……やはり父さん並の化け物か……。
「あぁ、決まったよ。あいつの目を覚まさせる──」
「甘い──甘すぎる──何故殺そうとしない? 覚悟が無いか? それでも英雄の末裔か? お前の父親はそんな曖昧な事は言わなかったぞ?」
「父さんは父さん──俺は俺だ! 親友の為に俺は必ず目を覚まさせるっ! 邪魔をするなっ! ゴウキでも捕まえてろよ!」
「お前じゃ、あれに勝てん。魔人よりは劣る物の──お前ら全員じゃないと勝てん……。一番弱いお前に何が出来る? それにゴウキなど後でどうとでも出来る」
「俺は『応援』する事が出来る──『天眼』──今はお前の方が強いかもしれないが今だけだ。俺達は必ず──お前を──いや、父さん達を超えるっ!」
「ふむ、ならばわしに一撃でも当てれたら──お前に相手をさせてやろう。出来ればな?」
「丁度いい。仲間を傷付けた礼をしてやる──」
俺は【応援】の『全強化』と『身体強化魔法』の重ね掛けを行い、魔弾銃を両手に持ち──『防御重視の型』の『円』を行う。
「ほぅ……さすがは末裔……アランは出来ておらんかったのにお前は多少物にしているな。だが──地力が違いすぎる──」
音速を超える魔力弾を連射するも、片手で弾いている。
気がつくと『円』の背後に気配がした。
俺は即座に半身になり避ける──
そのにあったのはもう片方の『天眼』の腕があった。
これは前にやられた『転移攻撃』か……この予測不可能な攻撃に2人ともやられたのか?
「ふむ、多少は使いこなせているな……」
「そりゃーどうも。お礼にこれでも喰らえ──」
頑丈に強化したスワロウを出し、『天眼』に向けて放つ──
弾丸はミレーユの込めてくれた【氷結魔法】だが、1発ぐらいで強化した銃は壊れないはずだ。
ダイヤモンドダストが軌跡を描き、通る周囲を凍らせて行く──
対する『天眼』は目の前に亜空間を作り、攻撃を無効化する。
効果無しか……。
「それで終わりか? なら──」
──瞬時に背後に立つ『天眼』──
「眠れ。起きた頃には全て終わらせる──」
こんなとこで俺は終われないっ!
「むっ、動けん」
俺は【念動】スキルで『天眼』を固定し、『魔札』をありったけ貼り付ける──
「──これでも喰らえっ!」
全ての『魔札』を使い切る──
これならそれなりにダメージを──
「中々厄介なスキルを使う……だけど、あれぐらいじゃまだ足りない──」
「だと、思ったよ……『極』【全強化《オーバードライブ》】──これが俺の全力だっ!」
「今更、剣か……児戯に等しい──!?」
動きが急に変わった俺に『天眼』の言葉は止まる。
なんせ、『身体強化魔法』の1.3倍、【応援】の1.5倍の『身体強化』、『部分強化』、『全強化』の全ての重ね掛けだ。
その倍率は約4.3倍──
今の俺なら、渡り合えるはず──
【疾走】【天駆】【縮地】を織り交ぜながら使い、緩急をつけて翻弄させる。
「【神速】持ちか!? いや、幼な子が使っていたはず──これはいったい!?」
「さぁね? ノアの所に俺は行かせてもらう──」
俺は抜剣の構えで『線』を発動しながら駆け出す──
高速ですれ違い、なんとか剣を『天眼』の目に巻かれている包帯を切断する事に成功する。
「……やるじゃないか……さすがオーガスト様の末裔……周りの被害ぐらいは抑えてやる。全力で行ってこい──出来れば、彼に安息を……」
そんな声が後ろから聞こえて来るが、今はそれよりもノアだ。一太刀浴びせた以上はもう邪魔はされないだろう。
俺は全力でノアの元に向かう──
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